研究倫理教育研修会

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議事要旨

第1回研究倫理教育研修会

総合討論Q&A

総合討論の質問、応答は下記のとおり。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:総合討論を始めたいと思います。
 最初に申しましたように、最近、いくつかの研究倫理の問題が起こり、学会として、また日本医学会として、研究倫理の問題が今後起こらないようにするために、本日の研修会を行うことになりました。
 研究倫理とは何か、なぜそれを守らないといけないかを十分に理解することが、まず、一番、重要だと思います。学会として、学会会員に対して、研究倫理問題を防止するために具体的に何ができるのか。もしも問題が起こったときに学会として、何をすべきか。学会ごとに異なる事情もあるかと思いますけれども、皆さんで問題点・課題をシェアして、今後、学会ごとに適切な対応をしていただければと思います。
 本日は講演を主体に、研究倫理に係るいくつかの問題を、少し網羅的に紹介させていただきましたが、これから講演順に討論したいと思います。最初に、研究成果の公表などの観点から、北村先生がご講演されましたが、出版に関しては、各学会は機関誌をお持ちだと思いますが、研究不正などの問題が起こったときに、どうすべきか。また、論文の適切な査読などの問題もあります。学会として、どのように対応すればよいか。最初に北村先生から、よろしくお願いします。それからフロアからご意見をいろいろ伺いたいと思います。

北村日本医学雑誌編集者組織委員会委員長:雑誌の不正をなくすという、ちょっとネガティブですがその目的から言うと、お話のなかでも申し上げましたけれども、ぜひ先生方が中心になって、学会でできれば若い人中心でいいと思うのですが、論文の書き方、あるいは不正論文を防ぐには、あるいはいろいろな論文に関する情報、impact factorは雑誌の評価であって、個人の1論文の評価ではないと。Impact factorの数字を集めることが決して研究者の資格でもないというような話とか、そういう情報を的確に伝えていただくのがいいと思います。
 ただ、不正論文をなくそうとか、倫理、倫理と言ってもなかなか分かりにくいので、ケーススタディとか、グループワークとか、本当に参加型の教育でぜひ学会主体で、分科会主体で、若手の人を教育していただきたいと切に思っています。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:機関雑誌をお持ちの学会も多いと思いますが、公表に関して実際に学会の対応はいかがでしょうか。
 私は日本癌学会と日本免疫学会に所属していますが、日本癌学会は機関誌Cancer scienceをもっており、盗用とか改ざんなどの研究不正が発覚したときには、学会自体が詳細な調査はできませんが、各研究機関での調査結果と合わせて、倫理委員会が会員の方にヒアリングを行って、最終的に何か月の会員停止などの措置を行ったことがあります。また、COIの観点から、発表研究に関するCOI開示の問題、査読におけるCOIマネジメントを行っていますが、これ以上のことをすべきか。何かフロアからありますでしょうか。

北村日本医学雑誌編集者組織委員会委員長:1つ追加でお願いがあります。先生方はご存知と思いますけれども、コピペをチェックするソフトがあります。クロスチェックというのが英語で非常にポピュラーになっています。分科会の雑誌も、ほとんどかなりがクロスチェックを使っています。1つの論文をやるのに5分ぐらいで、1ドルぐらいでやれます。
 これはこれで大変有効なのですが、実は日本語のコピペをチェックすることが現在難しくなっています。ソフトはあります。変な名前なのですけれども、コピペルナーというソフトがあります。
 ところが先生方の学会の雑誌の日本語が、インターネットに載っていると思うのですが、そういうソフトがアクセスすることをブロックしているのがほとんどなのです。そういう日本語のソフトがアクセスしたときに、アクセスをOKにしていただきたい。
 要するに過去の自分の日本語の雑誌は自由に見られるようにしていただくと、そういうソフトがアクセスして同じ文章がないかというのが見られるのですが、現在会員でないと見せないとか、そういう仕掛けになっていますと、そのソフトがアクセスしていっても過去の論文にアクセスできません。そのため現在、日本語のコピペルナーというソフトにしても極めて不完全なものです。
 日本語に関して言えば、剽窃がかなりあるように聞いていますので、ぜひ日本語の論文もパブリックにオープンにしていただきたいと思います。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:他に。どうぞ。

