日本医学会

お知らせ

「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」へのパブリックコメント

 診療行為に関連した死亡(「診療関連死」と呼ぶ)に対する異状死届出義務違反や業務上過失によって医師が逮捕、訴追された事件は、その後、産婦人科志望者の激減、地域産科医療体制の崩壊につながり、医師のみならず患者や社会に暗い影を投げかけている。昨今の、「医療崩壊」は、産婦人科領域にとどまらない。
 従来、診療関連死に関する遺族の疑問は、医療従事者が責任を持って対応していく問題であった。しかし医療従事者の対応に不備があった場合、この疑問に応える公的な届出・調査機関は警察以外になかった。この「医師法21条問題」が、医療現場に不安・緊張を強いてきた。現状をこれ以上看過することは日本の医学及び医療の水準を著しく貶める可能性が高い。平成19年3月、厚生労働省は「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」を示し、広くパブリックコメントを求めた。その背景には、現在モデル事業等で模索されている診療関連死への対応の制度化推進に対する強い意向があると考えられる。
 診療関連死の調査では、事例に学び、再発防止に役立てることに加えて、遺族や社会の疑問に対して、医療専門家、解剖専門家が協力して説明責任を果たすことが求められる。そこで、日本医学会は以下のような提言をする。

  1. 調査の目的は、「事故の再発予防であって、個人の過失の追及でない」こと、「患者・医療機関の双方の疑問に公平に応える」ことを明記すべきである。そのため、遺族・医療機関双方からの調査依頼に常時、対応する体制をつくるべきである。

  2. 死因究明と医療紛争への適切な対応は、基本的には別問題である。死因究明については原則として病理解剖を基本とし、臨床医、解剖医等の専門家による総合的な判断を行う。一方、医療紛争の対応は対話型裁判外紛争処理とすべきである。

  3. 医療紛争対応については、以下のような対話型裁判外紛争処理制度を考案することが、患者・患者家族にとっても医療従事者にとっても利点が大きい。
    (1)院内初期対応の充実
    (2)医療関係者等専門家による調停
    (3)第三者機関による仲裁

  4. 現状の医療現場の混乱は医師法21条の拡大解釈にある。これを解決するために速やかな21条の改正を提案する。
    (1)異状死体の範疇から診療行為に関連する死亡をのぞく、という一文を付す。
    (2)診療関連死亡は専門家チーム(診療関連死調査組織)に報告する。

  5. 診療関連死亡の報告、及び診療行為に関連して重篤な結果が予測される事例については、(1)患者・患者家族からの申し出、(2)医療機関の判断、に応じて報告する。調査組織は365日、24時間体制で対応する。

  6. 専門各学会は医療の質を維持し向上させる責務を有し、有害事象からの教訓を活かす方策を実践する。学会活動の一環として診療関連死亡の事例検討、情報提供および人材の育成を行う。

  7. 診療関連死の背景因子等の解明を行い再発防止に寄与する教育制度など体制整備を検討する。不適切な診療行為に関与した医師に対しての再教育に、日本医学会として積極的に関与する。