日本医学会分科会利益相反会議

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議事要旨

第5回日本医学会分科会利益相反会議:シンポジウム

総合討論Q&A

総合討論の質問、応答は下記のとおり。

曽根委員長:それでは、総合討論に移りたいと思います。各スピーカーからのお話は、医学研究のなかで特に人間を対象とする臨床研究が主体だと思います。
 研究の質と信頼性の確保が大きな課題です。産学連携がなければ医薬品あるいは医療機器の臨床開発は進まないというのが前提であり、そのプロセスには金銭的な関係が生じる。また、新しく労務・役務提供という形でデータの信頼性に懸念が出てくると指摘されております。
 そういう疑念をいかにとっていくか、そのためには利害関係の透明化が必要で、公開は、アカデミアサイド、特に研究者個人の開示・公開が求められる。一方、企業からの支払額と支払先の公開という形で、双方向的に透明化が進んでいます。
 では、透明化すれば、研究者、企業ともに何でもやってもいいかというとそうではなく、当然、行動責任、説明責任が伴ってくる。社会の目線で、疑惑があればそれに対してきちんと説明責任を果たしていく。そのためにマネージメントが必要だという点をご理解いただきたいと思います。
 それでは質問をお受けします。フロアからご質問の場合にはご所属、お名前を言っていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 ポイントとしては、アンケート結果をもとに、日本医学会に対して改善してほしい点とか、こういう方向で考えてほしいとか、非常に重要だと思いますので、時間はそちらに重きを置きたいと思っています。
 ヘルシンキ宣言の改訂作業に携わっておられます畔柳先生のお話にもあったように、ヘルシンキ宣言という言葉はよく知っているが読んでいる人があまりいないのが現状だとのご指摘がありました。厚労省は「人を対象とする」としておりますが、特にhuman subjectをどう訳すのか、議論があります。日本医学会は、日本医師会訳に基づいて、「人」でなく「人間」という用語を使っております。何か特にご質問はありませんか。はい、どうぞ。時間の都合上、簡潔にお願いいたします。

日本生体医工学会:日本生体医工学会利益相反委員をしています、愛媛大学の石原と申します。
 畔柳先生のお話のなかで、利益相反というものが、非常に複雑で、かつ実際に世界医学会の宣言のなかにはいろいろなことが書いてあるけれども、どうすればいいのかなかなか具体的ではないというような主旨のご発言があったと思うのですが、それを今の日本にあてはめますと、利益相反(COI)の定義を私どもはどのように考えるのが適切だとご示唆いただけるでしょうか。よろしくお願いします。

畔柳達雄日本医師会参与/弁護士:具体的な事件、事実関係を離れては、私には分からないというのが本当のところです。 私たち弁護士を規制する法律に、弁護士法という法律があります。同法第25条で利害関係が相反する立場に立ったとき、今の言葉でいうと、利益相反の立場に立ったときに、どのように行動するべきかを詳細に定めています。
 たとえばお金の貸し借りとか、損害賠償請求とか相続とか離婚などの事件について関係者の一方から裁判を起こす相談を受けて、かなりの話を聞いた場合に、 反対側の立場の人から同じ事件について相談を申し込まれたときに、それを引き受けていいのかどうかという形で議論されています。弁護士という職業にとって利益相反は、事件の引き受けのときに、最優先して考えなければならない問題です。本日は医師である研究者が主役です。医師の場合は、もともと患者さんの治療が中心なので、 その場面では利益相反は起こらず、もっぱら治すことに専念することが仕事です。
 問題は、医師が研究者を兼ねる場合に発生します。たとえば患者を被検者とする研究の場合に、医師である研究者が自分の研究・名誉あるいは経済的利益のために、治験対象である患者さんを犠牲にしてでも研究成果を出そうとするようなとき、そこに医師と患者との間に利害関係の対立が、利益相反という問題が出てきます。
 ヘルシンキ宣言の中では、利益相反の問題が、医師である研究者と患者・被験者、さらには研究のスポンサーとの間の関係を取り上げています。そこでは明確に経済的問題がからんでいます。医師だけではなくて企業などのスポンサーがからみもう1つ複雑になっています。検討の対象である実態いかんで答えが出るのであり一般論でお答えすることはできません。ただ一つはっきりしていることは、医師として患者・被験者の利益擁護を最優先するべきだということです。

日本生体医工学会:畔柳先生ほどのご高名な弁護士の先生にも「非常に難しい」というお答えをいただきました。私どもはさらにアクションプランをどう立てたらいいのかということが分かりにくいものですから、ご質問させていただきました。
 ありがとうございました。

曽根委員長:はい、どうぞ。

日本法医学会:日本法医学会から参りました塚田です。畔柳先生へのご質問です。
 学会の指針や規則の多くがそうですが、「ヘルシンキ宣言に準拠して」と、各大学もそういう文言を入れているわけですが、実はミスマッチをしている事がありますね。今後、ヘルシンキ宣言でうたわれている項目で日本国内では進められないようなことがあると、準拠していないじゃないかと言われた場合には、そもそも規定との齟齬が生じると思われるのですが、その点について先生はどのようにお考えになりますか。

