日本医学会分科会利益相反会議

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議事要旨

第2回日本医学会分科会利益相反会議

総合討論Q&A

総合討論の質問、応答は下記のとおり。

曽根委員長:シンポジウムの各講演で、日本における利益相反(COI)マネージメントの状況をご理解いただけたと思う。日本の場合、それほど多くのCOI問題が生じているわけではないが、大阪大学のベンチャー企業立ち上げの際に非公開株が公開されたとき、ある教授が多額の報酬を受けたことが最初に問題になった。その時点ではまだ利益相反マネージメントの概念がなかった。
 その後、タミフルの問題、イレッサの問題等、さまざまな議論がなされたが、日本には、利益相反をマネージメントするための指針が各施設・機関にないという現状を踏まえて、文部科学省「臨床研究の倫理と利益相反に関する検討班」で、「臨床研究の利益相反ポリシー策定に関するガイドライン」を2006年に作成し公表した経緯がある。
 2008年以後、医学系の大学、研究機関においてCOIマネージメントに関する指針が策定されてきている。2008年当時のアンケートでは、約3割の医科系大学しか「臨床研究の利益相反に関する指針」が策定されていなかったが、2010年段階では約8割の施設が策定していたことから、臨床研究、臨床試験を行う多くの施設においてCOIマネージメントがなされていると理解している。
 一方、研究成果の発表の場である日本医学会各分科会においては、残念ながら2010年6月の段階でまだ2割程度しかCOI指針が策定されていなかったが、最近のアンケート結果では4割弱まで増加しており、日本の産学連携による医学研究の推進も、COIマネージメントの面から支援されている。
 産学連携は双方向的というより、むしろ「産」から研究組織ならびに研究者個人に対して資金が提供される。産学連携のなかで資金が動くなかで、「産」がいかにスポンサーとしての役割と、社会的な説明責任を果たしていくかという観点から、2011年、日本製薬工業協会の「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」が策定されたと理解される。
 しかし、産学連携を適正に行う上で、研究者サイドのCOI指針に基づくマネージメントと、利益を求める企業サイドから公表した「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」とは、必ずしも同じベクトルで同じ方向を向いているわけではない。産学連携によって資金が動くことは必須であり、疑念が発生しないような形で行うことは、国民の視線から大切なことである。
 国民の代表といえるかどうかは分からないが、マスコミの視点は非常に重要である。しかし、マスコミは、必ずしも、横断的に日本の産学連携の医学研究、あるいは臨床研究の推進という立場で記事を書いているわけではない。マスコミ自体が1企業として利益を追求していくなかで、バイアスがかかっていく問題もある。マスコミの内部でも、科学部と社会部では、全く違う方向にベクトルが向いている。そうしたなかで、これからも産学連携活動の在り方についてもいろいろな形で議論を進めていきたい。
 まず最初に、日本医学会の各分科会がCOIマネージメントをいかに行うかという点において、学会間に温度差がある。特に6割の分科会はまだCOI指針を策定していないので、マネージメントができる状況にない。この点について全体的に何か質問ならびにコメントがあればお願いしたい。
 2010年に各分科会にコメントを求めた際に、「COI指針は絶対作らないといけないのか」という質問があった。そのとき、「日本医学会で定義している医学研究とは何か。これについては産学連携が1つの条件で、診断、治療、予防法の開発という研究活動をしている会員がいる学会は指針を作るべきであり、そのことが会員を守ることだと理解していただきたい」と回答したが、よろしいでしょうか。

日本温泉気候物理医学会:1つ確認させていただきたい。「医科系大学におけるCOIマネージメントの現状と問題点」の講演において、企業主導の治験の場合も利益相反の審査対象にするかという質問があった。企業主導でも、受託なのか委託なのか、さまざまな形で大学のなかに治験が入ってくる場合がある。そうした企業主導の場合も、担当する大学職員が自ら申告することを意味しているのか。

玉置国立大学医学部長会議研究倫理に関する小委員会委員長:そのつもりで質問を作成した。

日本温泉気候物理医学会:大学で申告するとしても、企業に関する治験はいろいろなところで広がりを持っているが、企業側はどのように整理しているのか。

玉置国立大学医学部長会議研究倫理に関する小委員会委員長:そのあたりは十分整理できていないのだが、医師主導の治験も、企業主導の治験も、サイエンスとしての価値は同じだと思っている。企業寄りの治験であるという疑いをもたれると、そのデータの信頼性が欠けてくるので、公正、中立にデータを出したというためには、COIをきちんと開示する必要がある。

