研究倫理教育研修会

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議事要旨

第4回研究倫理教育研修会

総合討論Q&A

総合討論の質問、応答は下記のとおり。

北村日本医学雑誌編集者組織委員会委員長:それでは、残り30分位なのですが、総合討論を行いたいと思います。フロアーの先生方からご質問をいただいて、それを中心に討論してはどうかということになりました。湯浅先生による「医学研究・発表における諸問題:変化に対応するには」と、私がお話しさせていただきました「雑誌編集のガイドライン作り―編集者の権利と責任について―」、この最初の2講演に関してご質問とかご意見とかありますでしょうか。どうぞご自由に、どんな話でも結構です。ご質問等があればいただいて、その次の2講演へのご質問というように考えています。雑誌編集のガイドライン作りでは、今後、編集長の先生方にアンケートを送らせていただきますので、ご回答をぜひよろしくお願いいたします。自由記載でもたくさんのことを書いていただきたいと思っていますが、時宜を得たというか、国際的な流れもしっかり踏まえた上で、よりよいものを作っていきたいと思います。それでは、次の3番目、4番目の、藤原先生にお話しいただきました「臨床研究法の施行で産学連携活動はどのように変わるか?」、曽根先生からの「論文発表を前提とした臨床研究とCOI管理」、この2講演に関してご質問とかご意見はありますでしょうか。

村山日本医学会利益相反委員会委員:日本医学会利益相反委員会委員の村山と申します。藤原先生にお伺いします。臨床研究部会でも少し利益相反の管理基準のことは出ていたと思うのですけれども、先ほどのご説明で、たとえば個人の利益が250万円を超えた場合に、データの解析とかモニタリングとかデータ管理に関与することはできないけれども、監査を受けることによって、PIとなることもできるというご説明でしたが、この場合の監査はどういうイメージなのか、誰がどういう立場で実施するのかという、先生のお考えをお聞かせいただけませんでしょうか。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:まだはっきりとしたイメージを私は持っていません。Q&Aとかを見ても監査という漠然とした表現しかないので、これにどういう形で応じていくのかは今後の課題ですし、これから多分、この認定臨床研究審査委員会の発足に当たって、臨床研究法の運用の色々な細部を検討するワーキングが出るので、そういうところでどういう形で監査を進めるのかということになってくるのではないかと思います。企業のイメージの監査はあまりにも大仰なので、そういうものではないものを、皆さん方が色々な意見を出して作っていけばよいのではないかと思います。

日本血液学会:日本血液学会の高折と申します。臨床研究法に関してお聞きしたいのです。先ほどの質問とも重なりますけれども、基準4に該当して、基準5で示される措置をすれば、研究責任者になってよいという理解だったのですが、認定IRBで相当の理由を認められる限りにおいて、基準5の条件でOKという理解でよろしいのでしょうか。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:私はそのように思っております。

日本血液学会:ありがとうございます。もう一点、臨床研究法に関してお聞きしたいのですけれども、先ほど管理基準に関してすべての施設で同様で、私の理解では管理基準は一緒でも、たとえば同意文書とかは個々の施設で変えてもよいような理解をしていたのですが、先ほどのお話では、すべて管理基準および統一の同意文書等で、多施設共同研究をするという形になるという理解でよろしいのですか。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:施設長は、与えられたプロトコルとIC文書等で、その臨床試験が自分の施設でできるかということを承認するのが施行規則で求められているので、内容を変更したければ、施設はそれに参加しないという判断をすることになると思います。