畔柳達雄日本医師会参与/弁護士:遵守するという中身が問題でして、ヘルシンキ宣言をまるで法律・規制のように扱うといろいろな齟齬ができてきます。2000年改訂直後に、私はこの宣言はマニュアルではないといいましたが、今でもそう考えています。ヘルシンキ宣言の精神というようないい方で、妥協しているというのが実態だと思います。
 2000年改訂問題といわれる問題が、plcebo条項をめぐって起きたことは事実ですが、プラセボ問題はその4年前に行われた1996年改訂が引き起こしたものです。日本の薬事法大改訂のきっかけとなったICH-GCP合意は1996年5月に成立しました。その合意の前提になったのが、プラセボに言及していない1989年版ヘルシンキ宣言だったのです。実はアメリ力合衆国は州法と連邦法の二本立てです。連邦政府は連邦法の他にコモン・ルールと呼ばれる連邦行政法規集があって、その遵守が求められています。その中で、明確にヘルシンキ宣言89年版を使うと書いていました。
 アメリカの場合は、連邦政府がコモン・ルール中に89年版ヘルシンキ宣言を取り込み、実質的に法令のような形で使ったために1996年改訂により動きがとれなくなってしまいました。
 1996年当時の日本では、内閣法制局が十分機能していたので、「ヘルシンキ宣言」をそのまま法令中に取り込むことを避けています。ICH-GCPという国際的合意の当事国なので、その代わりに審議会の答申 のなかで「ヘルシンキ宣言」に言及して関係者にその遵守を求めています。ですから、日本では全く問題にならなくて済んだという経緯があります。
 それぞれの当事国が宣言をどのように扱うかという問題は、決して簡単なものではありません。
 今回の2013年の改定では、実際にアメリカのNIH、FDAを含めた厚生省当局幹部が、WMA主催のワシントン専門家会議に多数出席して、1条ずつ意見を述べ、それらの意見を反映して最終的案をまとめたという経過がございます。

曽根委員長:よろしいでしょうか。それでは時間の関係で前に進めたいと思います。
 次に「欧米の臨床研究にかかるCOIマネージメントの現状」についてご報告いただきましたが、何かご質問はありませんか。
 よろしいですか。あとで関連があればご質問いただきたいと思います。本日発表されている内容についてご質問があれば、いつでも事務局にご連絡いただければ、委員会より回答なりコメントをさせていただきます。
 本日、製薬協から田中先生に講師として来ていただいています。製薬協から力強いお言葉で「研究支援をする」「奨学寄附金はなくさない」というお話をいただきました。製薬協に対して、どんな質問でも結構ですがいかがでしょうか。

日本脳神経外科学会/日本脳卒中学会:日本脳神経外科学会・日本脳卒中学会のCOI委員長をしています京都大学の宮本です。
 私は以前にも曽根委員長にはお伺いしたことがあるのですが、本日の医師主導臨床試験ではなくて、企業主導の治験において、どのような企業からの労務提供が現在でも認められるかという点についてちょっと微妙なところがあります。
 日本医学会のガイドラインには「治験を含む臨床研究において関係企業からの労務提供は避けるべきだ」と、回避項目に書いていますが、従来の企業主導の治験において、企業による下書き論文というのは経験的に、慣習的に行われてきたことではないかなと思います。
 これを今後どうしていくのかというのは、日本医学会のガイドラインと整合性をとるためにはちょっとグレーゾーンになっていまして、現在は日本脳神経外科学会としては、私は「それを受けるな」というように指導しているわけです。そうなりますと、企業主導の治験で実際にそれがなかなか行われなくなってしまうということになりますので、製薬協としてはどのようなスタンスでおられるのか。
 最後に平井先生が役務についてお話しになりましたので、企業主導治験における労務提供についてご意見をいただければと思います。

曽根委員長:まず製薬協からお願いします。

田中徳雄日本製薬工業協会常務理事:ご質問ありがとうございました。
 今のご質問は、企業主導の治験の場合の労務提供についてですね。従来は企業主導の治験の場合は、GCPでしっかりやっていますので、法律でしっかり固まっているところです。今のご質問は、労務提供、特に下書き論文のご意見だと思いますが、実はここについてはあまり承知していません。従来やっていたものを一斉に禁止するとか、労務提供、特に下書き論文を止めるというようなことについて、今製薬協で議論をしているということはありません。
 今、先生がおっしゃったとおり、日本医学会のガイドラインとの整合性が少し微妙になってきた。日本脳神経外科学会では、そのような労務提供を受けるなとおっしゃっていると。この部分については今すぐに答えを持ち合わせていません。ただ基本的には企業主導の治験であれば先生方と役割分担を明確にしたうえで取り組んできた過去の経緯がありますので、論文作成についてはどちらが担当するのかを事前に取り組め、契約されている話だと思います。

日本脳神経外科学会/日本脳卒中学会:その治験が始まるときにそういうことを希望されるのですが、現在の日本医学会のガイドラインでは抵触する可能性があるのでお引き受けできないと。曽根委員長にお伺いしたときには、透明性が確保されればできるというお話をいただいたのですが、実際にはなかなか難しいことです。
 企業の方にそれを言うと、「これは大丈夫だと思います」と言われるのですが、一定の決まったスタンスがないので、製薬協としてもディスカッションしていただけたほうがいいと思っています。