日本温泉気候物理医学会:そうすると、大学では企業主体で分担している場合でも、「きちんと申告しなさい」という一筆が入っていると理解してよいのか。

玉置国立大学医学部長会議研究倫理に関する小委員会委員長:半分より少し多い大学では、企業主導の場合も利益相反の対象としていたが、大学によって少し受け止め方が違う。そこはまた議論する必要がある。

曽根委員長:医師主導の治験と企業主導の治験がある。たとえば、徳島大学に治験の依頼があった場合、principal investigatorか、あるいは分担かということで、臨床試験の委員会や倫理委員会とは違ったIRB(治験審査委員会)で審査されるのだが、治験を行うという意味では、施設の長がすべて責任を持たなければいけない。COIの観点からすると、ある教授がprincipal investigatorとして申請してきたときに、あまりにもその企業との金銭的関係が強い場合、非常に産学連携に熱心な教授であるが、それ自体が悪いのではない。その場合、COI委員会として、その教授にprincipal investigatorをしてもらうのがよいのか、あるいはその教室の准教授や講師にしてもらうのがよいのかを判断するためには、申告してもらうことに意味があると理解していただきたい。
 当然、そのような場合は多施設で実施するので、他の施設についても各施設ごとに倫理委員会を通し、対応すればよいのではないか。

日本超音波医学会:私もいくつかの学会に所属し、そこでCOIマネージメントの検討のディスカッションに参加しているが、本来、COIマネージメントは研究成果が適正に発表されるためのものである。具体的に言えば、企業から研究費を受け取って研究した結果を発表するときに、研究費を受け取ったことによってバイアスがかかってはいけないので、手段の1つとして、研究費を受け取っていることを公開するという話である。しかし、本質的な本来の目的ではなく、公開すること自体が目的になり、いくらまでの金額を公開するのかといった非常に細かい話で止まっている学会もある。
 公開はもちろん大事であり、第1歩であると思うが、最終的なマネージメントの議論は、どの学会もまだ足りないのではないか。日本医学会のCOI指針でも、やはり公開することに重点を置きすぎているような気がするので、それ以外のところでも、適切なマネージメントの方向性を示していただければ、各学会ももう少し進められるのではないか。

曽根委員長:ご提案の趣旨は理解するが、「日本医学会 医学研究のCOIマネージメントに関するガイドライン」は、あくまでもマネージメントのためのガイドラインであり、非常に詳細なことも書いてある。不明瞭な点、あるいはここは違うのではないかという点は、ぜひ事務局を通じてわれわれにお知らせいただきたい。
 基本的にCOIマネージメントにおいて、学会としては研究成果にバイアスがかからないように発表していただくことが非常に重要な点である。人間としてバイアスがかかることは当然起こりうる。企業との関係を開示することによって、発表された研究内容をaudience側でもバイアスを解除し、補正していく意味で公開しているとご理解いただきたい。
 COI指針策定は小さな学会では大変で、共通指針を一緒に使ったほうがよいのではという意見もあった。もちろんそれで結構だと思う。
 日本内科学会では、内科系関連13学会と一緒に、共通指針を策定した。実際、11学会が共通指針として使っているので、未策定の学会については、関連する学会ですでに策定されたものがあれば、その学会に依頼して共通指針として使っていただいても問題はない。

日本プライマリ・ケア連合学会:先ほどの意見の補完になると思うのだが、利益相反ポリシーを学会として出すことは重要であるものの、一般論では各学会のもつ意図が見えにくい。むしろ、学会内で議論した結果、寄附、受託研究、ランチョンセミナー、接待などについての学会の考え方を分かりやすい形で示すようなポリシーを作るほうがよいのではないか。

曽根委員長:もちろんその考えでよいが、そうしたものがすべてうまくまとまったのがCOIポリシーである。各学会共にオールニッポン、世界との競合のなかで活躍されているわけであり、学会発表や雑誌の投稿においては、国際的に通用するCOIポリシーが求められる。そういう意味で、学会として、COIポリシーという形で作られた中身の基準について、社会に対して説明責任を果たせるような内容であれば、他の学会と全く違ったものでもかまわない。