日本血液学会:ありがとうございます。

日本消化器内視鏡学会:日本消化器内視鏡学会の久津見といいます。藤原先生にお聞きしたいのですけれども、臨床研究法の適用となる臨床研究の中で、特定臨床研究以外の努力義務の臨床研究に関しては、これは法の適用ということで、指針からは適用外という解釈でよろしいでしょうかという点と、そうなった場合に、努力義務の議論はまだなされていないということで、このままずっとなされない期間が長く続きますと、指針でも縛られないし、形骸的な法の中で動くということになると、非常に危ないことになるのではないかという心配があるのですが、その辺りはどのように考えればよいのでしょうか。努力義務の臨床研究はあくまでも法の適用であるのは間違いないという解釈でよろしいでしょうか。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:そこは微妙なところなのですけれども、厚労省の人たちは、将来的には今の特定臨床研究以外の臨床研究に関しても、法の網をかぶせたいと考えていますし、確か国会の付帯決議等でもそのような判断が書かれていると思うので、今後の流れとしては、今、手術とか手技以外の臨床研究は、特定臨床研究以外のものがたくさんあるのです。たとえば適用内で薬を使うような比較試験などですが、そういうものは努力義務の範疇に入ると思いますけれども、おそらくそれも臨床研究法の中に入れていきたいのが、厚労省の考えだと思うのです。それをいつからやるかというと、多分この1年は今から臨床研究はシュリンクするので、そのようなことをやっている暇は、議論している暇はなかなかないと思うのです。けれども、皆さん方がそれを考えて、「これはおかしいのではないか」とか言い始めるのがそろそろだと思うので、そうすると、多分、厚労省の臨床研究部会が次いつになるかはまだ日程調整をしていないので決まっていないですけれども、そういうところで、では努力義務はいつからどのように解釈するのですかというような議論はされることになるとは思います。

日本消化器内視鏡学会:そうなると、現在は法ではなくて、指針を適用して運用していくという考えでよろしいのでしょうか。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:そこは施設長の考え方もあると思います。でも将来を見据えた努力義務のところは本来やってもよいというように割り切って、これから準備するということを考えて、指針の範疇だけれども臨床研究法の対象として運用していくことも1つの考えかと思います。ただ、私どものがんの領域であると、JGOGという多施設共同研究グループがありますけれども、あれはプロトコルとIC文書を各施設で通すのが非常に大変なので、多施設共同研究は努力義務を守っていきましょうと。努力義務と通常の特定臨床研究との違いは、厚生局などに届け出をしなくてもよいというところ位が違うのですけれども、そういう事務的な処置がなければ、ただモニタリングとか監査とかデータマネジメントとか、普通のようにやっていると思うので、努力義務に合わせて臨床研究に対応した方が楽だという割り切りもあると思います。

日本消化器内視鏡学会:ただ、そうなりますと、認定臨床研究審査委員会を通らないといけないことになるので、かなりの努力義務の臨床研究が審査にかからないという現実が生じるのではないかと思うのですが。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:一方で、これは講演の中で申し上げたように、実務的な運用として考えた場合に、認定臨床研究審査委員会は3月末で39位です。50位になると研究課長は言っています。それになったとしても、これまで走っていた臨床研究を全部、認定臨床研究審査委員会にかけるのは、かなり難易度が高い話なので、それが今さらにこの1年間の猶予期間の中で、現在走っている特定臨床研究に該当する臨床研究も再審査がありますから、それが済んでから新しいものに対応しないと多分難しいという現実的な問題もあると思います。

日本消化器内視鏡学会:要するに学会で演題とかを採択する場合に、その辺が難しいかと思うのですが、指針の適用の中で、法で言うところの臨床研究を見て、承認を与えて、発表していただくのか、きっちりとこれは法の努力義務ですというところで認定臨床検査審査委員会の承認を取らないと、発表していただけないのかという、その辺が、何か指針を出していただかないと、われわれはすごく困ると思っているのです。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:これは今Q&Aが2つほど出ているのですけれども、何度も事務局の方も、「Q&Aの中にそういう努力義務の解釈を入れませんか」とか、先ほど講演の中でも申し上げた、「医療機器の適用外の範囲をどう考えたらよいのですか」とか、「そういうのを書いてください」と内々には言っていますけれども、それを本当に書いてしまうと、更にぐっとわれわれの首が絞まるという現実も片方にあるので、なかなか今では書けないのではないかなと思います。ただ、これから夏から秋にかけて、厚労省の担当者が多分、色々な学会で講演されると思うので、その中でどのようにするかというのをまた更に言ってくるのではないかと思います。人事異動があって、臨床研究法担当の室長さんが今回代わりましたから、新しい方が多分これから2年はやられると思うので、色々なところで解釈を述べると思います。