曽根委員長:少しよろしいでしょうか。
 今、治験についてはプリンシパル・インベスティゲーターを含めて、アメリカの場合は「COIのdisclosureをすべき」と義務付けられております。日本と欧州はそれを「する必要はない」との判断です。アメリカのFDAからガイドラインが昨年公表され、われわれガイドラインと同じぐらいの厳しさで公開を求めています。国ごとの温度差があるということもご理解をいただきたいと思います。
 それからもう1つは、ICMJEが昨年ガイドラインではなく、recommendationsとして公表しておりますが、先ほど朴先生のお話にありましたように、共同研究という形で発表する場合、当然企業なのでfundingが治験とよく似ています。その場合も、論文発表する場合に透明性を確保すべきとしており。論文中にroll of funding sourcesの項目を作って、企業のだれがどのような役割をしたか。先ほど説明があったように、論文を研究実施から解析、執筆などの過程で、どのように関係したかを記載してあります。COIのdisclosureの項目には、研究者がどういう役割をしたか、関係企業との利害関係や、どのように関与しているかを記載しててあります。
 今回のrecommendationsの公表について感じる点は、ICMJEの方針はかなり変わってきており、全ての透明化です。趣旨として、研究者の「responsibilityとaccountability」という点で、全て透明性を持たせて、企業の役割、企業のだれがどの役割をしているかまで公開し、その是非の判断は第三者(社会目線)に任せる。そして、質問や疑惑があれば答える義務を著者とともに所属研究機関、あるいは企業に求めている点です。このような国際的な動向を理解しておく必要があります。
 そのような状況を踏まえて、日本医学会としてもICMJEの動向を注視しております。現在1,900の医学雑誌がICMJEの方針に賛同して動いていますので、その考え方、論文に対する評価の仕方については整合性を図っていくべきだと私は思っています。

日本脳神経外科学会/日本脳卒中学会:その概念的なことは私も分かるのですが、日本医学会のガイドラインというのは分科会にとっては非常に重いものでして、そこで避けるべき義務事項と書かれているものを、従来は慣習的にやっていたというのは、やはり現実との間にかなり乖離がありまので、そこは早急に是正していただきたいと希望いたします。

田中徳雄日本製薬工業協会常務理事:一度協会内に持ち帰って検討させていただきます。ご指摘、どうもありがとうございました。

曽根委員長:他にどなたかございませんか。

前川委員:ちょっとよろしいでしょうか。
 田中先生にお聞きしたいのですが、スライドのなかで「臨床研究支援のあり方に関する基本的考え方」ということで、これからは契約でいろいろな臨床研究をしなさいというようなことだったのですが、私がちょっと懸念しますのは、1つは、もし契約ということになりますと、医師の自由な発想が少し妨げられはしないかと。それに対しては「妨げないように」というようなことを言っておられたのですが、たとえば契約するときに企業の論理が表に出てくる、すなわち企業の論理にそぐわないことは契約しづらくなることはないのでしょうか。
 具体的には、たとえば同じ疾患に対してA社とB社の薬のどちらがよいかというような、いわゆるhead-to-headの臨床試験をしたいと患者さんの立場からも、医師が自由な発想で考えたとします。このような時に、企業サイドとしては、契約を結ぶでしょうか? 契約、契約と言われて、たしかにそのとおりだとは思うのですが、そういう場合にどのように考えればいいかということです。

田中徳雄日本製薬工業協会常務理事:ご指摘、ありがとうございます。
 ここには「契約により実施」というように書いてあります。平井先生のお話のなかにもありましたように、今、製薬協で考えられている契約は共同研究もしくは委託研究の2つしかありません。そういう意味では、また新たな第三の契約形態が必要になるのだろうと思って話し合いをしていますが、なかなか結論が出ません。
 契約は、医療機関・施設とすることとなり、受け入れるほうもその契約を受け入れる準備が必要と考えています。契約にはさまざまな形態があって、今ご指摘の点も含め、どんな契約が良いのかをもっと精査していく必要があると考えています。個人的には全て契約でカタがつくというようには、実は思っていません。答えになっているか分かりませがよろしいでしょうか。

前川委員:ありがとうございます。もう1つ、よろしいでしょうか。
 先ほどの日本脳神経外科学会の宮本先生のご質問ですが、いわゆるゴーストライターの問題とも関連してくる可能性があるのではないかと思います。企業の方が全部下書きをして(しかも、ほとんど完璧に)、PIを筆頭著者として冠することが慣例的に行われてきたことがあると思います。それで倫理的にいいかどうかというのは、どうなんでしょうか? 確かに企業の方に下書きをさせてはいけないという法律があるわけではありませんが、法律は倫理と異なり、強制的・社会的なもので、罰則を伴うが倫理には罰則はありません。しかし、法律は倫理のなかでも、ごく一部のことしか規制できないもので、法律は倫理の上に立つものではないと考えています。倫理の方が社会的には重要であると考えられるわけですので、この問題に関して日本医学会でガイドラインをちゃんと出さなければいけないのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