日本法医学会/日本移植学会:塚田です。
 現時点では、こういう基準が明確になってきていますからいいのですが、以前の論文はどうなのだと。それから二重投稿ですね、場合によっては学会が、編集委員会が載せてくれとお願いしていたり、ほぼ二重投稿に近くてもたぶん許されてきたようなこともあります。
 ですから、今後に向けてそういうものを調べて質を上げていくことは大変重要だと思っていますが、昔の仕事を洗いざらいやった場合に、あの頃は全然何も引っかかっていなかったのに、これが不正ではなかろうか、なんだろうかと、無用の混乱を生んでまた出てくるようなこともあると思うのですが、過去に関してはどのように考えたらいいですか。

北村日本医学雑誌編集者組織委員会委員長:過去に関しては、何ら規定がありません。現実、たとえば私自身が受けた教育は、「いい論文があったら、そこのパラグラフで使えるところを使ったほうがいいよ。いい英語だから」みたいな、そういう教育を受けた世代です。
 したがって、一般的には出版して数年経ってしまえば、それはそれで確定してしまうのだろうと思うのですが、現行のものを見ますと、いろいろな疑惑がある論文があったら、その著者の過去の論文を全文で簡単に調べられるのです。世の中いろいろな人がいて、それを調べて自分でどんどん投稿してくるのです。「何々先生の、20年前の論文にはここと類似点が多い」みたいな。
 それを止めようがないのですけれども、学会としてそれに対して今更罰則をするというのも変な話だなと思うので、極めて個人的な見解ですけれども、publishして数年したら、それはそれで確定としたほうがいいのではないかなというように思います。先生がおっしゃるような無駄な混乱が起きなくていいのではないかと思います。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:出版・公表に関するもので、他いかがでしょうか。
 Authorshipの問題など、最近では論文によっては1人1人何をやったかを全部書かせるような場合がありますが、今後、各学会誌でも進めるべきでしょうか。

北村日本医学雑誌編集者組織委員会委員長:発表でもあったようなICMJEのrecommendationが載っています。あれが一応世界のスタンダードです。そこにはauthorはこうあるべきだとか、contributeした内容を書くようにとされていますので、おそらく編集長の先生はご存知と思いますが、先生方からもそれを徹底するように、あるいはこの編集者ガイドラインがほぼそれに則っていますので、それを徹底するようにお伝え願えればと思います。
 もう1つ、余分なことかもしれませんが、かつて編集長という仕事があまり重要視されなくて、学会の理事の人が2年おきに回り持ちでやるとかそういう感じのところもあったのですが、現代において雑誌の編集長の権限と責任は極めて重いものがあります。
 かなりの専門職というか、かなり勉強された方が、ある一定の期間されることが、むしろ雑誌の評価を上げるのにはいいと思いますので、学会におかれましても倫理委員長、編集委員長、COI委員長はある程度の期間をしっかりやっていただいたほうがいいのではないかなと思います。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:北村先生は、日本医学雑誌編集者組織委員会を開催しておられますので、それを通じて各分科会に伝わっているということでよろしいですか。