日本プライマリ・ケア連合学会:学会ホームページのトップページに、ランチョンセミナーなど、企業の宣伝が載ることには、個人的に違和感がある。「ランチョンセミナーは縮小し、学会参加費を3万円にします」というようなことが、ここに集まった学会の中で部分的にでもキックオフ的にできるとよいとは思う。

曽根委員長:誤解しないでいただきたいのは、ランチョンセミナー、イブニングセミナーを企業が主催することが間違っているというわけではない。しかし、学会としては、スピーカーが特別講演、教育講演で開示しているのに、同じaudienceに対して、企業主催の場合には開示しないような、一方では開示、一方では非開示というやり方ではよくないという意味である。産学連携は透明性を確保してどんどん進めていただきたい。

平井委員:公開だけに比重を置かないで、マネージメントにも少し配慮してもらいたいという趣旨の意見があったが、私も全く同様に感じている。大学などさまざまな組織の利益相反委員会のなかで私はマネージメントを行っているが、マネージメントは非常に大事である。具体的にマネージメントは何かというと、先生方の自己申告書を見て、ここは直したほうがよい、ここはこうしたらもっとよくなるのではないかという点を見つけたときに、それを説明し、理解していただいて、よりよい形に持っていく共同作業である。公開に頼るだけではなくて、分科会のなかでもそうした共同作業が進むと、よりよいものになると思う。
 マネージメントと公開には、それぞれ長所と短所があるので、双方が補い合って説明責任を果たすのではないかという気がしている。
 ランチョンセミナーについては、確かに産学連携活動の一環でもあり、いろいろな意味で「産」からのスポンサーシップがなくなると研究活動も停滞するので、バランスをどのようにとるかが大切である。

曽根委員長:日本製薬工業協会が公表した「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」について、ポジティブにもネガティブにも影響があるのではないか。この点について、少し議論をしていただきたい。
 まず、欧米において、アメリカのSunshine条項と他国ではかなりの温度差があるというのが第1点である。なぜアメリカの場合、あれほど厳しい内容を盛り込んだ条項が出てきたのか、その背景について、教えていただきたい。

花輪日本製薬工業協会医薬品評価委員会副委員長:まず、アメリカにおける医療保険改革法を国民皆保険へ転換するためにSunshine条項などが規定された。アメリカでは法律での規則がなければ過度の行動が取られることもあり、今回、法律による規制を行うこととなったと考えている。今回の医療保険改革法策定の議論中に、「医師を製薬企業の営業マンとして用いさせない」ために、Sunshine条項があのような内容になったと報道されている。
 日本ではそのようなことまではいわれない。しかし、アメリカでは、誤解か本当か分からないが、「医師を製薬業界の営業マンとして使っている」という言葉が出るぐらいであるから、そうしたことに関して厳格にする、やるからには徹底してやるということで、あのような条項になったと推測している。

曽根委員長:日本では全く同じことを適用できないと思うが、日本製薬工業協会の「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」と、アメリカのSunshine条項との違いはどこにあるのか。

花輪日本製薬工業協会医薬品評価委員会副委員長:透明性の確保の観点から開示していくとの方向性には、大きな違いはないと考えている。法律によるSunshine条項規制と自主規制の場合とでは全く同様にはならないと考え、日本製薬工業協会のガイドラインのような開示方法を示したと理解している。

曽根委員長:アメリカで、NPOの調査報道機関であるPRO PUBLICAが、企業から発表された医師への提供資金について、コンピュータ解析をしてデータベースを作り、逐一発表しているが、その中身を見て非常に驚くのは接遇の1つである食事代である。アメリカの場合、MRがランチ時に医師に接触してさまざまな宣伝活動を行うのだが、そうしたランチ代金についても、どの医師にどれだけの金額が支払われたかが詳しく出ているし、どの会社が、どの州のどの町のどの医師にどれだけの金額を支払っていたかを集計して、非常に面白く書いてある。
 PRO PUBLICAは、患者へ情報を提供している。患者が、どこの地域の誰々という名前を入れると、簡単にそうした情報が検索できる仕組みになっている。こうしたことが日本で起こるかどうかは別として、懸念するのだが、いかがか。

