日本医学会分科会利益相反会議

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議事要旨

第4回日本医学会分科会利益相反会議

総合討論Q&A

総合討論の質問、応答は下記のとおり。

曽根委員長:午後3時15分になりましたので、後半の総合討論に移ります。
 日本医学会のCOIマネージメントに関するガイドラインについての再確認です。本日、提出した改定案について、12月25日までに各分科会でご検討いただき、ご意見、あるいはご質問を事務局にお寄せください。
 その後の作業として、日本医学会利益相反委員会にて、いろいろなご意見をとりまとめて、今回の改定案に加えるかどうか検討させていただきます。委員会で改定案を承認後、第81回日本医学会定例評議員会が平成26年2月19日に開催されますので、改定案はそこで最終的に承認されることになります。
 先ほど苛原先生から説明された全国医学部長病院長会議公表のCOIガイドラインと日本医学会のCOIガイドラインとは内容的に整合性がなされていますが、分科会としてのコメントあるいは提案などをお願いしたいと思います。
 後半はスピーカーの先生方に前方に座っていただきますので、ぜひともご質問いただき、医学研究にかかるCOI状態をいかにマネージメントすべきかという点について議論をお願いしたいと思います。その際、質問される方は分科会名とお名前を仰って下さい。本日はオブザーバーの方もかなり出席されていますが、この会議は日本医学会の利益相反会議ですので、ご質問は分科会の先生方を優先とさせていただきます。
 先ほど各演者からそれぞれの立場でご説明、ご提案あるいは問題点についてご報告いただきました。今回、バルサルタン臨床研究事案の発生を契機に臨床研究におけるアカデミアと企業との連携の在り方についてもいろいろな課題が見えてきました。1つは臨床研究実施体制の問題、そして実施する研究代表者の管理能力の問題、また研究不正という意味で、倫理性の問題、そしてCOI申告のマネージメントの問題があったと思います。
 もう1つ重要な点は、違反した研究者に対する懲罰規定がない。違反者が辞職するとか退職するとかすると、それで「終わり」ということになり、どのように対応措置するか、非常に重要ではないかと思います。治験の場合には薬事法が違反者に適用され、法律的に罰せられますが、倫理とかCOIマネージメントでは、そういう法的措置はありません。それでは違反者に対してどう対応するか、という課題があります。
 次に、研究者主導の臨床研究はその資金がなかなか確保できない。先ほどお話がありましたように、厚労省の調査では過去5年間に24,400件もの臨床研究が実施されています。それらの研究は適切に実施する上で資金的にに妥当性があるのかどうか、研究の質が確保されるのかどうか、検討されるべきと思います。研究資金を寄附金依存とした場合でも、今回のディオバン問題で明らかになったが、寄附金が臨床研究の質を確保するために十分に使われていなかったことも事実であります。
 次に、製薬協からの説明で、スポンサーという概念に関して、スポンサーは個人とか組織とかありますが、資金提供者という意味で、寄附金提供者がスポンサーになるのかどうかという点も、後ほど見解をいただきたいと思います。
 臨床研究を適切に実施していく上で、いろいろな問題が存在しますが、現在の課題は、産官学連携をいかに推進し、医学研究、臨床研究の発展につなげるかが大切で、最終的に新規の診断法、治療法、予防法に結び付けるために、いかに産学連携を推進するかという観点から議論をしていただきたいと思います。
 それから、厚労省の高江慎一厚生労働省医政局研究開発振興課課長補佐のほうから出されました日本版NIHの構想。これも各大学の先生方は、各省庁別の予算が全部一本化されて、そこから配分されるとどのように変わっていくのか。さらに研究不正があったときにどう対応するのかという点についても関心が高く、議論すべき課題です。そういう意味で、COIのマネージメントは研究不正の防止策の一つとして非常に大きな役割を果たすのではないかと思います。
 出席者および演者間でも結構ですが、研究の質と信頼性確保という点で、倫理指針とともにCOIマネージメントは非常に重要という観点から何かご質問はありませんか?どうぞ。

日本眼科学会:日本眼科学会の澤と申しますが、私は最初にペナルティーのほうの質問をさせていただきます。
 私どももペナルティーについては検討いたしました。2つの問題点がありまして、たとえば論文で共著者の1人が意図的に申告せず、それが他から指摘された場合に、その本人は仕方がないにしても、共著者に対してどのようにわれわれは対応できるのかということで、検討しました。それについてはどうにもできないのではないか。もしくはどうやったらよいだろうかということで、ペナルティーに関して保留しております。
 2点目は、指針には今回明確にどのようなペナルティーということが書いてありますけれども、そのペナルティーを決めたときに、結局、地位保全の訴えを起こされたときに、学会として対応できるだけの体力があるのだろうかということがありまして、倫理規定として設けようということで、われわれの学会では、現時点ではペナルティーの項目を入れていません。
 具体的にほかの学会で、このような問題点、この方は申告にミスがあるといった場合に、どのような対応を具体的に考えておられるのか教えていただければ、われわれも今後それをもとに考えていきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

曽根委員長:この問題は非常に重要で、罰則を与えられた会員から地位保全の訴えがあった場合、法的な対応になると思います。日本医学会としては、論文掲載した場合、corresponding authorがすべての責任を取るというように、今回の改定版で記載してあります。
 何故ならば、他施設の共同研究が実施された場合に「まあいいだろう」ということで他施設の共著者のCOI状態を確認せずに該当なしと記載することが結構あります。マスコミから共著者のCOI申告違反について指摘され、問題になったケースがあります。それは避けようと。必ずcorresponding authorはすべてのauthorに対してCOI状態の確認を書面か何かで取るというルールを明確にしています。責任はcorresponding authorということになりますが、実際に違反し、論文の信頼性を著しく損なった場合に、どういう形で処罰するか。もちろん各分科会でルールを決めていただく必要があります。先生が言われた罰則規定を作って違反者を除名、あるいは資格停止としたときに、無効だとの訴えがなされた場合にどうするか、この点について平井先生、コメントをお願いできますか。