日本消化器内視鏡学会:ありがとうございます。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:それでは次の方、簡潔にお願いします。

日本神経学会:日本神経学会からまいりました園生と申します。藤原先生にお聞きしたいのですが、最初の臨床研究の定義のところで、医薬品等は医療機器も含むというお話でしたけれども、ここで検査機器を用いて、何かの検査をして、色々な疾患の感度や特異度を出すような検査はたくさんあると思うのですが、そういうのは医療機器の有効性というのはないので、含まれないと考えてよろしいのでしょうか。その辺りを少しお尋ねしたいのですが。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:医療に関係する、有効性・安全性に関与するような測定機器というのは結構ファジーなところなのです。「たとえば肉の固まりの固さによって癌を判定するような測定機器とかがあった場合に、それが特定臨床研究に当たるのでしょうか」というようなケースを尋ねると、「それは有効性・安全性とかの判断に関係してくるので、特定臨床研究の対象になります」というような回答が返ってくる場合があります。われわれとしては、あまりそれを突き詰めていくと、講演の中でも申しましたけれども、医療機器をこれまで非常にファジーに運用しているところが、全部特定臨床研究で認定臨床研究審査委員会にかけなさいという話になってきますので、難しいところです。

日本神経学会:なかなか難しいですね。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:全部疑義解釈を求めて、「じゃこれはどうなんだ、これはどうなんだ」とやっていくと、際限なく色々なことが規制される可能性もありますけれども、一方で、何も言わないで放っておくと、あるとき急に、「特定臨床研究じゃないですか。これは違反じゃないですか」とか言われる可能性もあって、医療機器を研究されている先生方は、かなりこれからは中で議論された方がよいと思います。臨床研究部会の中にも医機連の方もいらっしゃいましたけれども、その辺は詳しく深掘りの議論は平場の中ではやられていません。