北村日本医学雑誌編集者組織委員会委員長:はい。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:他に何かございますか。よろしいですか。
 次は、利益相反の問題です。利益相反も、ディオバン問題とかが起こる前は、利益相反とは何?というような感じで、私も日本癌学会で7~8年前に利益相反委員会を立ち上げた時に、評議員会などで説明しても、それ何?という感じでしたけれども、あの事件が起こってから、皆さんの理解も深まりました。
 利益相反の基本として、COI状態の開示、さらに、今後は積極的なマネージメントが課題となります。日本癌学会では、最近の学会でのCOI開示は ほぼ100%となり、事件が起こると周知が進みます。一方、開示はしたけれども、実際はCOI問題を理解されていない方も多く、今後マネージメントをどこまでどのように行うのか、まだまだ課題は多いと思いますが、学会としてこの先どうしたらよいか、曽根先生いかがでしょうか。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:本日は対象が倫理委員会委員の先生方ということで、現在最も必要なのは、研究倫理をいかに周知するか、それは各学会であれば会員、研究期間であれば研究者です。
 先ほど申し上げましたように、今、研究倫理で非常に問題になっているのは、医薬品、特に市販後医薬品を用いた介入型の臨床試験の実施であり、そしてそれの成果を公表する講演とか、あるいは論文発表内容についてで、企業が絡むとバイアスという問題が発生してきます。
 私が思うのは、臨床研究、特に研究倫理を理解していただくには、1つは医師になるためにCBTが医学教育で一般化されていますが、頭のなかできちんと理解しておく。それは講義やe-learning等いろいろな方法があります。
 もう1つは、実際に臨床研究、臨床試験に直接かかわらないと理解しにくいと思うのです。この間、ディオバン問題が起きたときに厚労省が調べたら、介入研究は過去5年で約26,000件。非常にたくさんの臨床研究が行われており、適切になされておれば研究倫理の理解に役だっていると思います。
 先ほど福井先生からアンケート結果の報告がありましたが、回答率が50%以下でした。50%以下ということは、回答のない研究機関はきちんと整備されていないのではと思います。そこでは倫理審査の体制をきちんと組めていないというのが実情。研究機関そのものが研究倫理を学ぶ場ですが、体制整備ができていないことが問題の1つです。もう1つの問題は、臨床試験、特に市販後臨床試験をきちんとやれる人材がいない。その対応として研究機関が養成しないといけない。今回の倫理指針では、研究機関の長の責任というのは、人材育成まで含めて書いてあり、基盤整備は喫緊の課題だと思います。
 それからもう1つは、企業からのお金の動きが利益相反マネージメントではいちばん重要なのですが、実際にお金が動いているのはみんな奨学寄附金、それも販売との絡みがある。それらが公開されず、透明化がなされていなかったのが問題です。
 今後改善すべきは、多くの医師が適正な臨床試験を行っていくためには、その資金が非常に重要です。特に大規模比較臨床試験は、多額の資金が必要なわけで、それを1企業から調達するのではなく、複数の企業の収益金の一部を基金化して公的なところから配分していくという方式をとらないと信頼性は確保できず、市販後医薬品を用いた臨床研究・臨床試験は今後できなくなるのではないかと懸念しています。
 逆に言えば、臨床試験・臨床研究が減れば、研究倫理や介入研究のノウハウを学んでいく人が少なくなっていく。そうすると、日本の将来は、日本人の日本人によるEBMとして、適正薬の適正使用や、治療の標準化のための根拠作りが弱体化していくのではと非常に心配しています。
 そういった意味で、研究倫理の啓発というのは、臨床研究・臨床試験ができる環境基盤を、学会と研究機関が一緒に、さらに製薬協も含めて取り組んでいかなければならないと思っています。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:COIに関しては、産学連携を適切に促進する仕組み作りという、大きな目的を忘れないことが重要ですね。
 学会として何ができるのでしょうか。各学会、あるいは日本医学会が、製薬協などともっと協議すべきとか、具体的に改善策として、日本医学会や各学会は何ができるのでしょうか。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:まず第1の啓発的活動、特に研究倫理、先ほど橳島先生から違った観点からご指摘をいただいたわけですが、倫理というのはいろいろな考えがあるという理解は非常に重要です。是非とも、臨床系学会では専門医制度のなかで必須の単位として研究倫理、COIも含めた研修を受けるようにして頂きたい。受けなければ資格をとれない、更新できないという仕組みを作っていただくのがまず第一歩ではないかと思います。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:何かフロアから、利益相反にご意見はありますでしょうか。

日本癌治療学会:日本癌治療学会倫理委員会委員長の古阪と申します。
 貴重な講演をありがとうございました。日本癌治療学会では、COIなどを含めて、利益相反委員会と倫理委員会の合同委員会を頻回に開催しております。
 本日の研修会の目的が、医の倫理の確立ということであるとすると、分科会においては編集委員会、利益相反委員会、倫理委員会の連携を強めること、会員に対しては学術集会時において教育セミナー、あるいは特別講演、シンポジウムなどで周知していくことを考えています。このことは日本医学会連合としての考え方と同じ方向を向いているものとして捉えてよろしいですか。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:日本医学会としても、より体制を整備するということですが、基本は同じ方向だと思います。