平井委員:平井です。これは一般論ですけれども、利益相反でペナルティーがどのように運用されるかというと、まずCOIの委員会が、ある方が研究者についてCOIのマネージメントをして、つまりマネージメントというのはアドバイスですよね。たとえばここの契約はちょっと控えてくださいとか、あるいはこのエクィティについてはこういう処理をしてくださいとか、あるいはこういう問題は申告漏れですから申告してくださいと。これは英語ではenforcementと言いますけれども、そういうenforcementを行うわけです。
 それに対して研究者の方が従わない。つまりCOIについて訂正をしないとか、アドバイスに従わない場合には、その組織体のいわゆるdisciplinary actionということで、内部規定に従って注意がなされる。ペナルティーの種類は、普通は注意から始まって厳重注意、戒告、そのあとにもしかしたら会員資格停止、除名までありますけれども、通常の場合は注意、厳重注意といったところでとまることが多いと思います。
 研究不正行為の場合には、確かに会員資格停止とか除名に至ることもあるとは思いますが、一般論で言えば、利益相反(COI)のほうは、ペナルティーはそこまで考えていないというのが通常だと思います。
 さらに話を進めて、もし研究不正行為があった場合の話をすれば、これは認定されれば当然、学会としては会員資格停止、さらには除名ということもあり得るかもしれませんけれども、おっしゃるように地位保全の問題、あるいは弁護士をつけて対応してくるということも当然ありますので、そのへんはきちんと委員会を作られて、事実関係を究明されて、事実に基づいたご判断をぜひしていただきたいと。くれぐれも疑いとか容疑とか、そういったもので判断すると、そういう法的な紛争に発展するということは十分に考えられると思います。
 以上です。

曽根委員長:よろしいでしょうか。

日本眼科学会:私どものところは、国内は厚労省が定めた利益相反基準に基づいて以前からやっていました。一方で国際誌ではICMJEのフォーマットを使っています。ですから、一応あらかじめ全部出してもらっているわけです。ですから、あらかじめ具体的にどうということは、直してくださいということはないわけです。
 それで、misconductがあった場合、これは結局、先ほど髙江慎一厚生労働省医政局研究開発振興課課長補佐がおっしゃられたように、われわれには調査権がないわけです。それでもって何かの検討を行い、それで決定をした場合には、これは会誌に何らかの形で、たとえ厳重注意であっても出さなければいけないのだと思うのです。
 要するに、どなたかから「この方のCOIマネージメントはおかしい」と言われた場合には、それに対して委員会がどういう結論を出したのかということを出さないといけないと思うのです。それもやはり学会としてのCOIだと思うのです。
 そうした場合に、「この方はこれこれで厳重注意にしました」と出したときに、やはり不服だと言われたときに対応できないだろうと考えています。私は素人なものですから、そうなってしまうのです。

平井委員:最近この問題に対応することが非常に多いので、ちょっと一言言いたいのですが、おっしゃるなかに、COIという言葉とmisconductという言葉を同時に使われましたよね。これが最近の問題として結構多いのです。misconductというのは研究不正行為ですので、これは明らかに故意を持ってデータを操作して、違法行為を行うわけです。ですから、これは違法です。
 COIというのはそうではなくて、真摯に研究をなさっている研究者が、たくさんある利害関係によって、社会からバイアスをかけたのではないかと疑いをかけられかねない状況にあるときに、それをお助けするシステムなのです。COIというのは。これは決してmisuconductをした方ではないのです。これを一緒にされると、非常に社会的に誤解が生じることになると思います。
 ですから、もしmisconductがあった場合には、当然さっき言ったように、委員会なり何なりでできる限りの調査をされて、できる限りの判断をされていく。それはもちろん弁護士と相談されながらというのがいいと思いますけれども、COIというのはそれをされていない方のことなので、そこはぜひ混同されないでいただきたいと私は思います。

曽根委員長:今回の改定案のなかに書いてありますが、COI委員会と編集委員会、そして倫理委員会についてそれぞれの役割を説明してあります。産学連携活動に関わる研究者が深刻なCOI状態になり、社会から疑いを持たれるのではと予想される場合、COI委員会はあくまでも、深刻な状態から潜在的な状態(potential)に持っていくためのマネージメントをすることが役割であり、結果的に研究者を守るという理解をしていただきたい。
 一方、研究不正(Misconduct of research)だと判断されれば、この問題はCOI委員会の所掌事項でないと考えてください。その担当は倫理委員会です。そのように機能分担を明確にしていただくことによって、学会としての研究発表の質と信頼性を確保できるとご理解いただきたい。
 同じようなことが医系大学、病院などの施設でも起こります。例えば、人間を対象とした医学研究を実施する際、実施計画書が倫理委員会に提出され審査される。その場合、COI委員会は医学研究実施のゴー・ストップのサインを出すのではなく、申請研究者のCOI状態をよく調べて、たとえば非常に多額の講演料、寄附金、なかにはアドバイザーまでやっている方が自ら研究代表者として、当該会社の医薬品を用いた臨床研究の実施計画書を申請してきた場合、研究代表者と企業との関係が強すぎることから、社会から臨床研究にかかる疑惑を指摘された場合に、施設の長は説明責任を果たすことが求められるが、説明しにくいかもしれない。
 このようなケースでは、臨床研究の実施を前提に、研究グループの中で企業との関係が少ない研究者を研究代表者へと交代させるのも一案で、それがマネージメントです。それを拒否するような場合には非常に深刻なCOI状態であるとして、倫理委員会へ意見書を出す。倫理委員会が最終的にゴーかストップの判断をして、それを施設の長に答申するという手順をとっていただければ、それぞれの委員会並びに施設の長としてのマネージメントの役割が適切に果たされると思います。