日本神経学会:ありがとうございます。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:藤原先生は臨床研究法施行後も色々な形で関わっていかれると思いますので、問題点とかコメントがあれば、藤原先生を通して厚労省に反映されると思います。1つお聞きしたいのは、利益相反管理基準がかなり具体的に示されていますが、研究機関の倫理の専門の方がガイダンスとして提案したのを、厚労省は1つの推奨のモデルとして出しています。先ほども言いましたが、この基準は法律でもないし省令でもないという解釈でよろしいのでしょうか。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:課長通知に付随しているガイダンスというものなので、行政指導文書の一環とは考えられるかもしれませんけれども、ただ、日本の場合、ガイダンスと出ていても、結構皆さんそれを大事にされるという風習がありますから、微妙なところですね。ただ、私は先ほど講演でも申し上げましたけれども、バラバラにやるよりは統一組織がまずあって、それを運用した上で、その中身を改変していくというのがよいパターンかと思うので、問題点があればどんどんそのように言われたらよいと思います。これから先ほど申し上げたようなワーキングが立ち上がって、色々なものを検討される会議が多分あると思うので、その中で修正とかをされるのがよいのではないでしょうか。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:認定IRBについて、研究者に対するCOI管理基準により、かなり厳しく規制していますが、認定IRBの委員に対してもCOI管理が、私は当然必要だと思うのですが、そういう議論はあったのでしょうか。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:臨床研究部会の中での議論では、なかったように記憶しています。私は欠席したことが何回かありましたけれども。先ほど先生からそれを聞かれたので、課長通知をもう一度見直そうと思ったのですが、時間がなかったのでタイムアウトでした。認定臨床研究審査委員会の委員のCOI管理をどのようにするかというのが詳細に規定されているかどうかは、ちょっと調べてみますけれども、記憶の中ではざっと見たときにはなかったので、どうなっているかというのは後日確認させてください。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:先ほど認定IRBの責任というのは、研究機関の管理者あるいは長と関連させて考えたときに、どこまで認定IRBに責任があって、研究機関の長にはどれだけあるのかという点は非常に曖昧だと思うのです。本来、研究対象者、主に患者さんが臨床試験に参加される場合、当然研究機関を信じて参加するわけですね。研究機関側は当然に参加者の救急的な対応とか、臨床試験ができるような基盤整備を行うべきであって、もし問題が起これば、研究機関の長が適切に対応していくのが基本だと思うのです。しかし、研究代表者が特定臨床研究を実施していく場合、重度の副作用が出れば、保険によってカバーできますが、今回、研究代表者がすべての責任を取るという場合、補償だけではなくて、医療事故などの問題が発生して訴えられたときに、それもすべて研究代表者だけが対応すべきなのかという点で、私は非常に懸念するのです。そういう議論というのは当然あったと思うのですが、先生はどのようにお考えですか。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:これも講演の中で述べましたけれども、日本のこれまでの長い歴史から考えて、研究者個人の責任というよりも、組織全体として責任を取るというのがあるということを、やはり臨床研究部会の中でも複数の委員が述べられて、臨床研究法では研究責任者の責任というのは、最初は非常に重く書いてありましたけれども、施行規則の中でちゃんとそこに組織の長が関与するような記載に変わってきたという流れがあります。実際に訴訟になった場合に、個人を訴えてもそんなにお金が取れるとは思いませんから、やはり当然そのときには組織の長、あるいは組織一体となった訴訟を、多分弁護士さんは考えてくると思いますから、そこは訴訟になるのは嫌ですけれども、なった場合には個人だけを責めるというようなことはなくて、その人が所属している組織全体を訴訟の対象にすると思いますけれども。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:今日来られている先生方は、おそらく研究機関でかなり重要な役割を果たしていると思います。私も講演の中で強調した点は、倫理指針の場合、研究機関の長がすべての責任を取るということになっており、今回の臨床研究法についても同じような考え方で対応していただくのが、研究者を守り、臨床研究の推進に大きく役立つのではないかというように思っています。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:講演の中で申し上げたICH-GCPも、スポンサーの責任も非常に重く、investigatorの責任がうたわれていて、アメリカなどでは臨床試験の契約はあくまでも個人と結ぶと言われていますけれども、実際大きなアカデミックインスティテューションに行って聞いてみると、個人の契約ではなくて、組織としてちゃんと契約にタッチすると言っていますから、法律の実態と実際の運用がかなり乖離しているのが、特にアメリカなどはそういうのが多いので、そこは組織がちゃんと面倒を見ていくというのが、今後も日本では続くのではないかと私は思います。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:それともう1つ、認定IRBのクオリティーをどのように確保していくのか。今、50近く認定されていますが、委員の人たちを対象とした研修とか教育的な支援がなければ、認定IRBの間で大きくばらつくのではという懸念がありますが、そういう点についてはいかがでしょうか。

藤原国立がん研究センター企画戦略局長/中央病院副院長:これは臨床研究部会でも私は質問させていただきましたけれども、臨床研究の法律の建て付けの前の色々な検討会でもヒアリングがありまして、さらにその前に厚労省の特別研究で私は班長をやらせてもらって、2年目は慶應のロースクールの磯部先生が班長をやりましたけれども、欧米の臨床研究の法制化の調査をしてきたのです。その中で実際に運用を見てみると、規制というよりもむしろ教育に重点が置かれていて、それから均一化です。いちばんその辺が進んでいるのはイギリスかなと思ったのですけれども、イギリスはlocal ethics committeeというか、地域のethics reviewが非常に盛んなのですけれども、その均一化のために、何年かおきに必ずmock reviewといって、決まったプロトコルを複数の倫理審査委員会で審査させて、同じような結論になるか、どういう議論がされているかを、NHSの傘下の機関が全部チェックしているのです。そういうところに結構金をかけています。研究不正への対応を見てみても、アメリカのORIも以前は規制の方に走っていましたけれども、予算が削減される中で、結局教育の方に舵を切ったというような歴史があるので、今後もし日本でこの認定臨床研究審査委員会をやるのだったら、IRBショッピングといって、「優しいところに行ってもらっては困るのではないですか」というような質問を厚労の部会でして、「そういうところに予算措置が要るのではないですか」という話もしたのですけれども、なかなかお金がつかないので、今のところ、日本の認定臨床研究審査委員会の組織を超えた標準化をどのようにするかというところに関しては、全く手がつけられていない状況だと思います。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:それでは、5番目、6番目の2講演に対してのご質問に入りたいと思います。