曽根委員長:平井先生、どうぞ。

平井委員:先ほどの方のご質問にもありましたが、下書きの問題ですね。私の考えをひと言述べさせていただきたいと思います。
 COIというのは、基本的に判断の基準をどこに置くかというと、国民であり納税者であり患者さんなのです。私はそこしか基準を置くところはないと思っています。ですから、それが仮に企業治験であろうが医師主導臨床試験であろうが、器は変わっても基本は同じだと思っています。もっと言うと、COIというのは理工学部でもありますし文系でもありますし、いろいろなところにあるのですが、基本は国民目線なのです。
 その考え方でいけば、下書きというのはやはり難しいかなと思います。私は自分が普通かどうか自信はありませんが、自分をその素人として考えてみれば、やはり内容にからむことだと思うのです。ですから、仮に過去にそういう慣行があったかどうかに関わらず、将来的にはそれはなくしていくべきことなのかなと思うのです。
 ただ、もし下書きをせざるをえない状況があって、そこにたとえば先ほどのお金、人といったリソースの問題で足りないということがあって、なんらか別の形で企業が論文を書くお手伝いができる、しかも説明責任を果たせるということがあれば、それはありうると思うのです。ただ、それはあくまで国民や患者さんの目から見てどうかということだと思います。

日本脳神経外科学会/日本脳卒中学会:今おっしゃっていただいたことは非常によく分かるのですが、実際の場合には、企業治験というのは多くの場合は頼まれる治験責任医師などは、付き合いで頼まれると。自分からこの研究を非常にしたがってやっているわけではないという側面があります。そうなりますと、日本医学会のガイドラインに抵触してまでそれを受けたくないということになります。
 ですから、透明性を確保するような形で、国民目線が納得するような形での、たとえば執筆者に企業の方を入れるべきだというような、何らかのマニュアルをぜひ作っていただきたいと思います。そうでないと、多くの企業治験は進まない。少なくともよほどのモチベーションがない限り、医師は受けないということになると思います。

曽根委員長:先生ご指摘の点については、研究者主導で臨床研究をする場合、本当に多様なデザイン、研究法や形態とかがあり、共同研究者の構成にしても「えっ」というような構成をしなければならない場合があります。特に生物統計専門家がいない場合……。
 そういう意味で、ガイドラインのなかで「回避事項」として事例をあげてありますが、状況により回避できない場合には説明責任を果たしてほしい。説明ができればそれに従うというものではない。ガイドラインとはそういうものだと思います。そのようにご理解いただいたらと思います。
 私から田中さんに1つ質問したいのですが、先ほどスライドのなかで産学連携は、医薬品の臨床開発に非常に重要だということで、医薬品の承認までの過程でいかに大切かということを書いておられますが、われわれ臨床の医師が、現場でいちばんほしい情報は、医薬品使用の適正化とか標準的な治療をするためのEBMです。それを作っていくためには、単なる小さい臨床試験よりもお金が非常にたくさん必要な大規模比較臨床試験が必要です。それに対してどう支援できるのか。
 当該の医薬品に関係する会社は寄附金を出せないと決めて、では具体的に市販後医薬品の「適薬」のためのEBM作りに対してどういう取り組みをなされようとしているのか。昨年の厚労省の調査で、介入研究が約24,000件で寄附金依存が多いと思われる。今回寄附金による支援をなくした場合、果たして何割くらいが継続できるのか。そういう点についてどうお考えか、教えていただけますか。

田中徳雄日本製薬工業協会常務理事:今のご質問ですが、今行われているいわゆる承認後の臨床試験、EBMを作っていく臨床試験、今回の厚生労働省の調べでは24,000件あったけれども、これが従来であれば奨学寄附金で行われた。奨学寄附金を止めると一気に臨床研究の件数が減るという話ですね。
 先生ご指摘のとおり、件数は減るのかもしれません。ただし、企業が正しいお金の使い方、奨学寄附金で進めていたのが、ここには「契約」と書いてありますが、契約によってさらに臨床研究の質が上がるというように考えています。件数はたしかに少し減るのかもしれませんけれども、契約をすることによって臨床試験の質、レベルが上がってくると思っています。
 具体的にどうするかというのは、たとえば先生方から、製薬企業が売上げの何%かをプールして基金を作って運用するようなご意見、ご提案がありますが、そこについては協会内では全く検討できていません。

曽根委員長:はい、どうぞ。

土岐委員:私から質問ですが、実は医師主導の臨床研究で、企業の匂いというか香りというかそれを消したいと思っているのは、実は研究者よりも企業の側だという印象を持っています。
 たとえばA社のAという薬と、B社のBという薬の比較の臨床研究をやりたいといったときに、「それにはお金は出せません。でも、別のCという研究をされていますね。そこに1,000万円を出しましょう。あとは任せます」と。そういう言い方をして、微妙な形の奨学寄附金をされることがあるのです。
 われわれとしてはA社とB社の比較をしているのですから、それに出していただいても全然抵抗はないのです。むしろ企業のほうがそれを出してほしくないと。そういう形の発言をされることが多いのです。企業が「積極的に出しています」と、そういう文化を作ってほしいなと思うのです。今後、製薬協はそのような方向は検討されないのでしょうか。

田中徳雄日本製薬工業協会常務理事:先ほども、既に契約をした医療機関に、奨学寄附金は提供できるかということを少しご紹介しました。今のご質問の内容についてもずいぶん協会内で検討はしました。
 たしかにお金は区別が出来ませんので、企業としては、自社医薬品に関する研究が始まっていると分かった時点で、今後は奨学寄附金ではなくて契約を交わして欲しいというように変えていくしかないと考えています。
 たしかに始める時は分からないし、ほかの奨学寄附金で、たとえば共同のパソコンなどを買ったものは、このパソコンではあちらの臨床研究ができない、そこまで厳密に言っているわけではありません。その資金の説明責任がしっかりできるような形で、透明性を確保したいというように考えています。