苛原全国医学部長病院長会議利益相反検討ワーキンググループ座長:学会というのは、たぶん今先生がおっしゃったような感じだと思うのですが、医科系大学、研究機関、病院になりますと、さらに身分保障の問題もかかわってまいると思いますので、慎重に進めていくべきだと思いますから、COI委員会のほうで十分な議論をしたうえで、結果を倫理委員会のほうで検討していただく。それで問題が解決しなければ、その時点で個々の事例にあわせて方向性を考えていかないといけないのではないかなと思っています。
 今、曽根先生がおっしゃったように、COI委員会はその出されてきた内容を正確に調査をして、もしそれで問題があれば、倫理委員会に報告していくという位置づけではないかなと思っています。

日本法医学会:日本法医学会から来ました塚田です。ちょっと学会のことも関係してくるのですけれども、やはり温度差というのがいまだにあるわけです。COIに携わっている人間が、言ってみればこき使われてしまって、ちょっとその業務にくたびれてきているところがあるのです。
 全国医学部長病院長会議とかそういうところがありますので、できたら本当に理事クラスであるとか、管理職、長になる人にやはり踏み込んでいただかないといけません。だれか詳しい人にやらせておけばそれでよいでしょうというのが、学会であったり、また大学のなかや病院のなかにいまだにあります。教育、たとえばe-ラーニングをしますとか、そういう話はすぐ出てくるのですけれども、実は組織の長の人たちのやる気がなければ、いくら個人が一生懸命走り回っても、1人では限りのあることがありますので、やはりトップクラスの意識を変えていただくための取り組みというのを、COIに携わっている者からは、そういう視点を1つ加えていただいて事業をしていただけたら、というお願いです。

苛原全国医学部長病院長会議利益相反検討ワーキンググループ座長:そのとおりだと思います。そちらのほうに向けて、特に施設の長、それから機関の長の皆さんに認識を深めていただきたいと思います。本日、実は直前に理事会があったわけですが、そこでもやはりその点について皆さん深く考えており、このディオバンの問題があったのが契機になったかどうかは分からないですけれども、非常にレベルの高い意識を持っていただいていることがわかりました。
 それからもう1つは、大学側が何もしていないということに対しては、今後ともそのような受け取られ方がないようにということでやっていきましょうと、そういう話になりましたので、その点はご理解をいただけたらというように思います。

曽根委員長:分科会も同じで、本日来られている分科会の役員クラス、理事、委員長の方々には、COI指針を作ったから終わったのではなく、これからがCOIマネージメントをしてい行くスターティングポイントであることをご理解いただきたい。ガイドラインの中身をよく理解してマネージメントをお願いしたい。
 本日はマスメディアの関係者も来られています。もし適切にマネージメントできていなければ、当然、疑問視、問題視され、取り上げられる可能性があります。そういうことが起こらないようにお願いをしたい。
 他にご質問はありませんか。どうぞ。

日本泌尿器科学会:日本泌尿器科学会からまいりました永井です。4月から利益相反委員長になって初めての出席なので、少し確認事項があります。この新しいガイドラインのなかに、深刻なCOI状態、あるいは重大なCOI状態という文言があるのですけれども、それの判断基準というのはどうなのでしょうか。先ほど曽根先生が言われた、たとえばアドバイザーになっているとか、そういったところが深刻なのか、あるいは金額的なものが重大なのか、そのところの判断はいかがでしょうか。

曽根委員長:会員のCOI状態が深刻、重大という言葉の定義は難しいですが、社会の目線といいますか、実際にCOI委員会委員としてマネージメントしていく場合、ある役員がA医薬品の適正使用ガイドラインの委員長候補になっていて、そのCOI自己申告書を見て「A医薬品の企業との金銭的な関係が非常に強く、あれ大丈夫?」と疑問を持った場合、この情報が、たとえばマスコミに流れたときにどう説明貢任を果たせるかという視点で考えていただくことが大切です。説明がしにくいという時は、やはり深刻、重大と考えてマネージメントをする必要があります。たとえば、委員長候補を他の委員に代えるとか、あるいはその役員を、残念だけれども委員から外すことをしておけば、問題ない。
 一方、臨床研究実施の場合、よく言われるのは、「余人をもって代えがたし」で、あの人が研究代表者でなければ臨床試験が実施できないという事もあります。その場合、研究代表者になってももらうが、定期的に報告を求めるとか、ヒアリングを行うとかをして記録に残していかれたら、もしマスコミが問い合わせてきても、「施設の長としてはこういう形で適切に対応しています」という説明貢任を果たすことができます。これがマネージメントです。COI状態が深刻、重大というのはそのように理解していただけたらよいかと思います。

日本泌尿器科学会:もう1点よろしいでしょうか。前委員長が、この日本医学会のガイドラインに基づいて泌尿器科学会のガイドラインを作りましたが、金額については全く横並びなのです。設定金額というのが。そこで、たとえばわれわれがこれから重大だとか深刻だとか、判断する材料になる可能性があるのですけれども、この横並びというのは大丈夫なのでしょうか。

