日本医学雑誌編集者会議 Japanese Association of Medical Journal Editors

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議事要旨

第2回日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)総会・第2回シンポジウム:シンポジウム

総合討論Q&A

 総合討論の質問、応答は下記のとおり。

(指定発言に対する質疑応答)

司会 北村委員長:2学会の指定発言について何かご意見、ご質問、コメント等はあるか。

日本消化器病学会:日本消化器病学会の雑誌Journal of Gastroenterologyでは5年前はインパクトファクターが1.209だったのが、2007年は2.052、2008年が3.117になった。問題は日本人の引用が非常に少ない事であるが、論文のacceptの日本人率はほぼ80%であるにも関わらず、日本人の引用率が35%とアメリカの引用率とほぼ同じ程度である。かなり宣伝しているのに日本人がなかなか引用してくれない現状があるので、少しsuggestionをいただきたい。

日本高血圧学会:auto citationの話だと思うが、auto citationはHypertension Researchとしては何ら宣伝もしてないし、それを推奨していない。citationに関して、あまり学会雑誌側から発言すると、punishmentになると思うので、そういうポリシーの下、一切どこの場でも発言しないようにしている。

日本癌学会:日本癌学会は、評議員会で編集長が「皆さん自分の論文を引用してください」と言っている。インパクトファクターが低いころからずっと同じ感じで、特に努力はしていない。

日本耳鼻咽喉科学会:日本耳鼻咽喉科学会の雑誌は臨床が主で、いまだにケースレポートの投稿がある雑誌である。それほどインパクトファクターの数値は高くないが、投稿数が多く、500件ぐらい投稿がある。かなりqualityにはバラツキがあるので、システムとして、編集デスクで半分ぐらいとりあえずrejectする論文を決定し、残りはassociate editorに送る形式を取っている。日本高血圧学会の雑誌はかなり投稿数が多いと思うが、編集デスクでどのような選択をかけているのか、またはそういうことはされてないのか。採択基準を教えてほしい。

日本高血圧学会:それはimmediate rejectだと思うが、Hypertension Researchではその決定を編集長に一任している。臨床部門と基礎部門のexecutive editorの2人にまず振り分け、そこからassociate editorに振り分けられるシステムになっている。
 そのexecutive editorがとりあえず論文を査読するが、これはあまりにもという内容の論文が当然ある。その場合のはっきりとした手順の設け方については次回の編集会議で決めようと思っているが、この論文はimmediate rejectに相当するかどうかを編集長とexecutive editorがメールで意見交換し、immediate rejectを出すかどうか決定する。場合によってはassociate editorに回して、そちらからimmediate rejectが出る場合もある。
 臨床スタディでは細かい基準は今のところは設けていない。

日本癌学会:Cancer Scienceでは特に何か基準があるということではなく、editorがまず投稿論文を受け取ると、associate editorに回して、そこからレフェリーに配ることにしている。editorもしくはassociate editorがこの論文はレビューに回す必要はないと判断した場合にはimmediate rejectionにしており、特に何か基準があるわけではない。

北村委員長:それぞれの学会でどれぐらいimmediate rejectの割合があるのか。

日本高血圧学会:正確な数字は計算していないが、10%弱ぐらいはある。

日本癌学会:あまり細かい数字は把握していないが、5%くらい、もっと少なかったかもしれない。内容がひどいと思われても結構レフェリーに回していることもあるようである。

北村委員長:日本耳鼻咽喉科学会ではどれぐらいの割合なのか。

日本耳鼻咽喉科学会:レビューを海外のeditorにも回している。原著は基本的によほど内容がひどくない限りは海外のeditorに回して、症例報告はその内容を見て編集長の段階でチェックしている。一応2か月に1回associate editor全員の会があり、そこで説明をして、最終的に返事をする形にしている。原著で大体10%弱、症例報告だともう少し高い数字である。

日本体力医学会:日本体力医学会では現在、和文誌しか発刊していないが、今後、英文誌を発刊しようと準備を進めているところである。海外のeditorにも参加していただくことを予定しているが、この場合、謝礼はどうしたらよいのか。