日本癌治療学会:分かりました。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:ただ、より改善できるかとかいうことを、ここで議論していきたいと思っています。

市川日本医学会連合研究倫理委員会委員:信州大学CITIの市川と申します。
 この議論、たとえば奨学寄附金といった形はまずいから、今までのお金の流れを変えて、学会でまとめるとか、あるいは大学が管理するという案ですが、もともとああいうお金はいわゆる製薬企業の開発部門から来るものではなくて、マーケティングの部門から来るのです。
 私は厚労省のこの種の会議で呼ばれて1人の講演者となっていったときに、隣に製薬企業の代表が来ておられたときに、ざっくばらんに「例のいろいろなお金、あれは会社にとっての交際費ですよね」と尋ねたところ、「いや、あれは入場料とわれわれは呼んでいる」と言う返事でした。つまり、お付き合いで使っているお金で、あくまで研究費という概念は彼らにはない。ノバルティスの報告書でもそういうことを言っています。
 ですから、そういうもののお金の流れを「こっちにしろ」と言っても、それはわれわれの都合であって、向こうはそれならやりませんということで終わってしまうのではないか。
 むしろ、もしそういうお金の類であるのだったら、もともとわれわれは期待してはいけないのではないかという考えがあるわけです。その辺は、私はきちんと考えておかないと次の作戦が立たないということにならないのではないかなと思っています。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:私の理解ではそういう問題が今までずっとあったので、アカデミアも企業側もお金の流れを適切にしようと変わってきていると理解していていますが、実際に寄附金は減っていますし、その代わりに受託研究として、企業から研究費が出るようになっています。

日本法医学会/日本移植学会:再三すみません。ちょっと別の学会でも手伝いをやっていますから言うのですが、受託研究だったらいいのかと。これ怖いのです。場合によっては、研究の成果がスポンサーのものになってしまうこともある。ですから、寄附金が危ないから受託研究で結べば安全だよという発想は怖いと思います。慎重に考えないといけないと思います。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:受託研究とか、共同研究という形態もありますけれども、それはいかがですか。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:受託研究が怖いというのは、われわれサイドが高い倫理観を持つとか、あるいは受け入れる仕組み、相互批判ができる仕組みとか、透明性を確保すれば怖くない。そういう仕組みを作れば、受託だろうが、寄附金だろうが、あるいは公益性の高い財団からくるお金でも、われわれが適切に使える。一方、そういう仕組みをアカデミアが作らなければ、企業は危ないと思い、研究資金は出さないでしょう。
 先生が言われるように、受託研究が怖い・怖いと言っていたら、企業は先生の所に資金を提供しないと思います。そうではなく、私の所に資金を提供してくれれば、きちんと組織として受け入れ、透明化を基本に対応できるという仕組みを示すことが必要です。
 ディオバン臨床研究疑惑を影響もあり、平成26年度の奨学寄附金の受け入れは、その前の年と比べて全国的に3割近く減っていると言われています。寄附金受入額は、これからますます減ると予想しています。その減少をどうしたらくい止められるのか、それはアカデミアが自浄作用とか、自律的な作用をしっかり持って、適正な産学連携を進めて行かないといけない。そうしないと、企業はどんどん減らしていくのではないかと思います。
 奨学寄附金はその使途が制限されないというのは基本であり、日本の場合、公的な支援が少ないために寄附金なしに臨床講座を存続することは不可能なくらい、大きく依存しています。
 昨年の4月にディオバン問題が新聞で叩かれたとき、製薬協は、「現在寄附金1000万円を受け入れている医局があった場合、その提供会社の医薬品を使って臨床試験を自主的にやっていれば、奨学寄附金は止めるべきだ」という見解を出しました。それは不合理な提案であり、大規模臨床試験というのは1年、2年かけて実施しており、その間寄附金提供がストップさせるという発想は、寄附金に使途制限を設ける訳で基本的な考え方が間違っている。私は製薬協に対して、寄附金授受の透明化が大切なのであり、それは本末転倒の行為であると言っています。
 われわれは早く透明性を確保できるようなCOI開示システム、そのなかで適切にマネージメントする仕組みを早急に作らないと、社会からの理解と信頼は得られないし、企業との関係はどんどん冷え込んでいくというのが心配している点です。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:利益相反の問題は、単純に開示すればいいというわけではなく、大きな目的として産学連携を適正にすることが重要ですので、学会の集まりとしての日本医学会として、そういうことを積極的に行うということを、製薬協とも今後交渉していくということでしょうか。お互いに社会的説明責任を果たせるウィンウィンの適切な状態を構築するということが重要と思います。
 一方、学会でも、まだ十分なCOI開示が行われていない学会もあるとアンケート調査にありましたし、日本癌学会でも、役員のCOIマネージメント体制がまだ十分に確立していませんので、今後も利益相反の問題は、各学会で曽根先生が作成された日本医学会のガイドラインも参考にして、改善していくということで。
 COIの基準にしても、日本の場合は何となく100万円とか同じような基準を作っていますけれども、アメリカの学会などはそれぞれが検討して1円でも貰っていれば記載するという学会もありますし、今後、各学会、あるいは日本医学会でも、常に見直しをする必要あるかと思います。今後も引き続き利益相反の問題を考えていくということは重要だと思います。
 利益相反に関して、何か他にありますか。