曽根委員長:開示のための設定金額が横並びとなっているのは、一人の会員が複数の分科会に所属していることや、分科会ごとに設定金額が異なるとマネージメントの仕方が異なって来ることを考えると、会員への利便性という点からもその方向で良いと思います。しかし、寄附金の場合、開示基準が年間200万円以上か、以下かの設定だけで良いかどうかは見直しが必要と思います。今回、ディオバン臨床研究の問題が起こって、私自身も厚労省の検討委員会委員として調査に加わった訳ですが、年間に6,000万円の寄附金が提供されたのは常識を越える額であり、裏に何かあるのでは?とやはり疑問を感じました。
 開示基準の寄附金額については、今は200万以上の場合に自己申告となっていますが、それを500万まで、1,000万まで、あるいは1,000万以上というような形で申告してもらって、それらの額によってマネージメントの仕方を検討していくことが必要ではないかと思います。例えば、分科会が診療ガイドライン策定委員会を作るときには、特に、委員長候補の選出には講演料・執筆料、寄附金額などについて提供される額がマネージメントする上で非常に重要な要素になるのではないかと思います。
 先ほど製薬協の方から紹介されましたが、平成26年度から製薬協傘下の企業は、支払った執筆料・講演料関係は個人が特定される形で総件数、総額何円と公開されますので、学会としてもきちんとしたCOIマネージメントをしていかないと、社会に対して説明責任を果たせないかもしれません。

日本泌尿器科学会:ありがとうございました。

曽根委員長:厚労省の高江慎一厚生労働省医政局研究開発振興課課長補佐に1つ質問です。日本版のNIH構想がまさに平成26年からスタートするということですが、医療イノベーションという形で、研究支援というアクセルをどんどん踏むようにわれわれは感じており、アカデミアとしては非常にうれしいことですが、研究不正が起こったときに、それに対して対応する仕組み作りはどのように考えられているのか、お伺いしたい。

髙江厚生労働省医政局研究開発振興課課長補佐:NIHはまだ内閣官房のほうで中身がまとまっていなくて、実はわれわれも平成26年度の厚生労働科研費の公募要項をまだ出せなかったりしていて、非常に困っている状況だというのがまずあります。まだちょっと混沌としています。
 罰則というか、データの改ざんという点から申し上げますと、ノバルティスのケースはちょっと難しくて、国のお金が1銭も出ていませんので、補助金という観点から言いますと、国の指導が全くできない形になっています。そこが非常にもどかしいところです。
 一般的に文科省の科研費とか厚労科研とかで出されたものについて、研究の不正があった場合には、そこは文部科学省と厚生労働省でそれぞれ、今まで課していたものよりもより一歩踏み込んで、所属する施設の間接経費を払わないとか、そういったところまで踏み込んだ形で、9月26日、27日にそれぞれ方針を出しています。
 このノバルティスの場合は国のお金が入っていませんので、そういったこともおかしいので、しかもこれを取り締まる法律は、企業間は薬事法か何かがかかれば、かかってきますけれども、研究者を罰する法律というのは今ないという状況ですので、そういったところを今後どのようにしていくのかというのを検討していくということかと思います。

曽根委員長:臨床研究に関する倫理指針、疫学と一緒にする作業の改定がほとんど終わったと聞いておりますが、今回のディオバン問題を契機に、倫理指針で最終的に終えるのか、あるいは前の公務員倫理法のように、倫理法とするのか、議論はされているのでしょうか。

髙江厚生労働省医政局研究開発振興課課長補佐:議論はこれからになります。今、ディオバンの検討委員会に関しては、この事案の検証と再発防止策の検討ということで、まだ2大学が発表されていない部分がありますので、そういったものを受けながら、引き続き調査検討を行う予定です。
 平成26年秋までを目途に進める法制度にかかる検討は、このメンバーはミッションが再発防止策ですので、この法制度にかかる検討のミッションの何らか議論する場を新たに立ち上げて、そこで議論を進めていく予定。
 今、正直申し上げて、厚生労働省としてこうだという絵は何かあるのかと言われると、そこはまだないです。白紙です。

平井委員:私もNIHの関係でお聞きしたいのですけれども、ご存じのように、アメリカのNIHはグラントを出すときに、COIをやっているかという、必ずrequirementですね、チェックをかけて出しています。
 日本でも、かつてこれは内閣府で1回議論があって、厚労省、文科省、経産省、それぞれグラントを出す際のCOIのチェックというのが俎上に上がったのですね。それを契機にして、その3省のなかで厚労省だけが厚労科研費を出すときにCOIをチェックするということで、何年前か忘れましたけれども、COIの委員会を作って、私もそこの委員だったのですが、厚労科研費を出す際にはCOIのチェックをしてもらうというようにした経緯があります。
 もし今後、日本版NIHを作られるのであれば、これはまたよい機会ですので、旧来の文科省の科研費、あるいは経産省のグラントを含めた形で、そういう厚労科研費の際のチェックのパターンをぜひ日本版NIHのほうにも取り入れて広げていってもらいたいと思うのです。これがアメリカ風のNIH、お金も出すしチェックもするという車の両輪に必ずなっていくのではないかと思うのですが、そのへんもぜひよろしくお願いいたします。

河上委員:今の新NIHの構想ですけれども、最初の図を見ますと、何となく予算を一元化して再配分するのが主体で、戦略はもちろんあってのことですけれども、私はNIHに10年いましたし、先週もNIHへ行って日本版NIHの話も少し出ていましたけれども、COIマネージメントのチェック機構なども1つですけれども、それ以外のさまざまなサポートシステムというのは十分考慮されるのでしょうか。
 NIHは実際は臨床用試験薬の提供や解析技術の提供など、すべての組織が横断的にできていて、初めてNIHとして機能しているわけで、予算の配分機関だけではないのですけれども、先ほどの研究不正のチェック機構も含めての全体的な構想はあるのでしょうか。