日本高血圧学会:Hypertension Researchに関しては、海外のeditorには謝礼は一切出していない。完璧にボランティアだ。

日本体力医学会:何かメリットはあるのか。

日本高血圧学会:海外のeditorには本を1冊、無料購読ということで送付している。

日本癌学会:Cancer Scienceも謝礼は一切出していない。

北村委員長:雑誌を外国の出版社に依頼すると、学会の負担は普通多くなるのか。

日本高血圧学会:Hypertension Researchの出版業務を委託しているNPGネイチャーアジア・パシフィックに回答をお願いしたい。

NPGネイチャーアジア・パシフィック・パブリッシング・マネージャー:今のご質問は金銭的な負担についてか。商業出版社が学会系のジャーナルと出版に携わる際のビジネスモデルは、出版社によっても、ジャーナルによってもかなり多様であるが、NPGの標準的な場合、学会から雑誌の出版と制作と販売を請け負う形で、すべて会社側のコストで行う。学会は使用する雑誌の購読料を支払う。Hypertension Researchの場合には会員が3,500名ほどいるが、その全員にオンラインと冊子を購入してもらう。もちろん通常価格よりは安くなるが、その金額×3,500名分をNPGに支払う。その金額がNPGと組む以前に出版されていたときの制作コストと比べてどのぐらい高いか安いかは、私どもには分からないが、それほど高くはないのではないか。

北村委員長:最近は海外から、それも東南アジアや中国からの投稿論文の数が増えたことで、日本人の論文はアメリカとかヨーロッパに投稿し、日本人が査読するのは中国からの論文ばかりという愚痴を聞くこともある。東南アジアや中国からの投稿数が増えたことでの苦労はあるか。

日本高血圧学会:Hypertension Researchの場合だと、アジアからの論文のqualityが上がってきた。アジアだけでなく、アメリカ、イタリアなど、欧米からの投稿が増えている。
 査読に関しては、日本人がreviewerとして査読する場合もあるが、海外のreviewerに依頼する場合も出てきている。associate editorがPubMedで捜したり、懇意になった人物に査読を依頼すると案外引き受けてくれる。「あなたの雑誌にレビューをさせていただき、ありがとう」という、うれしい返答もあるので、今後は海外のreviewerにもできるだけ依頼していきたい。

日本癌学会:Cancer Scienceは、海外からの投稿論文が最初かなり質が低くて苦労した。最近はアジアの研究室からの論文も良質になり、実際に採択されるアジアからの投稿論文にも良質なものが増えてきたが、いまだに採択率は十数%で、かなりrejectする。それは仕方がないこととして、将来のために頑張って査読している状況である。
 Cancer Scienceの場合、Wiley-Blackwellと契約しても財政的にはほとんど変わらなかったが、図書館で購読される場合の本の値段が、正確な数字ではないがそれまで2万円ぐらいだったのが7~8万円に値上がりして、図書館側から色々クレームが付いた。雑誌社と契約する際は、一応そのことを覚悟しておいたほうがよい。

日本腎臓学会:投稿される論文のqualityについてのdiscussionがある。査読者によって査読のレベルが結構バラツキがある問題を日本腎臓学会の学会誌は抱えており、何とかならないかというクレームや、何らかのインセンティブを考えたらどうかという会員からの意見もある。具体的にインセンティブと言ってもなかなか難しく、困っている部分もあるが、査読のレベルという意味で、何か良いアドバイスがあればいただきたい。

日本高血圧学会:シンポジウムの話題に出ていたように、1人がminor revision、もう1人はrejectという場合がある。Hypertension Researchの場合は、associate editorの判断によるということで、場合によっては3人目のreviewerを選ぶ。そしてassociate editorが実際に査読してdecisionし、minor revisionかrejectかを決定する。最終的には編集長が査読し、問題がある場合、フェアなコメントかどうかを判断しているのが現状である。

日本癌学会:レフェリーは難しい問題である。私もJBCなどで数多くレビューしているので、特に工夫は一切していない。
 結局、associate editorがレフェリーを選ぶときに、異常に厳しい方とか、異常に甘い方は経験的にそういうのが積み重なって、何とかあるラインを保っているということである。何か基準を決めるのは難しいし、レフェリーをすることは研究者としての貢献ということで理解してもらうしかないのではないか。

北村委員長:非常に重い問題であり、アンケートに次年度の議題の1つとして書いておいて欲しい。

(シンポジウム講演に対する質疑応答)