日本アレルギー学会:日本アレルギー学会から来ました秀と申します。今、河上先生が言われたことなのですけれども、COIの開示が日本ではなぜ非報告義務の上限というか、免責金額があるのがずっと不思議に思っています。
 外国の学会や、雑誌ではそのような上限はなく、大抵種々のCOI開示がなされているのですけれども、日本の学会でCOIがあるという発表はほとんど見ないので、現実的にはほとんど役に立っていないと思います。
 ですので、COIをマネージメントするという観点から言うと、COIの可能性と、できればそれをどういうように対処したかというところまで示して実効性があると思われます。我が国における上限値というのはどこからきたのでしょうか。また、報告しなくても良い上限値も示してCOI申告をしないとそもそも開示の意味がなく、むしろ目くらましをしている気がして仕方がありません。また、今後もっと厳しく、全部申告するようにするべきではないのか、もう少し議論がいるかなと思うのですがいかがでしょうか。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:項目別の開示基準については、2006年に国立大学医学長会議が協力して文科省検討班から公表したら「臨床研究のCOI指針策定に関するガイドライン」に記載してあります。
 その時に私は班長をしていたのですが、市民の方にも班員として入っていただき、基準額の設定について議論しました。
 当時アメリカでは、開示金額が1万ドルという基準があって、日本だったら換算すると100万円となるので、100万円は1つの基準として研究助成金とか、寄附金については200万円と設定し、講演料・執筆料についてはそれぞれ100万円と提案したら、市民代表の方がそれはおかしい。私は10万円、20万円でも貰えば心は変わりますとの声が出た。ドクターサイドはいや100万ぐらいでも心は変わらないというような議論がありました。最終的に、講演については50万に落ち着いたという経緯があります。
 今後どうするか。基準額をとっぱらうのが良いか検討する必要があります。昨年9月から、アメリカの場合には法的に義務付けて企、業が各医師、研究機関に支払った金額はすべてウェブで公開されています。日本の場合は自主的に製薬協が透明性ガイドラインを公表し、各企業に対して公開をしなさいと推奨している。公開の方法も企業によってまちまちというのはもうご存知のとおりです。しかし、開示基準を取っ払うと、1円でも2円でもという形になったときに、逆にマスコミがその申告開示額と調べてきた額と違っていたら、問題にされる可能性もあります。今の段階では日本の場合、発表内容に関係する企業からの金銭については、基準額以上の場合に開示するというルールが現実的だと考えています。