髙江厚生労働省医政局研究開発振興課課長補佐:これはあくまでも日本版NIHであると、私は理解しています。
 ただ、それぞれの機能として、今やはり医薬品・医療機器業界をどんどん伸ばしていくという観点から、たとえば創薬支援をする機関を大阪の医薬基盤研に置いてありますけれども、あそこは創薬をされているアカデミアの先生方がそこに行って、「いや、これはちょっとGMPじゃ作れない。どこかないのか」というようなお話をご相談されると、「いや、それだったら理研で作れるよ」と。「じゃ理研を紹介してあげる」という形で、理研と産総研と基盤研が持っている基礎技術ですね、そういったものを的確に、あと大学連携機関とかもありますので、何か現物支給で研究者の方のお助けができるようなものを、創薬支援ネットワークとして立ち上げています。
 ただ、そこがNIHとどういう関係になるかとか、どういった形でそういった枠組みを全部作っていくかとか、そこがちょっとまだ決まっていない状況です。

河上委員:1つ、企業からの支援なのですけれども、奨学寄附金というのはその使用用途に少し不明瞭なところがあるということで、少なくとも今後は臨床研究に関しては、受託研究なり委託研究の形で進むことになると思いますけれども、それ以外の形の資金提供もたぶんアカデミアは必要ではないかということ、もう1つは、イタリアかどこか海外では複数の企業が基金を作って、第三者が審査委員会のようなものを作って適正な臨床試験を選んで、臨床試験を活性化するシステムを構築しているという話を伺ったのですけれども、日本ではそういう可能性の議論というのはありますでしょうか。

稲垣日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長:まず、後ろのほうの基金に関してですけれども、まだこれは具体的な話は出ていません。今までの奨学寄附金での研究助成では、やはりちょっと問題があるだろうなとは思っているところなのですけれども、考え方としましては、企業の製販後の臨床試験、企業が委託して実施する試験と、アカデミアが自ら実施する臨床試験とで、結果としてデータの使われ方が同じような形になる。つまり、上市した医薬品の臨床、すなわち、実際のリアルワールドでの効果や安全性の評価のエビデンスとして使いたい試験が、片や企業委託の製販後の試験として行われ、片やアカデミアの医師主導臨床研究という、二つの違う基準で行われるというのはよろしくないだろうと。
 とすれば、そこはやはり同じような形でやるべきであって、そうすると、今回のような奨学寄附金のような形よりは、きちんとした契約のもとで何をやっていただくか、そしてその成果を使わせていただく対価として研究費をお支払いするという契約下での臨床試験としてやっていただくかたちがよいだろうと、そこまでは考えています。
 ただ、そのあとの臨床研究のためのファンドとか何かを作るというところになりますと、研究助成に関しては、やはりそれぞれ企業として、どういう研究を助成したいかというところは、まだ現時点では考えをいろいろと持っていまして、使い方等も第三者の審査委員会に判断をお願いしてというところまでは、なかなか踏み込みづらいのが現状かなとは思っています。

曽根委員長:寄附金問題が非常に重要なのは、先ほどもお話がありましたように、医科系大学のアンケート調査結果を見ても、研究資金の半分が外部資金で、そのうちの6割余りが奨学寄附金です。奨学寄附金を臨床研究に使うのは駄目だから契約に、例えば、委託、受託、あるいは共同研究という形で受け入れると、企業からの奨学寄附金がどんどん減っていくのではないかという声が聞かれます。
 臨床研究についてですが、企業依頼という定義がどうも不明確で、Kyoto heart study、Jikei heart studyなどのディオバン臨床研究について、最初はノバルティス社が当社は全く関係していない」と公表した。しかし、寄附金額を見るとすごい額が提供されており、企業依頼では?という点で一つの議論になりました。企業側は、当然、臨床研究に使われるだろうというと認識があったことから、ディオバンの臨床研究は企業依頼と判断しでよいのではと私は理解しています。企業依頼はどのように定義できるのか。特に委託、受託とか共同ではなくて、寄附金提供の場合、いかがでしょうか。

稲垣日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長:臨床試験のスポンサーの考え方につきましては、説明スライドに入れておきましたように、ICH-GCPのなかでのスポンサーの定義というのが一応原則になります。
 その次に、では企業が依頼したかどうかという話、企業側が負担する研究費が研究をどこまでカバーしているかという話になりますが、それとともに、やはりその臨床試験の目的、あるいは試験法に関してプロトコール作成にどこまで介入しているかどうかというところも1つのポイントになるのではないかと、これは製薬協のなかで検討会をつくってディスカッションしているわけではないので、個人的な考えで申し訳ないのですけれども、やはりそこも1つのポイントになるのではないのかと思っています。
 本来、奨学寄附金とは、用途について大ざっぱには指定はするものの、細かい内容まで口を出さないというのが本来の形であって、たとえばこの領域の研究ということで助成しますけれども、この領域の研究でどのような試験をやってくれとか、細かい内容、何をエンドポイントにしてくれとかというようなことは、当然ながら口は出しません。それが奨学寄附金で実施される試験の本来の形です。
 それに対して、たとえば今回のように、高血圧に伴う合併症の発症抑制を見てくれとかというような話になったときは、やはり奨学寄附金での助成はちょっとどうなのかなと考えるところが、1つの線引きかなと思っています。
 また、寄附金の額についての話になりますけれども、どこまで出したら企業が主たる研究費負担者になるのかと。今回のディオバンの場合は、会社としても奨学寄附金として出しながら、特定の臨床試験に使われるであろうということを認識していたというところで、企業側としての反省すべき点があったのかなと。
 結果として研究費の一部として使われるかもしれないけれども、それがメインで、一社からの奨学寄附金で臨床研究がサポートされているわけではないというような状態でなければ、やはりちょっとまずいのではないのかなというのが、個人的な意見で申し訳ないのですが、私の考えです。