曽根委員長:はい、どうぞ。

日本生体医工学会:愛媛大学の石原です。先ほど宮本先生のご質問に対して、曽根先生が追加でご説明をされたところで、ガイドラインとはそういうものだとおっしゃったのが非常に気になりましたので、ご指摘させていただきます。
 つまり、ガイドラインを遵守するという一般の方々からみて当然のこととして、ガイドラインが一人歩きをしますと、それはもうほとんど法律と同様に理解されます。それの典型例が、皆さま方ご存知の都立広尾病院事件です。判決の際にはガイドラインが非常に大きな参考資料になって、従来思われなかったような判例・判決が出ているわけです。
 ガイドラインをお作りになる先生方、曽根先生もよかれと思ってお作りになっていることは間違いないと思いますが、そのガイドラインが一人歩きをして、裁判官が現場への適切な調査やヒアリングをすることなく、「そのガイドラインがこうなっているのに、あなたは大きな違反を犯してしまった」という判例が、実際にあるわけです。
 これは平井先生、畔柳先生も、もちろんその危惧はあるとご理解されていると思いますので、今回配布された、2月改定のガイドラインを私はしっかり読ませていただきましたが、この会場にいらっしゃるオーディエンスのほとんども、「私たちはどうやったらいいのか、明々白々に分かった」という方々は非常に少ないのです。そうすると、このガイドラインは読みようによっては非常に厳しいところまでいける。
 そもそもご家族の一親等で、親の財産を、あるいは利益相反をきちんとヒアリングするご家族がどのくらいいらっしゃって、それを所属機関や学会にどれぐらい提出することが可能で、それをチェクすることがどれぐらいできるか。
 そういう荒唐無稽なことを、ここではサンプルとしてお出しになっている。
 ですから、そういうことを含めると「ガイドラインだからそれぐらいでいいのですよ」というご発言はぜひお止めいただいて、現場で遵守できるガイドラインをお作りいただきたいと、私は強く願います。

曽根委員長:われわれは、ポリシーという用語は非常に厳しいものがあると理解しており、倫理のごとく、指針は違反すればそれ相当の対応が必要となります。ガイドラインは、COIガイドラインのなかに書いてありますように、強制するものでなく道筋を示すものあり、方向性を示すものとご理解いただきたい。
 それでは、本日は各分科会の先生方に来ていただいておりますので、アンケート結果に基づいて、改善すべき点、あるいはこうすべきというコメント、アドバイスがあればとご発言をお願いします。
 まず前川先生から、今回のアンケート結果の説明で「これは?」と思う点がありましたが、重要な点についていくつかコメントをいただきたいと思います。

前川委員:今回のアンケートを集計していて感じましたのは、COIの委員会の設置とか指針に関しては、多くの学会ですでに出来ているか、現在策定中ということで、早晩ほとんどの学会できちんとできてくると思います。ただ、それをどのように運営していったらいいかとか、そのようなところに非常に悩んでおられるということころです。
 たとえば、COIの委員会はできていたわけですけれども、外部委員を探されるのに非常に苦労されているような結果が伺えます。それは質問3のところですけれども、外部委員の割合が年を追うごとに減っているというところで、ここは医学会としても何とかしなければいけないかなと思っています。私は日本血液学会の代表でもあるのですが、事案が起こったことで、いろいろと顧問弁護士に相談して勉強させていただきました。まだまだ、勉強しなければならないことが多いと感じております。また、ランチョンセミナーとか、そのような発表におけるCOI開示も、2013年に高久会長と曽根委員長の連名で通達が医学会から一応出ているのですが、あまり広まっていないというようなところがアンケートの結果から分かりました。
 そのようなわけで、私が今後いちばん重要だと思うのは、教育とか啓発活動をどのようにしてやっていくかというところかと思います。これに関してはなかなか難しいところがありまして、たとえば各学会のCOI委員長が教育講演などをするというようなことは、非常に重要なことになってくるかなと思います。また、専門医教育の中にCOI関連の事項を取り入れてゆくことも考えなくてはいけないかと思っています。日本血液学会のことばかり言って申し訳ないのですが、日本血液学会が現在作成している専門医テキスト(平成15年度の改訂版)にはCOIの項目を入れる予定です。
 それから、論文に関しましては、先ほどもありましたけれども、これはやはりきちんとして、全員のCOIを出していく必要がある。そのときに先ほども議論されましたけれども、家族のことをどこまで含めるかというのは、ここが本当に実際的なのかどうかというところは、私はちょっと疑問に思うところがあります。
 それから、国際医学雑誌の編集者会議の規定に関しては、やはり国際ルールを守っていかなければいけないので、日本独自のものでやっていくと世界から相手にされなくなる可能性がありますので、ここは少し考える必要があろうかと思います。
 いろいろなガイドライン、それからルール、スライドのコンテンツとか、自己申告書のチェック方法などを示していただきたいというようなことですけれども、医学会としてもやっていくことはまだまだ多いかなと、そのように思っています。