日本アレルギー学会:そうすると、COIはあくまでその論文なり講演に関するものという理解で良いでしょうか。先生方も本日そういうお示しのされ方でした。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:もちろんそういうことです。

日本アレルギー学会:では、開示すべき程度といいますか、「COIがない」と申告する場合は「これだけの額以上のCOIはない」という表現をしないと、どうも世の中を欺いているような気がします。COIには開示すべき基準があるということは、知る人ぞ知るというのが現状ではないでしょうか。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:日本医学会のCOIマネージメントガイドラインはガイダンスですので必ずしも従う必要はないわけです。私も今回、研究倫理委員会委員長になったので、それなりに勉強してみました。日本の倫理指針というのは、付け焼刃的に継ぎはぎでできてきたとずっと言われていて、欧米のように、なぜそれをやらなければいけないかということを、歴史的な事実も踏まえて積み重ねていないということがあるかと思います。ですから、自分たちの頭で考えて決めればよいのであって、日本医学会が100万円だからとそれに従う必要はないですし、現時点では、産学連携が適切を推進するために、社会的な説明責任が果たせるためには、どういう基準を作ればいいかは各学会が決めればよいことと思います。米国も対応は学会ごとに異なっており、ミニマムの基準はありますが、先生の学会でご自由に決めればよいのではないかと私は思います。

日本アレルギー学会:ありがとうございました。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:次に福井先生がご講演されましたが、最近、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針が作成されました。
 これは法的な拘束力はないですし、各医療研究機関で利用されるものと思いますが、福井先生は、学会として、あるいは専門医教育として、今後、どのように対応すべきか、お考えはありますでしょうか。

福井次矢聖路加国際大学理事長/聖路加国際病院院長:国全体ではこういうルールでやってほしいということですので、学会でも学会員がこの新しい倫理指針についての知識を持っていて、基本的な倫理的価値判断ができるような教育をしていただきたいとは思います。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:本日は、各学会で倫理委員会にかかわる方が来られておりますので、学会の会員に対して、倫理教育をどこまで、どういう形ですべきなのか、万が一学会会員が研究倫理の問題を起こしたときに、学会として各倫理委員会が、会員に対してどのように対応すべきか、いかがでしょうか。

日本臨床検査医学会:日本臨床検査医学会からまいりました通山と申します。
 日本臨床検査医学会の現状をお話しいたしますと、教育的な部分というのは数年前から倫理委員長が自ら教育講演をするというような形で始めています。今年度はシンポジウムを組むということも予定しています。
 それから当学会でも、過去に倫理規定にいかにも違反するような事例がありまして、非常に苦慮したのですけれども、そのとき倫理委員会はありましたけれども懲罰委員会が存在しませんでしたので、倫理委員会のメンバーのなかでアドホックな形でミーティングを持って、その結果を理事会に答申しまして、理事会判断で裁定をしてもらったという経緯があります。
 ただ、そういうことをきっかけに、実際に重要案件、ルール違反などが起きた場合には、これは倫理委員会の範疇を超えているというように理解しています。
 つまり、倫理委員会の役割というのは、あくまでルール、規範を作ることであって、そしてそれを啓発することであって、実際に違反者が出た場合は、別に審議の場所を設けるべきであるという観点で、コンプライアンス委員会を別に立ち上げまして、要事開催ということで対応しています。幸いそれ以降は、その委員会は立ち上げることなく無事に済んでいますけれども、そういう状況です。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:先生の学会では教育も行なっているし、問題発生時の対応もしておられるということですね。

日本臨床検査医学会:少しずつですけれども。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:他、各学会ではいかがでしょうか。倫理教育に関しては、市川先生はCITI e-learningの普及にかかわっておられ、e-learningは大学等の各機関で行う場合が多いかと思いますけれども、学会として倫理教育をどうすべきか。学会が関与する専門医教育の場ではどうすべきか、何かお考えはございますか。