曽根委員長:私の論点として、寄附金を使って臨床研究、臨床試験をすることが悪いことではないと思っています。寄附金はもちろん必要な研究資金として使われる。しかし、研究の目的とか、寄附金がどのように使用されているかを適切に説明できなければ、社会から疑惑を招くことになります。
 そういう視点から、奨学寄附金を提供する企業サイドとしても疑惑を招かない対応策を考えていただかないと、我が国の場合に公的な研究費が少ない状況から、寄附金が減ったら臨床系講座はほとんどが崩壊すると思います。このような実情をよく理解されて、昭和39年に公布された国立学校特別会計法に規定された奨学寄附金制度を適切に生かしていくことが大切です。そのためには、やはり性善説に立って運用し。違反と思われる行為をしたときには、きちんとペナルティーが科されるような仕組みを作っていくことが、今求められていることではないかと思います。

稲垣日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長:製薬協としましても、奨学寄附金というのは、今の日本の医学研究において必要なものだと理解しています。ですから、奨学寄附金をなくせという声に関しては、われわれとしては必ずしも賛同するものではありません。
 額がどうなるかというところで、本来だったら委託で実施する臨床研究ということで契約の下で実施すべきものに対して、奨学寄附金という形で支援していたものについては、これが委託研究に切り替わりますと、見た目の奨学寄附金の額としては減るような結果になるかもしれませんけれども、奨学寄附金それ自身が必要ないものだという認識ではありません。

日本内分泌学会:内分泌学会の成瀬と申します。永山悦子様(毎日新聞科学環境部副部長兼医療情報室次長)に伺います。
 わが国の医学研究費の多くが奨学寄附金に依存している点は、海外とかなり異なっていますが、その現状をメディアのほうではどのように思われているのでしょうか。また、なぜ日本では寄附金が多くなってしまっているのかについて、メディアのほうではどのように理解されているのでしょうか。

永山毎日新聞科学環境部副部長兼医療情報室次長:質問ありがとうございます。まさにその点をお話ししたいと思ったところでした。
 何本か記事をご紹介したなかでも、今までの奨学寄附金の提供や使い道から、社会からは、それがグレーもしくは黒ではないかという、疑義を持って見られている例が多いと思います。
 奨学寄附金は曽根先生がおっしゃるとおり、非常に重要な資金源ではありますが、外から全くその事情を知らない人が見た場合、1回大学に入るとしても、今回問題になった臨床研究のように、単に名札を変えて使われてしまっている。その流れが非常に見えにくい。流れが見えにくいお金というのは、マネーロンダリング的なことが行われているのではないのかとも見られてしまう事情があると思います。
 日本の独特のやり方が、何かほかに方法はないのか。先ほどの基金という方法であるとか、米国などには非常に大きな財団もあります。この分野の研究を進めるためには、製薬企業からでなくても、そういった基金や財団などから出していくという方法も検討していく時期になっているのかもしれません。
 研究資金が民間から出ること自身は、否定はしませんし、それは重要な活力になると思いますので、その透明性をどうやってより高めていくのかということを考えていただければと思いました。

日本内分泌学会:ありがとうございます。ただ、資金の透明性は、今回改定されるガイドラインのようないろいろなルールを整備し、厳密に運用することで達成できると思います。
 しかしながら、ルールを厳しくするだけでは、研究活動を規制し、研究が萎縮する可能性があります。メディアの方もルールの厳しさ、透明化という点だけを強調するのではなく、なぜわが国では寄附金が研究費の多くを占めてしまっているのかについての解析に取り組んでいただければと思います。

曽根委員長:寄附金の在り方については、なかなか難しい問題です。大学側、あるいは学会側としては、最終的には誰がどれだけもらっているかという受け入れ情報を公開していくしかないと思います。
 奨学金を含めて公開という視点から、京都府立医科大学の伏木先生は、取り組みをされていると思いますが、何か、コメント、あるいは取り組みについてご紹介いただけるでしょうか。

日本小児神経学会/日本神経病理学会:私は学会の立場で、学会の利益相反委員会の立場で来ていますけれども、京都府立医科大学ということで申し上げますと、奨学寄附金に関しましては、このたびの大変大きな影響を先生方にも与えてしまいました。臨床研究事案がありましたので、それ以降、ホームページ上できっちり公開していこうという方向で今整理をして、もう始めるところです。
 ただ、日本製薬工業協会様の透明性ガイドラインに則った形で行うということを、現時点では決めていまして、それ以上に踏み込むというところまではまだいけていないのですけれども、その方向ですべて整理をして承認を得ていますので、もうすぐ始まるという状況です。

曽根委員長:苛原先生、いかがですか。奨学寄附金の透明化という視点で、資金提供先、それから受け入れる側が、どのように対応したらよいと考えますか。

苛原全国医学部長病院長会議利益相反検討ワーキンググループ座長:奨学寄附金というのが非常に問題になっているようですが、やはり現状の日本の研究体制、大学の研究体制で考えますと、この奨学寄附金は非常に重要な研究資金になっているのです。これをやはりいい意味で確保していかないといけないと、私は思っています。だからこそ、確保するためにオープンにして、クリアにして、第三者の目から見ても問題がないなかでやっていく。
 受託研究とかありますけれども、使用上の制約が多く、私たちとしてはいろいろな用途に使いにくい研究費です。奨学寄附金について、どの大学においても一定のルールのもとにオープンにし、先ほどちょっとお話がありました、製薬協の透明性ルール、それから日本医学会で決められたものも含めまして、ぜひクリアにすることによって、今までどおり以上の研究資金の提供を確保していきたいというように、私自身は考えています。