曽根委員長:分科会のほうで何かありませんか。はい、どうぞ。

日本小児神経学会:難波です。日本小児神経学会の利益相反委員長を今回初めて拝命したのと同時に、私は鳥取大学の臨床研究を含めたセンターのセンター長をしていまして、そちらのほうでも新たに倫理、あるいはこちらのほうに取り組むという立場で、ちょっとご質問させていただきたいと思います。
 たとえばこのなかでやっている教育ですが、非常に難しいと。最終的にこのCOIの問題で、重大な問題とか批判があった場合に、学会もペナルティを課すという話ですが、いちばん重大なのはやはり機関の問題であると、先ほどおっしゃったと思うのです。
 機関でも当然利益相反があって、学会でもやるというときに、効率化を図る意味で、私は教育はむしろ機関のほうが非常に重要ではないかと考えています。学会でバラバラに違う教育をやっていくと、病院全体としての整合性がとれるのかなと。ある意味で危惧をもっているのです。
 ですから、その辺の住み分けとかやり方とかを病院という単位と学会という単位とを、ちゃんと整合性を持って効率的にできるような形にぜひしていただきたいなと。学会ごとにガイドラインなのでやり方が違う、病院のなかでもやり方が違うと。そうすると、病院が混乱してくるのではないかというのがちょっと危惧なので、その辺に対してきちんとしたことをやっていただきたいというのが私の意見です。
 というのは、両方別々に出ているように見えて、両方の関係を示した図がどこにも出てこないので、その辺に対してコメントをいただけたらと思います。

曽根委員長:ご指摘された点は非常に重要で、研究機関におけるCOIマネージメント、それから学会によるマネージメントも、基本的には同じであり、研究者は関係企業とのCOI状態を開示し、社会から疑義が出れば説明責任を果たすことです。研究成果は当然研究機関で得られるわけで、その発表は各専門学会でなされる。ですから、適正に、要するに倫理性を担保に臨床研究がなされるのが研究機関。そして、中立な立場で公表されるのが学会あるいは雑誌なのです。ですから、COIマネージメントで開示する項目や開示基準額にしても、全然違うということになればなかなか大変なので、齟齬がでないようにその整合性は図ってあります。
 最初に2006年の文部省の検討班で、COIの指針作りという作業を、私と平井先生とも一緒に携わってきました。2011年の日本医学会のCOIマネージメントガイドライン策定についても一緒にやってきました。ですから、COIマネージメントの考え方とか開示基準はダブルスタンダードが出ないようにすべく努力し、同じ内容となっております。
 それから、今回全国医学部長病院長会議から、COIガイドラインが昨年の12月に出ています。その後、現在作業中の研究者主導臨床試験実施のガイドラインのなかにも、利益相反マネージメントは当然入ってきますが、COIマネージメントの一貫性を確保するために私自身も参画しております。近い内に公表されますので見ていただいたら、ご理解いただけるのではないかと思います。

日本小児神経学会:それも含めて、たとえば学会で一生懸命情報を集めるというのが、今回かなり重要になってきているのですが、たとえば機関のほうでマネージメントしたものを提出を簡単にしていただくとか、効率化を図れないかと。そうすると、整合性もとれると思いますので。
 研究課題を発表する学会と、全体をやっている機関とは少し違うのですが、その辺のことについても……。やる側も非常に大変ではないかなということがありますので、よろしくお願いします。

曽根委員長:原則的には、研究実施に関係する企業は、発表のときも基本的に同じだと思いますので、COI自己申告様式は同じものになるとご理解いただきたいと思います。
 ほかにありませんか。はい、どうぞ。

日本医学教育学会:日本医学教育学会で、研究倫理COI委員会を担当しています大西と申します。
 われわれのほうでは、臨床研究を取り扱うことがなくて、教育研究というように読み替えて、ガイドラインを運用するというような形で今まで進めてきたのですが、そのなかで、教育活動そのもののCOIというのも結構あるのではないかと思います。
 要するに、分科会の会合においてランチョンセミナーを開催するというような場合には、分科会で発表されているいろいろな研究的な知見を、どうマネージするかという話で研究の話に落とし込めると思うのですが、それ以外のいろいろなセミナー、特に製薬企業がスポンサーになっているようなもの、あるいは製薬企業が病院とか大学に入り込んで開催している勉強会のようなものは研究のCOIとは直接関連しません。われわれとしてはそこは医学教育の観点から看過できないのですが、ここには含まれていないなということで、ちょっと気になっています。
 そういうところは今後、全国医学部長病院長会議のほうが、大学として教育者として担当されるのか。そうでなければ、われわれ日本医学教育学会がいろいろな関係のところにいろいろ働きかけていくべきなのか。実はアメリカは医学部長病院長会議にあたるような、あるいは日本医学教育学会にあたるようなものを全部とりまとめてAAMCが運営していますので、そこが企業との関係性に関してのタスクフォースレポートを出しています。
 そういうことを今後やるのであれば、われわれが何か少し関わるべきなのかということで、何かご意見をいただければと思います。