日本胸部外科学会:日本胸部外科学会の雑誌の場合、1人のレフェリーがacceptで、もう1人がrejectの場合、3人目のレフェリーを立てると内規で決めているが、山崎先生の講演に非常に感銘を受けた。「採用にする」と格言した英米の雑誌編集者が誰か分かれば教えていただきたい。

山崎茂明愛知淑徳大学文学部図書館情報学科教授:私の30年前の修士論文のなかに出典が書いてあるが、現在、手元にリファレンスがない。後日、出典を含めてメールでお知らせしたい(格言の出典は、O'Conner M. Editing Scientific Books and Journals. Tunbridge: Pitman Medical Publishing;1978,p.35)。

日本小児神経学会:同じ点に感銘を受けたが、少し違う点から訊きたい。欧米のメジャーな雑誌で、実際にこういう方針を採っているかどうかの情報はあるか。多くの欧米の雑誌が同様のやり方をしているのであれば非常に重要だと思うが、雑誌編集部の偉い方が1人で言ったという場合は意味合いが違ってくる。

山崎茂明愛知淑徳大学文学部図書館情報学科教授:この言葉自体はヨーロッパ科学編集者会議の席で聞いた気がする。たとえばLancetのeditorのいろいろな言葉がちりばめられたものがある。スライドにはないが、Lancetのeditorを長く務めたセオドール・フォックスという有名な方が、「基本的にレフェリーの意見には従うな」と発言している。レフェリーが保守的な傾向になる可能性があるので、それを注意するということである。
 総合医学雑誌は特にチャレンジな部分がある。1人のレフェリーが不採用にしたからといって、萎縮したりしない。むしろ違いがあることは人をエキサイトさせる部分があり、それはもしかしたら科学を前進させるエネルギーになる可能性もあると、3人ぐらいのeditorが同じことを言っている(Lancetの3名の編集者の言葉は(1)から(3)、編集者の積極性に言及しているのが(4)から(5)。出典:(1)Pyke DA. How I referee. BMJ 1976;2(6044): 1117-1118. (2)Douglas-Wilson I. Editorial review; peerless pronouncements. N Engl J Med 1977; 296: 877. (3)Fox T. Crisis in Communication : the Functions and Future of Medical Journals. London: Athlone Press, 1965. (4)山崎茂明。生命科学論文投稿ガイド。東京:中外医学社、1996.(5)山崎茂明。学術雑誌のレフェリーシステム。科学 1989; 59: 746-752)。

日本小児神経学会:自分の論文で意見が分かれた場合、誰かがだめと言うと不採用になった個人的な経験があるのだが。

山崎茂明愛知淑徳大学文学部図書館情報学科教授:総合医学雑誌と専門誌は少し違いがある。しかし、総合医学雑誌は前述の方向性を持っているし、専門誌も含めて、3人目で何とかしようという考え方とは少し別の考え方で臨んでいる。それが科学編集者の世界で一般化しているところが力強い。

北村委員長:レフェリーの責任というのはどこまでなのか。出版されたら当然著者が全責任を負うものであり、それがねつ造論文で、あるいは誤りの記載があっても、責任はないと理解してよろしいのか。

山崎茂明愛知淑徳大学文学部図書館情報学科教授:スライドのレフェリーシステムのところでお見せしたが、レフェリーは編集者へ助言をする。採否の決定は編集者の責務と書いてある。つまり、今、ねつ造論文について採用と言った人がいたとしても、それでレフェリーが問われることは基本的にはない。レフェリー自身にとっては悲しいジャッジの1つとして深く傷として残るかもしれないけれども、責任は負わない。
 それはやはりジャーナルの責任となる。ジャーナルは責任を負っているので、misconductの論文を出版してしまった場合は適切に撤回処理をするし、著者が撤回してほしくないということで意見が分かれた場合でも、読者代表、学会代表としてのeditorは、できたらこの論文は使ってはいけないという懸念表明を出すことが決められている。

日本腎臓学会:自分は帝京大学に勤務しており、大学院生の学位論文を出すときに、単著の、しかも帝京大学が持っている雑誌に掲載することが多い。そうすることが推薦されているところもあるが、大変困るのは、それを英文誌に、本来の関与した複数の名前で出そうとした場合、duplicate publicationに当たるのではないかと懸念している。考え方とか取り扱いはどうしたらよいのか。