津谷日本医学雑誌編集者組織委員会委員:日本医学雑誌編集者組織委員会委員の津谷と申します。仁尾先生にお伺いします。今回、先生が発表されたのは、学術集会への演題応募に関する指針ということです。これと論文投稿規定との関係はどうなっているのでしょうか。
 もう1点、指針の前書きの文章を先生は紹介されました。「本指針は、あくまで患者の福利を最優先に考え」とあって、最後に「同時に会員を違反行為/処罰から守るためのものである」とあります。後半の方は大変明快でよいと思うのですが、始めの「あくまで患者の福利を最優先に考え」というところが、先ほどの市川先生の話の中にもあった、ソーシャルというか、拡大した集団との関係でどうなるのかなと思いました。今は外科の領域でも介入研究、時々ランダム化比較試験も見かけるようになりました。介入研究の場合は、臨床試験の対象となる患者と、その結果が使われる将来の患者の双方がおられますね。「患者の福利を最優先」というと、研究対象者としての目の前の患者を守ると解釈されるように思われるのですが、これはもう少し広い意味で使われているのか、その辺をお伺いします。

仁尾日本医学会連合研究倫理委員会委員:初めの論文との関連ですけれども、論文の方に関しては、すでに当初からこの倫理指針が適用されていると考えていまして、それを今回の学術学会の応募演題にまで広げるというような理解で行ったものです。それから、文章の中での「患者の福利を最優先」に関しましては先生のおっしゃるとおりで、たとえば割付試験などをした場合、片方にはあまり福利的ではないことが当然あり得るわけですけれども、ただ、ここで言っているのはそういうことではなくて、この研究自体がそれを越えて、あくまでもその先にあるものが患者の医学的な有効性を確認する、それが福利につながるのだと、そのようなこととご理解いただければと思います。もしあまりご不満が多いようでしたら、変えるということももちろん可能です。ありがとうございます。

市川日本医学会連合研究倫理委員会委員長:5番目、6番目に関するご質問に入りましたけれども、仁尾先生、あるいは私に対するご質問があればどうぞ。

浅井日本医学会利益相反委員会委員:日本医学会利益相反委員会の外部委員の浅井と申します。元朝日新聞の編集委員です。今日のようなマネージメントルールの研修会で論議ができることは非常によかったのですが、こういう努力が社会全体、ほかの方々にどれぐらい理解いただけているのかが心配なところです。私は元新聞記者なので言えることですが、今日のような論議はほとんどの新聞記者は残念ながら理解していないし、知らないです。私もたとえばディオバン問題の報道をするときに、COIマネージメントの重要性を新聞社内では話したのですが、「製薬企業から1円でも金をもらったら駄目だろう」とか言う人が新聞記者の中にいるわけです。そういう意味で、社会との対話をどうやってしていくかというところ、先ほど市川先生がおっしゃった信頼回復ができるかというところのお考えを聞かせていただければと思います。たとえば2017年7月に市川先生とか門田会長が、「提言 - わが国の医学研究者倫理に関する現状分析と信頼回復へ向けて」を出されましたけれども、そのような流れの中で、今後どのような社会との対話をしていくかというところをお聞かせください。

市川日本医学会連合研究倫理委員会委員長:難しいことですよね。特に臨床研究家がともかく日本人の健康のためにと、非常に気を使って努力しているところに、言い方は悪いのですけれども、実際に手かせ足かせと思われるものが関わっていると。そういうことについて、浅井先生が言われたように、非常にネガティブに取る方もおられるけれども、やはりコミュニケーションは非常に必要だと。多分、われわれはテレビの役者にでもならなくてはいけないのかなとも思うのですが、やはり機会を通じて積極的に、記者の方から面会を求められたら、簡単に断らずにお話ししていくと。私がそれで思い出しますのは、何年前か病院で医療過誤が起きたときに、その原因を説明するのに当たって丸一日かかった。なぜかというと、なぜその子供が亡くなったか、いわゆる経口液を経静脈で投与するとなぜ死に至るかということを、刑事の方に説明するわけですが、その方は文系の方だから中学までの理科の知識しかないということで、非常に時間がかかったわけです。そのように、覚悟してお話ししていく必要があるのではないかと。われわれはとかく患者さんに対して専門用語を使ってしまうということは、よく反省としてあるのですが、患者さんに対するコミュニケーションと同じように、いわゆる一般の方の言葉を使って説明していく必要がある。これは結構われわれが思っているよりもかなり大きな仕事だと、私自身は思っています。