曽根委員長:前川先生、どうぞ。

前川委員:おっしゃったことは非常によく分かります。COIのことをこうして説明していても、たとえば教授とか講師、あるいはPIになるような人に関係するようなことばかりで、実際の若い人はほとんど関心がない。でも、実際にCOIに関することはもっと身近に存在しているわけです。
 たとえば企業のボールペンをもらってどうだったとか、あるいは無料の弁当が提供される研究会やセミナーに参加することが頻繁に起こるわけです。ランチョンセミナーの終了時のアンケートに「当ランチョンセミナーをお聞きになって、◯◯の処方意向にに変化はありましたか?」とあることに違和感を抱かないかなど、そのようなことは若い人から教育をしていかないと、非常に難しいところだろうと思うので、このあたりはわれわれの学会でも考えているところですし、医学教育学会でも何かこのようなことを他の学会に対しても働きかけていただければと思います。たとえばタイトルはちょっと忘れましたが、『白衣のポケットの中』とか、『医学週刊雑誌』でしょうか、それから『臨床評価』などの冊子にもいろいろ書いておられますし、若い人にとってはやはり身近なCOIとして勉強していく必要があろうかと思っています。

日本医学教育学会:ありがとうございます。

曽根委員長:はい、どうぞ。

日本超音波医学会:日本超音波医学会から参りました馬場と申します。
 前川先生が先ほど「通達」というお言葉を使われました。ランチョンセミナー等でもCOIをちゃんと掲示せよと。その「通達」という言葉なのですが、それはどの程度の拘束力を持つものですか。それは絶対に守らなければいけないということなのでしょうか。
 それと、先ほど日本生体医工学会先生のご指摘もありましたけれども、ガイドラインをそのままやろうとすると、現実的にはかなり不可能に近いようなことも書かれています。ですから、ガイドラインを守るという拘束力というか、どのくらいを分科会に求めているのかということをお聞きしたいのですが。

前川委員:先ほどの「通達」ですが、2013年の6月に髙久先生と曽根委員長先生の連名で日本医学会から公表されています。各分科会に所属している人が企業主催の講演会とか研究会でしゃべる場合には、開示をしていただきたいというお願いと言ったらいいのでしょうか、そのような文章が出ています(https://jams.med.or.jp/coi/notice_request201306_2.pdf)。強制力はありませんし、罰則もありません。ただ、日本血液学会でも会員に周知し、教育講演でも述べましたし、日本外科学会、日本内分泌学会、日本透析医学会、日本消化器内視鏡学会などの各学会でも「周知依頼」としてホームページに掲載されています。しかし、まったく知られていないことがありますので、各分科会のCOI委員会をとおして、学会にもう少しその周知をしていただきたいなということで、強制力があるかどうかということとはまた別問題だろうと思います。

日本超音波学会:では、その通達を受けたときに、うちの学会としてはCOI委員会で検討した結果、それは従わないということでもよいということですか。

前川委員:いや、それは曽根委員長先生からお答えしていただいたほうがいいかもしれません。要するに、それは要らないということですか。

日本超音波医学会:いや、例としてランチョンセミナーと言っただけで、通達という形で受けた場合、どうしたらいいでしょうかということです。

曽根委員長:それは先ほどから言っているように、指針というのは非常に重みがあります。指針違反というのは……。しかし、ガイドラインはあくまでこちらの方向にこのように行ってくださいということを言っているわけで、行けない場合には何故かを説明できればいいという考えです。
 ご質問の件でも、「演者にCOI状態の開示をお願いしたい」と通知していますが、先生の分科会ではできないというのであれば、それはいいと思うのです。しかし、何か問題を起こしたときに、説明責任はその分科会が全て負うことができれば、何ら問題ないと思います。そういう考え方で対応しています。

日本超音波医学会:それは「通達」「ガイドライン」、どちらも同じという意味で考えていいですか。

曽根委員長:「通達」という言葉ではなく、要請という形で出しています。前川先生は「ガイドライン」「通達」を使い分けていましたが、そのようにご理解いただきたいと思います。法律であれば必ず遵守、規則であっても遵守です。
 医学会の規則に「利益相反」の記載が書いてあれば、それは守らなければいけないと思いますが、ガイドラインはそこまでの拘束力はないと私は理解しています。

日本超音波学会:ありがとうございました。

曽根委員長:ほかにいかがでしょうか。はい、どうぞ。

日本造血細胞移植学会:日本造血細胞移植学会の赤塚と申します。
 本日は倫理委員長の代理で参りました。本年度から日本医学会に参加させていただきましたので不勉強なところがあります。お教えいただきたいと思います。
 まずCOI関係といいますか、たとえばICMJEの項目を読みますと、「Relevancy」という表現があります。そういったところを実際どこで線引きするかというのは、かなり分からないことがあるのです。きわめて厳しくやろうすればどんどん出てきますし、「これはたぶん関係ないよね」というように言ってしまえば、かなり減ってしまいます。
 現状では、たとえば○○○○の場合は100万円とかありますけれども、もしICMJEが入ってくると1,000円とかでも全部かぶることになるというように記載はあります。となると、その辺のグレーゾンーンになるところをはっきり分けるような何か具体例の表示とかがないと、私たちも判断に非常に困るのですが、その辺についての取り組みはいかがでしょうか。

曽根委員長:ICMJE関係に非常に詳しい医学雑誌編集者会議が日本医学会にあるのですが、担当されている北川先生、いらっしゃいますか。どこかに行かれたか、おられないようですね。
 ICMJEが公表したRecommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journalsのなかで私が強く印象的であったのは、responsibilityとaccountabilityの2つの言葉です。その意味することは、論文の発表にかかる行動責任だと思うのです。それから、それに対する説明責任。だれがという意味では研究者はもちろん、研究機関ということになります。私は学会とか雑誌は責任を取ることは出来ないと思っています。
 というのは、今回のディオバン臨床研究疑惑にしても、学会は「調査しろ」と言われても出来ない。研究機関しかできない。最終的に処分とかいろいろな問題への対応も含めて研究機関の問題であり、医学会はそこまで立ち入れない。調査権もないし、実際検証できないという問題があります。ですから、そういう考え方が適切だと、私も個人的には思っています。