市川日本医学会連合研究倫理委員会委員:結局、大学毎ですね。もともとこういう教育は、若手にやれということが最初に決まって、その後、NIHは2000年に「独立した研究費を持っている研究者もやるべし」と通達したところ、研究者は大反対をしてNIHは先の通達を降ろさざるをえなかったという経緯があります。大学自体の自主性に基づいて研究者にも義務化しているところが増えているという状態です。
 私、ちょっと1つだけ。ここに専門家がお集まりになっているので、ぜひアメリカと日本の倫理審査委員会に参加して気が付いた違いを指摘させてください。
 それは多くの倫理審査委員会のルールは米国のものを参考にして作られたということですが、米国のルールには常識であるため、書いてないことがあるのです。その書いてないことをわが国では行っていないために、奇妙な点が散見されます。この点について知った米国の方も奇妙に思われます。倫理審査委員会というと大体お年寄りが中心になっていることで、米国では決して見られない定年退職後の「研究者」も居られること。
 委員会には一般の人とか女性とかが居られるけれども、専門家というのはあくまで研究をしている人なのです。ですから、研究をしていない専ら管理者の立場に方やリタイアした人が居るはずがない。そして実際に研究している若手が入っていないと。
 「若い人の忙しいのは分かる。若い人には研究の時間を差し上げたいから、こちらはわれわれでこれ面倒を見る」と言うことなのでしょうけれども、結果的に起こることは、「若いあなたの方は管理される人、われわれ年輩は管理する立場で、事を決める人」ということになってしまっていて、それこそ日本学術会議が数年前に報告書で述べた、「日本の研究者には自律性がない。自分で律することがない」と言っていた状況を作りあげているのが実態です。そういう意味で偏りがあり、将来的には困ったことと言わざるを得ません。
 では、若い人のその研究時間をどうするかというと、それが国柄上違うのですけれども、年よりも研究するということなのです。そういう点では、研究文化といった面についてこれから考えていかねばならない内容だと思っています。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:そういう点も考慮しないといけないと。時間がなくなってまいりましたので、最後になるかもしれませんが、よろしくお願いします。

日本医学教育学会:日本医学教育学会から来ました大西と申します。
 われわれのほうでは、研究倫理指針というのを3年前に作って、今のこの人を対象とする医学系研究とはわれわれの扱っている対象者がずいぶん違うもので、これを同列に考えたほうがいいかどうかでちょっと悩んでいますけれども、人を対象とする医学系研究のこの定義というのを見ていきますと、われわれのように医学生とか、あるいは医師に対して教育するというようなものは、人を対象とする医学系研究に入ってくるのかどうか。これはほかの学会の審査等でもきっと問題になるだろうと思ので、ちょっとお訊きしたいと思います。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:必ずしも人に関係していない研究者もいるので、そういう人に対してもそういう教育が必要かということでしょうか?

日本医学教育学会:いいえ。人を対象にするというのが、患者さんを普通は対象にしているので、学生とか医師を対象にする教育というものの研究が、これに当たるかどうかという意味です。

福井次矢聖路加国際大学理事長/聖路加国際病院院長:ガイダンスには、たとえば医科学、臨床医学、公衆衛生学、予防医学、歯学、薬学、看護学、リハビリテーション学、検査学、医工学、介護・福祉分野、食品衛生・栄養分野など、かなりの例示はしていますけれども、先生がおっしゃる医療界のなかの若い方や、学生を対象とした研究はどうなのでしょう。
 研究対象が人であれば、この指針の対象にならざるをえないのではないかと私個人的には思います。

日本医学教育学会:分かりました。

福井次矢聖路加国際大学理事長/聖路加国際病院院長:具体的に医学教育の研究はどうなのかについては、ディスカッションはされませんでしたが、私は本倫理指針の対象になると思います。もし不安な場合には、倫理審査委員会に諮って、扱うかどうかという判断を仰いだほうが良いと思います。

日本医学教育学会:ありがとうございます。

河上日本医学会連合研究倫理委員会委員長:時間が来ましたので、本日はこれで終わりにいたします。今回は初めての研修会でしたので、少し網羅的な講演中心の会になりましたけれども、次回からは、もう少し参加型の研修会として、具体的な事例を含めた検討をしていきたいと思いますので、また次の研修会でもよろしくお願いします。
 最後に久道日本医学会副会長から閉会のご挨拶がございます。