浅井朝日新聞社編集委員:新聞社の感覚としては、こうした仕組みがないほうがおかしいくらいであり、同様の報道はあると思う。
 アメリカ的に言えば、消費者運動、あるいは患者運動に近いものがある。そうした視点からすると、実際に、現在のかかりつけ医が企業とどのような関係にあるのかを知りたい患者はいるし、それを止めることはできない。おそらく新聞でもそうした記事が出てくると思う。それは、ある程度こうした情報が公開されていくなかで乗り越えなくてはいけない点であり、企業と大学が一緒に産学連携を行っていく価値を別途アピールし、患者の理解を得ていくことが必要である。

曽根委員長:アメリカの場合、特に生活習慣病的な疾患に対して、開業医レベルで治験が行われることが非常に多い。これは、開業医、一般病院の勤務医の収入が非常に大きいことも関係があるのかもしれない。
 産学連携による医学研究、あるいは臨床研究の推進という観点から、日本製薬工業協会が公表した「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」のなかのA~Eの5つの公開対象において、どこに個人名と関連して提供金額が公開されるのか、非常に関心が高い。
 Cの「原稿執筆料等」では、完全に個人名が出てくる。
 Bの「学術研究助成費」では、どこまで個人名が出てくるのか、あるいは同定できる情報が出されるのかということである。
 産学連携のなかで大きな役割を果たすのは、やはりAの「研究費開発費等」である。ここは年間の総額だけで、全く個人を特定できないような情報となっている。研究者サイドからすると、企業から提供される情報は、国民、患者が興味を持つところにしか公開されず、個人名が出てくると一人歩きをするのではないかと思うのだが、そういう点の議論はなされたのか。

花輪日本製薬工業協会医薬品評価委員会副委員長:Aの「研究開発費等」は、GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準)、GLP(優良試験所基準)、GPSP(医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準)、GVP(製造販売後安全管理の基準)など、公的規制の下で行われている。そうした規制のなかでは、中身について個別開示でなくとも、こっそりと行っているものではない、ということが第1点である。
 第2点として、研究開発に関わる共同研究や委託研究時点の場合、経営上の重要事項との観点から、アメリカのSunshine条項においても、承認まで、または試験実施後4年間の短い方までは開示しなくてよいといった選択肢があるので、世界の流れと同様と考えている。
 もともと医薬品開発に係る臨床試験等は国の規制に基づいて行われているものであること、また、国民にも、医薬品の開発にはそれ相応の経費や研究費がかかることをご理解いただきたいことから、総額表示の形での公表にしている。

曽根委員長:日本製薬工業協会サイドからの意見であるが、これについて質問、コメントがあればお願いしたい。

日本生体医工学会:日本生体医工学会には治療機器を作る会員も結構多いのだが、産学連携というよりは企業そのもの、あるいは企業立の病院や大学内企業からの研究発表などもある。
 大学のなかには、企業負担で社会人大学院生として送り込んで一緒に研究を行う、あるいは社会人大学院生として大学内に企業を作って所属する場合もある。アメリカでは、そうした場合、どこまで開示するのか。そうしたことに関する有用な資料や情報はあるか。

花輪日本製薬工業協会医薬品評価委員会副委員長:そうしたことに関する詳細な情報は持ち合わせていない。企業というよりも、アメリカで問題になったのは、国庫からNIH(アメリカ国立衛生研究所)に240億ドルの国家予算を出して、それがNIHから研究者に提供されて医薬品の開発に使われ、公的資金による研究成果が研究者の利益になっていることもあり、その中身は公表しなければいけない、という話は聞いたことがある。

日本生体医工学会:日本生体医工学会でも、どのように開示するか検証していきたい。医療機器だけではなく、薬学関係でも、企業負担で大学のなかに研究者を社会人大学院生などとして送り込み、大学のデータとして発表するケースがあると思う。その際、1社員の学費と給料を企業側が支出しているだけであるから、1社会人大学院生の発表でよいのか、など、これまであまり論じられていない点もあるので質問した次第である。