津谷委員:学位論文の形式にはいろいろあり、私が以前勤務していた東京医科歯科大学では雑誌に掲載されたそのものが学位論文になる。別に文量の多い論文(dissertation)を書くところもあるがそちらの大学ではどうか。

日本腎臓学会:大学院生に単著で日本語で書くことが勧められている部分もある。時間的に余裕があれば、最初に英文で複数の著者で書くのはかまわないのであるが、大学院生では臨床のdutyもあり、なかなか期間内に終わらないことが多いので、やむをえず単著で帝京大学の医学雑誌に出して、学位授与とする。

津谷委員:元々複数のauthorがいて、どこかにpublishされたもののうちの全部とは言わないが、何らかの割合の部分を単著としてまた論文を書くということか。

日本腎臓学会:逆である。単著として日本語で書くのが先で、本来のcontributeした人全員の名前で英文化したいという場合である。

津谷委員:後者の英文のほうが学位論文になるのか。

日本腎臓学会:前者が学位論文になる。

津谷委員:publishされた学位論文の場合、複数の著者で書かれたものと、単著で書かれたものがどの程度同じであるのか。

日本腎臓学会:実質的にはほとんど同じものである。

津谷委員:実質的に同じだと、やはりduplicate publicationではないか。

日本腎臓学会:やはりそういうことになるのか。

津谷委員:スライドに示したように、duplicate publicationの明確な定義はないが、普通にはsubstantially、本質的に、同じであればduplicate publicationとされる。このケースはこれにあてはまるのではないか。

北村委員長:日本は和文誌と英文誌があり、学会の総会などでシンポジウムとか特別講演で発表されたものを学会誌に日本語で書いてもらったりする。そういう学会もあって、それが本当にオリジナルで英語論文であってもduplicate publicationになるという問題があって、日本語と英語で似た内容を出すのがどこまで許されるのかがずいぶん前から議論になっているが、誰も答を持っていない。

津谷委員:中身が同じで言語が違うのは、基本的には相互の編集部、出版元の了解を得て引用しておけば“secondary publication”として受け入れられるというのが、URMでの原則である。ただし著者が異なっているのが気になる。

日本産業衛生学会:昨年まで自分は東京大学に在籍していて、faculty development、research mindという話を学生にした。東京大学の学生の場合はresearch mindのpotentialityが高いので非常にツボにはまった面があると思う。東京大学PBLは非常によい内容かと思うが、帝京大学にいる現在、普遍的に学生に教育内容として適用できるかどうかについて訊きたい。

北村委員長:内容そのものは普遍的に適用できると思うが、問題は学生のマインドである。臨床マインドの大学、基礎研究のマインドによって、多少は食いつきやすさを工夫しないと、あまり興味のないことから始まってみると学生が調べに行かない。最初に、「あっ面白い」と思うと、どんどん学生は深みにはまるぐらい調べてくれるので、最初のつかみの部分を工夫する必要がある。

(まとめ)

北村委員長:今回のシンポジウムテーマは出版倫理ということで、Publish or Perishという一種暗い面の話であった。あまり公にはできないが、どこの雑誌でも多かれ少なかれ危ない二重投稿や、ねつ造まではいかないにしても危険なものがあると聞いている。それを見逃しても困るが、発見したらしたで編集者の先生方は非常にご苦労され、学会によっては弁護士に相談して警告を出しているとか、あるいは文科省が出している指針に則って、雇用者である大学に通知はするものの、そこからがうやむやになるとか、いろいろな問題を聞いている。
 日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)を設立した際に、そうした問題があったとき、1つの雑誌の編集者のみで判断を抱えないで、編集者同士で意見交換、情報交換し、あるいは1つの分科会の経験をほかの分科会が共有して、日本のこういう問題に対するスタンスを公平に標準化していくことも本会議の目的の1つと思っていた。
 次回の第3回日本医学雑誌編集者会議でもぜひ、各分科会のご意見やご経験を発表していただきたい。
 本日はこれで終了する。配布したアンケート用紙に、次回に向けてこうしたことが良い事柄があれば、ぜひ記入して提出して欲しい。