日本温泉気候物理医学会:日本温泉気候物理医学会から、本日は代理で来ました津谷と申します。先ほどすでに議論されましたが、スポンサーという用語と、資金提供者に関連しての、2つ質問があります。先ほど稲垣治日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長さんのスライドで非常に明確に、英語で言うと、initiate、manage、and/or financeする主体がsponsorとされました。もともと1995年のWHO-GCPの中での定義で、それを1996年のICH-GCPの中でも使ったものです、私が学生に臨床試験の倫理を教えるときに、お金がなくてもスポンサーになれるのだと話します。つまり自分で発案して、管理してくれる人を探し、お金は厚労省や財団などからいただければ、それで君たちはスポンサーになれると。
 そこで最初の質問です。日本のGCPは、sponsorを「治験依頼者」と訳しています。この3つの要素、発案して、実施して、資金調達する、の3つとも行っているのが、企業が行う治験です。それは医薬品や医療機器の承認の取得のために行うものです。したがって「治験依頼者」ではなくて「治験主体者」ではないかと思うのです。この日本語を変えるとか、そういった議論というのは製薬協ではなされているのでしょうか。

稲垣日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長:ありがとうございます。まさにおっしゃるとおりで、日本のGCPは、もともと企業治験を対象に作られていまして、それが医師主導治験を認めるようになったときに若干拡大され、そのためにいまだに解釈が企業治験主体になっているところがあるのかなとは思っています。
 ただ、ちょっとGCPについて、業界としては、その言葉を変えるよう要望を出すことについては、今のところ考えはありません。しかし、今ご指摘いただいた、そういう本来のWHO、さらにはICHで使われていた海外の言葉をそのまま日本に持ってきて、かつ運用のところで日本の実情に合わせた形で解釈をして、本来治験に限定される話の、試験依頼者で、金を出して、計画、発案してという機能を全部一緒に実施するのがスポンサーだという解釈で、日本のGCPはスタートしているという、その理解はわれわれも持っています。そのために、さっきの資料のなかでも、臨床試験については、試験の提案者とその資金提供者という2つの軸で試験を分けてみるとどうなるのかという形で書かせていただいたところです。

日本温泉気候物理医学会:2つ目の質問です。日本語の「スポンサー」という片仮名はお金を出すというような意味です。source of fundingとかfunderという言葉がありますね。資金源、資金提供者。これに関連して、私はいくつかのIRBや倫理委員会に関係していますが、医師主導型の臨床試験では、現在の「臨床研究に関する倫理指針」に従って、患者さんへの臨床試験参加の同意を得るための説明文書のなかで、資金源をだいぶ公表するようになりました。
 ところが治験では、そのfunderが、あるいはスポンサーがどこかということが、書かれていないのです。例えばこの治験はアステラスが資金提供をしていますとは書いていないのですね。ヘルシンキ宣言には「被験者候補は、資金源(source of funding)について、十分に説明されなければならない。」とあります。臨床試験登録制度、先ほどminimum20項目がありましたが、あの中にも資金源(funding sources)を登録するようにとあります。なぜ治験では会社の名前は書かないのでしょうか。日本だけの現象なのでしょうか。アステラスがたとえばアメリカで治験を行うときには、アステラスと書いているのでしょうか。

稲垣日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長:実施者と資金提供者というところで、治験資料の中には会社名は出していると思うのですが。

日本温泉気候物理医学会:ということは、日本だけ会社名が書かれていない。

稲垣日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長:いや、日本でもIRBの資料には会社名は明記してあるはずですが…。

日本温泉気候物理医学会:IRBへの資料のプロトコールには書いてありますが、今私がお訊きしていますのは、患者に渡す同意のための説明文書です。インフォームドコンセントを受けるときの説明文書に、最近はだいぶ分厚くなりましたけれども、会社名が書かれていないのです。

曽根委員長:資金源という意味では、会社名を特定できないと資金源にならないですよね。だから、文書に会社名は書いてあるでしょうね。

稲垣日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長:まず、IRBの資料には必ず書いてあります。インフォームドコンセントでも、書いてあると思うのですが、確認いたします。

〔Post note〕
2000年代まではインフォームドコンセントに企業名は記載されていないのが大部分であったが、最近では記載することが多くなってきている。しかし、すべての例で記載されているわけではない。

曽根委員長:この点については後ほど確認をして、連絡をしていただくということでよろしいでしょうか。他にどなたかありませんか。

日本消化器病学会:日本消化器病学会の福井です。長くCOI委員長をさせていただいているのですけれども。特に透明性ガイドラインによって企業からドクター個人の講演料などが見られる形になったときに、学会のこれ以上の額なら開示しなさいという規定との間に、ギャップがあることに一般の方が気づかないこともあるかと思うのですが、そのあたりはいかがさせていただいたらよいのでしょうか。
 たとえば50万円以上は開示としているけれども、40万幾らというのが企業から公表されていて、開示しないのは問題ではないかと言われた場合は、学会はそのように規定しているということで対処してよいのでしょうか。

曽根委員長:私の個人的な意見としては、開示基準額が50万円以上で、企業が公開した額が49万円とか40万円であれば、開示しなくても問題がないと思います。

日本消化器病学会:特に学会のリーダーの先生などは、当然多額になると思うのです。何回もご講演に行っておられる方々ですので。

曽根委員長:平井先生、いかがですか。自己開示額と企業から出てくる額が食い違ったとき、それはどの程度の食い違いがあれば問題とするか。50万円以上は開示しなさいと基準があるのに、企業情報から出てきたのが65万円だったときに、それで問題になるか。私はそのぐらいの額で問題になるのではなしに、せめて2倍ぐらいとか。