曽根委員長:非常に重要な点である。特に医科系大学の場合、社会人大学院生という形で、医師自身が他の病院に所属していることもあるし、また大学院生の確保ということで、企業から大学院生を受け入れる場合もある。そうしたときには、必ず金銭も付いてきていると思う。そうした場合の対応について、国立大学医学部長会議では議論されているのか。

玉置国立大学医学部長会議研究倫理に関する小委員会委員長:まだ全く議論されていないが、非常に曖昧な点があるので、議論するべき点である。参考にさせていただきたい。

曽根委員長:「日本医学会 医学研究のCOIマネージメントに関するガイドライン」のなかでは少し触れている。学会によっては、産学連携を熱心に取り組んでおられる会員を多く持たれている。たとえば、企業所属の方が社会人としてそのまま大学院に入学し、研究費などを含めて企業からの支払いがある場合には、やはり開示する仕組みが必要である。申告の開示項目のなかの、「寄附講座や研究員の受け入れ」、あるいは「大学院生の受け入れ」という項目に、「企業からの」を入れて作られると、学会の特性を考慮した形での対応となり、好ましいのではないか。

日本東洋医学会:確認したいのだが、Sunshine条項には、「医師の住所まで公開する」という文言がある。日本製薬工業協会では、そこまでは考えていないのか。

花輪日本製薬工業協会医薬品評価委員会副委員長:考えていない。

日本東洋医学会:TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加したときに、ISD(投資家対国家の紛争解決)条項を盾に、米国研究製薬工業協会が日本製薬工業協会に、同様の開示を要求してくることは考えられないか。

花輪日本製薬工業協会医薬品評価委員会副委員長:開示そのものは、日欧米の会社もどの地域でも行うことになる。日本製薬工業協会のなかにも海外の会社が会員となっていて、今回の製薬協の対応には同意しており、Sunshine条項と同様にしてほしいという要求は今のところ聞いていない。

日本東洋医学会:浅井さんは、いかがか。

浅井朝日新聞社編集委員:それについては、私も分からない。

曽根委員長:この点について、Sunshine条項の場合は法律であり、日本の場合は、あくまで自主規制である。
 日本には、たとえば、国家公務員倫理法のような法的な規制がある。COI開示は倫理の範疇に入るものであるが、「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」で日本製薬工業協会の会員会社69社が指針を作り、実施していくなかで、違反者が多いと、当然次の手段として法制化の動きになることが予想される。そうならないように、われわれサイドも、きちんと適正に対応していく必要があり、各学会には指針を早急に作り、対応していただきたい。

日本整形外科学会:日本整形外科学会の領域は、寄附講座、特に機械メーカー、人工材料メーカーの寄附講座が多い。
 たとえば、名古屋大学に寄附講座がある場合、名古屋大学整形外科の名前で発表が行われていることもあるが、一部分けていることもある。寄附講座の母体について、スポンサーシップが明らかでないものが多々ある。今後、学会発表の際に寄附講座名をきちんと記載して、スポンサーシップを書くようにしていくのか、それとも、そこまでの必要はないのかについて、何か見解はあるのか。

曽根委員長:たとえば、発表内容について寄附講座のスポンサーである企業との関連でマスコミから追及された場合、発表者が説明責任を果たせるかどうかにかかっている。発表内容が非常に多額の研究費を使って寄附講座でなされているにもかかわらず、公開されていなければ、当然説明責任を果たせない。その場合、発表者個人が攻撃の標的となる。そういうことが起こらないようにするための対応が学会に求められるし、説明責任を負う。
 研究者が当該発表についてのリソースの開示をきちんと明記し、開示するようにマネージメントしておくことが大切であり、学会として説明責任を果たせたことになるのではないか。

日本整形外科学会:学会としてはそれでよい。要するに、発表者本人の立ち位置である。本人が所属しているのが、実は寄附講座であることについては、あえて開示させる必要がないのか。

曽根委員長:あくまで本人が開示しなくてその立場を説明できるのであればそれでよいし、説明できないと思えば開示していただくのが良い。寄附講座については、寄附金の出所を開示しておくことが無駄な誤解を招かない点でベターである。

日本脳神経外科学会:公開対象のCの「原稿執筆料等」のところで、「自社医薬品に対する科学的な情報等」とあるが、実際にはいろいろな研究会を共催されたり、自社の製品でない何らかの疾患についてであったり、学会に対する共催で講演に呼ばれた場合に講演料が発生すると思うが、それもここに入っているという認識でよいのか。