日本消化器内視鏡学会:日本消化器内視鏡学会の藤田と申します。今回、プロフェッショナルオートノミーに任せてはおけないということで、法の規制がかかったということも言えようかと思うのですが、こうやって色々な事件を見てまいりますと、やはりカウンターパートの薬業界の姿勢も大きく影響していたということがあったわけです。これを寄附から契約に変えるということだけで、薬業界に求める内容としては十分なのか。その点に関してのアカデミアから国へのリクエストは、どのようなものが出されているのか。やはり契約で縛られたことで、結果次第で論文発表その他が変わるようでは、全く本末転倒だというようにも思いますので、この辺のやりとりがどこまで行われているものかを、少しお伺いしたいと思うのですが。

市川日本医学会連合研究倫理委員会委員長:利益相反ということに関することですよね。製薬会社の意向によって、発表がはばかられるというようなことも含めてのお話だと思うのですが。

日本消化器内視鏡学会:そうですね。契約という一言でわれわれは今日聞かせていただいたのですが、その契約の中身ということで、こういった色々な学究活動がどう影響を受けるのか、受けないのか、アカデミアのアカデミアたる活動が担保される契約、そういったものの雛形も厚労省から準備されているとか、その辺りまで突っ込んだお話を聞かせていただけると、大変ありがたいと思います。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:先ほども紹介しましたように、企業とわれわれアカデミアは、臨床研究を実施する場合に立ち位置と方向が違います。企業の場合は、対象が誰かというと株主です。株主を意識して利益を上げていく。そのためには、違法性を回避するために、多数の顧問弁護士がいるわけです。サイエンティストは患者さんを対象に、倫理性の確保を重点に考えます。臨床研究の場合は企業とアカデミアは連携しなければいけないわけで、その立場の違い、方向の違いをよく理解しておかないと、産学連携に関して不正などで新聞沙汰になったとき、犠牲者は誰かというと研究者がなり易い。企業側にはほとんど影響はない。というのは、ディオバン研究不正事件にしても、裁判結果は企業の人がデータ操作をしたのですが無罪です。研究者であった教授は早々にリタイアして惨めな生活を送っている。また、論文撤回があった研究グループは道義的に決していい気持ちでないと思います。ですから、製薬協の臨床研究支援のための指針は、よく契約書を読んでいただいて、そして契約の内容に照らしてその詳細を論文の中とか、あるいはプロトコル、それからインフォームド・コンセントの中にきちんと書いておいていただきたい。もし何か疑念を招くことが起こったときに、企業側も説明責任があるという理解をしていただきたい。それがわれわれのいわゆるマネジメントだというようにご理解いただきたい。

日本消化器内視鏡学会:先生がおっしゃったとおりで、企業は臨床研究の中で個々の責任問題に関しては、自分たちは関係ないという姿勢を担保するような形の契約できているということ、これを共通の認識にまず持つということも、アカデミアにとってはこのたびの法施行に対応するに当たって非常に大事な作業だと思いましたので、少し質問させていただきました。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長:今日のテーマは「医学研究発表の質と信頼性の確立」、最初に門田会長も言われたように、逆に言えば研究不正の防止ということになります。今日の各演者の方からは、最終的に研究者の意識を変えるということが一番だと思いますし、どのようにサイエンティストとして行動するかの規範をきちんと理解させる。そのための教材作りは市川先生からお話がありました。日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会が2017年に設置されましたので、次回の2019年からは4委員会合同企画による研究倫理教育研修会を開催することになっています。ぜひ来年も色々なご質問を持って来ていただきたいと思います。