平井委員:よく分からないところですけれども、ただ、COIというのは、基本は常にthresholdがついているのですよね。細かい金額はやらないというのがCOIなのです。ベースでは。アメリカでも日本でも。なぜかというと、重要なinterestを扱うことによって、重要なケースをマネージメントできるからというのが、COIの発想なのです。ですから、1円まで合わせようという発想は一切ないのですよ、もともとが。
 ただ、たまたまサンシャインのほうで、わりと10ドル以上とか、厳密になってしまったので、少しそこが変わってきているのですけれども、でも日本でも別にサンシャインのような話が出て、全員10ドル以上は出しましょうとはならないと思うので、そういう意味では、それほど大きな解離というか、厳密な一致が求められはしないと思うのです。多少ずれても私はよいと思うのです。システムが違うので。

日本消化器病学会:一般の方の金銭感覚と、われわれの金銭感覚が少し違っている場合があり、その点、誤解を招かないかなということを危惧しましたので。

平井委員:大事なことは、やはり医学研究で扱うお金というのは何千万とか、場合によっては億というお金ですから、きちんとマネージメントをしている、つまり説明責任を果たすことをしているかが大事だと思うのです。
 ですから、エクィティが関連しているのか、アドバイザーは関係しているのか、役員になっているのかというような、そういう他のinterestの関係で、多額の金額ではあるけれども、これは非常にピュアに使われているのだということを、説明責任を持って社会に対して発信していくということがあれば、私はよいと思いますし、お金の大きさだけで言うと、工学部とかに比べると、やはり医学部はどうしても多いので、そこは難しくなってしまいますね。

曽根委員長:製薬協にお願いをする予定ですが、アメリカの場合、サンシャイン条項で各企業にどれだけ医師、医療機関に払ったかの情報を国に報告させて、国が公開する方式です。
 一方、日本は製薬協がガイドラインを作り、傘下の企業がそれぞれ公開する仕組みです。各企業から公表された支払状況についてどれだけの信頼性があるか、今言われたように、マスコミがある特定の情報を集めて、「A教授は、複数の企業から1,500万円と多額の講演料を貰っている」と興味本位に報道した場合、誰が検証をするのか。それは製薬協が対応すべきだと個人的に思います。というのは、公開しろと傘下企業に示しているのに、産学連携の相手である医師が興味本位に話題にされた時に知らないということはありえない。
 もし間違いと思われる報道であった場合、アカデミアサイドの人が自ら、個人レベルで開示請求をして、関係会社へすべて調べに行く。それもおかしいのではないかと思います。製薬協としても、当然ガイドラインでは個人を特定する形で支払額を公開せよと出しているわけだから、傘下企業からの公表データはすべて集めるべきです。何か問題が出たときには、アカデミアサイドから製薬協に、これは本当に数字として正しいかどうかという検証をしてもらう。その仕組み作りは、製薬協にあるのではないかと思います。その方向でよろしいですね。
 この件については、医学会から製薬協のほうに要望したいと思います。その点について何かコメントはありますか。

稲垣日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長:とりあえずそこは持ち帰らせていただきます。ただ、業界側で数字を出している以上は出ている数字の検証は業界側にとおっしゃられるのは確かにそうだろうなとは思います。ただ、どの時点で疑わしいと見て、何を検証するかという話ですよね。

曽根委員長:平成26年度から、製薬協傘下の企業は平成25年度分の講演料も執筆料も個人が特定された形で個別的に公表します。そこでマスコミ関係者から、疑惑がありと指摘されたときに、当該の会員、或は所属する医療機関や学会がそのデータを、本当に正しいのかどうかの検証のしょうがない。アメリカの場合だったら、政府関係のホームページを見て確認ができる仕組みになるわけですが、製薬協として、この点については。

稲垣日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長:それは公表されてもともと出てきた数字がということですよね。数字はこちらでも把握はしているはずなので、確認することはできるとは思うのですけれども、それがもとの原資料と照らし合わせて正しいかというところはちょっと難しいかもしれないです。

曽根委員長:各傘下の企業から公表された分をすべてデータベース化する。例えば、私の名前を入れれば、どの会社がどれだけ支払ったか、全部一覧で見えるというようなデータベース化が必要と思いますが。

稲垣日本製薬工業協会医薬品評価委員会委員長:一覧できるデータベースを公開すべきということですか。

曽根委員長:公開する必要はないと思います。
 時間がオーバーしましたので、これで総合討論を終わりたいと思います。本日はお忙しいところをご出席いただ、活発な討議ありがとうございました。
 日本医学会が平成23年、COIマネージメントガイドラインを公表し、全国医学部長病院長会議からも、医系大学・病院を対象としたCOIマネージメントガイドラインが、本日の理事会で承認されたとお聞きし。我が国の産学連携による適正な医学研究の推進に大きく役立つものと期待しております。また、医療現場でのいろいろな問題事例を集積しながら、医学研究の信頼性を確保するために日本医学会もCOIマネージメントガイドラインの改定版(案)を作成しており、平成26年2月には各分科会からのご意見、コメントを取り入れた形で最終版を決定する予定です。各分科会におかれましては、「仏を作って魂入れず」にならないように、会員への周知徹底をはじめ、COIマネージメントを本格的にやっていただけるようにお願い申し上げまして、これでシンポジウムを終わりたいと思います。
 それでは最後に、門田副会長からご挨拶をお願いいたします。