花輪日本製薬工業協会医薬品評価委員会副委員長:そのとおりである。

日本脳神経外科学会:そうすると、この文言では混乱すると思うので、もう少し文言を変えてもらうのがよいのではないか。

花輪日本製薬工業協会医薬品評価委員会副委員長:製品の宣伝などに関わるところのご指摘でしょうか。

日本脳神経外科学会:そうである。よく読めば「等」と書いてあるのでよいのだが、それだけに限定するように変えていただきたい。

花輪日本製薬工業協会医薬品評価委員会副委員長:そこは1つずつ全部並べていくと大変なことになるので、「等」でのご理解をいただきたい。

日本脳神経外科学会:講演料でも、まとめていただくほうがよい。

花輪日本製薬工業協会医薬品評価委員会副委員長:本日の会議でいただきましたご意見として承っておきたい。

日本臨床腫瘍学会:企業等が新しく薬を出したり、あるいはその会社の薬の適正使用等を社会に広めたりしたいときに、よく1社のスポンサーシップの下で、学会に市民公開講座をお願いしたい、市民公開講座の後援をしてほしいという依頼がある。一部のがん関連学会や臨床試験グループでは今年から、学会としての講演は、スポンサーが1社の場合はやめよう、あるいは市民公開講座についても1社だけの支援はやめようということで、対応を始めた。マスコミとの関係悪化についても非常に苦慮している学会もあるが、そうした市民公開講座と新聞社等の企業との関連について、新聞社はどのように考えているのか教えていただきたい。

浅井朝日新聞社編集委員:新聞社という会社のCOIは、おそらく学会より遅れているのではないか。新聞では比較的関係を間違いがないように記事を書いているつもりであるが、雑誌などでは広告なのか記事なのかよく分からない場合もあり、協賛や後援で、製薬会社の名前が入った形で出している。
 新聞社のなかにも、編集局というセクションと広告局というセクションがあり、広告局が営業活動をして実際にいろいろなイベントを行っている。新聞社という組織のなかでも、編集局の記者が、広告局が何と言おうが、ある特定の製品だけを宣伝するようなことはしないように、社内的には切り分けているつもりである。しかし、外から見ると同じ新聞社であるから、そういう意味で、まだうまく説明できていないところはある。
 1つの新聞社と関係を結ぶことはやめようという考え方も、1つの見識だと思う。

日本臨床腫瘍学会:1つの新聞社ではなくて、1つの製薬企業がスポンサーを取り、新聞社を使って全面広告を出すことがある。私どもはあくまでも新聞社とは決してそのような関係にはないと思っているが、やはりバックにスポンサー企業、特に製薬企業があるときに、対応に非常に苦慮している現実がある。特にCOIの問題は、多くが報道を通じて社会に伝わっていくので、ぜひそうしたことについて対話が進められるとよい。

曽根委員長:市民公開講座やシンポジウムなど、学会事業活動をスポンサーが1社だけでの開催は中立性という観点からよくない。批判や告発があった場合、公益性の高い学会として説明責任を果たせるように対応していくことが基本ではないか。そうした意味で、1社よりは2社、2社よりは3社という形で、複数の企業をスポンサーにしておけば、説明がしやすい。

日本薬理学会:基礎系では、企業の研究者、あるいは企業の方が研究活動も行うわけであるが、そうした場合、どのように考えればよいのか。

曽根委員長:企業所属の方が役員として活動する場合には、企業所属であることを第三者が判断できるように開示しておけばよいのではないか。たとえば、発表の際、所属企業名、役職名を示しておけば、それで十分マネージメントできていると思う。
 会員に対しては学会のなかでCOIマネージメントを周知すればうまくいくのだが、非会員を特別講演に招くとか、雑誌への特別寄稿を依頼する場合にどうするかが問題となる。特に、雑誌への投稿は会員限定ではなく、欧文雑誌を発刊している分科会では、おそらく世界の研究者を対象にしていることが多い。日本の英文雑誌にも、最近中国からの投稿論文が非常に多い。中国はポジションを取るのに競争が激しく、数年前からインパクトファクターをプロモーションの1つの条件としていることが背景にある。こうした海外からの投稿論文に対してどのようにCOIマネージメントしていくかという点で、日本癌学会の河上裕先生がかなりご苦労、ご尽力されているので、その取り組みをご紹介いただきたい。

河上委員:私は日本癌学会の利益相反委員長であるが、日本癌学会には、Cancer Scienceという英文雑誌がある。最近は中国からの投稿数が非常に増えている。外国ではCOIポリシーやマネージメントの状況がそれぞれ異なるため、その管理が適切にできるかが問題になっている。
 たとえばCOIの基準を設けるときに、COIの有無という形で、日本癌学会では、100万円以上であれば「COIあり」としているが、それも、欧米、中国、日本での金額の価値に違いがあるかもしれないという議論がある。
 実際、アメリカの雑誌などでは、COIは基本的には金額の多寡には関係ないことから、金額の基準がもっと低くなっていたり、100万円以上をメジャーCOI、100万円以下はマイナーCOIとして提出するなどの基準設定もあり、複雑である。日本癌学会では、Cancer ScienceのCOIマネージメントにおいて、いろいろな外国の方、非会員の方への対応について、今後どうすべきか検討している最中であり、今後もCancer Science投稿者のCOI開示状況などをモニターしていく予定である。
 また、COIの開示が実際に適切に行われているかなどについても、今後検討する必要があるかもしれないが、何か問題があるようなら、こうした全体会議で検討課題として取り上げたい。

Barron委員:今からちょうど280年前の1731年、スコットランドで、ピアレビューのシステムが文章で初めてはっきりと述べられた。それから30年以内に、ロンドンでピアレビューのシステムを考える委員会が作られた。科学の啓発の時代だったが、おそらくピアレビューがあっという間にヨーロッパ全体で受け入れられたとは考えられない。しかし、今でも「ピアレビューの問題を考える会」などがある。
 COIに関しても、国や文化によって意見の相違が当然存在するが、ある程度の国際的な統一性を保つために、たとえば国際COI学会を作り、いろいろな文化の人々が自分たちの意見を述べ合い、ある程度この辺りが公平であるという形で作ればよいのではと考えたことがある。

河上委員:先ほどは、financial COIの観点から述べたが、科学雑誌では、non-financial COIの問題も重要である。すでに、国際的な科学雑誌の編集者らが集まり、publication ethicsの観点から、これらのCOIの問題が討論されていると聞いている。
 特に科学雑誌では、ピアレビューにおいて、reviewerが関係ある人の論文を査読することの是非の問題が常にあり、重要なCOIマネージメントの課題である。Cancer Scienceでも、今年から、reviewerが、投稿者とのCOI状態が深刻であると考える場合には、自主的に査読を辞退するという文面を付けている。元の上司の場合は査読できないなど、細かく規定している雑誌もある。英文雑誌では、financial COI以外のこうしたCOIのマネージメントが課題となっており、雑誌編集者らが集まる国際的な会議で、議論されている最中だと聞いている。

曽根委員長:学会活動事業のなかで重要なものは、やはり雑誌である。医学雑誌への発表論文をいかにマネージメントするか、特に、COI開示について違反があったとき、それに対する処罰、措置をどうするか、海外からの投稿者の場合、事実の見極めがきわめて難しい。違反者のブラックリストを作って、再投稿してきたときに採択への判断に役立てていくしかない。日本医学会臨床部会利益相反委員会として、日本医学雑誌編集者組織委員会と協力して、何らかの対応策を提案できるように努力したい。
 何か他に質問があればお手元のアンケートに記入いただきたい。それから、本日の内容についての意見や質問があれば、事務局に連絡していただければ、利益相反委員会として回答させていただく。また、分科会から質問があれば、ホームページのQ&Aコーナーに追加する形で回答を掲載していきたい。
 日本医学会分科会の先生方には、産学連携の推進により医学研究、臨床研究を進めていただくようにお願いするとともに、産学連携に熱心な医師や研究者が社会から高い評価が受けられる仕組みを作っていただきたい。医学研究や臨床研究において産学連携を損なうようなCOI違反者が出てくると、米国のように法制化の動きになるかもしれないので、ぜひそうならないようにお願いをして終わりたい。