日本造血細胞移植学会:ICMJEの話では、雑誌の、たとえばサプルメントとしてこの書類を出しておいて、その判断は読者に任せるというようなことをおっしゃっていました。
 そうすると、私は雑誌の編集長なのですが、そちらは関与しないということになります。ただ、実際査読委員のほうは内容についてやはりコメントしてくるのです。そうなると、学会に属する編集委員会もその判定に関与しているわけでして、そこでの判定が悪かったのではないかというようなことを言われることもあると思うのです。そこのところを少し心配していまして、お聞きしているのです。

曽根委員長:昨年公表のICMJEのrecommendationsを読まれましたね。そこには論文発表において、ピュアレビューも含めていろいろな提案が書いてありますが、詳細ではない。バイアスがかからないような仕組みを作れというように私は読んでいます。最終責任はやはり研究者と研究機関になると思います。
 本日のシンポジウムは「医学研究のグローバル化」というテーマをあげております。大学のグローバル化競争が進むと、海外一流誌への論文発表数が当然重要になるということから取り上げた次第です。国際的な動きのなかで、研究の質と信頼性を確保するという視点から対応していただくのがベストではないかと思います。

日本造血細胞移植学会:分かりました。ありがとうございました。

曽根委員長:何でも結構ですが、いかがでしょうか。ご存知のように臨床研究と疫学研究の統合倫理指針がこの12月ぐらいに公表される予定ですが、その最終案を見ますと非常に厳しい内容です。厳しいというのは、研究者の責任だけでなく、研究機関の長として学長、理事長が臨床研究に関して全ての責任を負うということが明確に書かれてあります。それから、研究倫理教育の対象者として、倫理委員会および臨床研究をヘルプする事務職員や外部委員も含まれております。
 適正に臨床研究が実施できる体制を作る、そしてそれを運営・管理できるような規定を作るというのが研究機関の長の責任だと記載されています。最終的な倫理指針はウェブで見ることができますので、よく読んでいただくと理解しやすいのではないかと思います。
 統合倫理指針のなかには、利益相反状態の開示ももちろん入っています。臨床試験、特に研究者主導の臨床試験を行っていくためには、人、金、そして仕組みが必要です。研究機関の長がきちんと整備しなければいけないとなっています。われわれ学会サイドは研究発表の場としていかに中立性とか透明性を確保していくことが出来るか。これは各分科会と一緒に考えなければいけない課題ではないかと考えております。
 アンケート結果の報告がありましたが、各分科会のCOI委員会メンバーに外部委員が入っていないことが多く、適任者がいないという声も聞こえます。できれば日本弁護士会から外部委員として派遣して貰えると助かりますが、平井先生、どうでしょうか。

平井委員:弁護士会で取り組みをしているとは、私は聞いていないのですが。

曽根委員長:たとえば日本医学会から要請するとか、外部委員の派遣をお願いしたいとか。

平井委員:そういうこともありうるかもしれませんね。ただ、弁護士が本当にいちばんいいのかなという問題もありますね。
 私がお答えはできませんが、弁護士会に協力を要請してみるというのも、1つの手かもしれませんね。

曽根委員長:ほかに何か質問はありませんか。

日本小児神経学会:鳥取大学の難波です。Practicalなことで、このガイドラインのなかに、たとえば先ほどの雑誌の方法について検討していくとか、教育のなかの認定医とか、そういうところのなかにも入れていくべきだと書いていて、このタイムスケジュールとして、どのくらいまでに検討するとお考えでしょうか。
 というのは、学会で検討していくときに、大体目標を定めておかないと、いつまででもよければずるずるいってしまいますので、「およそこのくらいで検討していただければ」を言っていただけると、学会に報告したときに検討課題としてあがるのですけれども。

曽根委員長:具体的にはなかなか難しい。われわれが決められるわけではないので、とりあえず倫理関係の教育研修については、本日も午前中に日本医学会利益相反委員会がありましたが、現在、日本医学会には医学雑誌編集者組織委員会という委員会もあります。また、日本医学会連合という医師会から外れて独立した一般社団法人がスタートし、日本医学会連合研究倫理委員会ができました。今年の5月ぐらいに、この3つの委員会が合同で研究倫理研修セミナーのような形で開催をしていく予定です。今、文科省を中心に研究倫理教育に非常に力を入れてやっています。そういう意味で、今後の課題として医学会、医師会、それから全国医学部長病院長会議が連携して、情報交換しながら倫理教育を行っていくことが重要であり、出席すれば単位の互換性を持たせるとか、いろいろな工夫が必要ではないかと思っています。
 日本医学会が独自にできるわけではありませんので、日本医学部長病院長会議が中心に進めていっていただくのがいいのではないかというのが、私の個人的な意見です。
 ちょうど午後4時15分近くになりました。まだまだご質問、ご議論があろうかと思いますけれども、この辺で終わりたいと思います。
 今年は第5回シンポジウムを開催させていただきまして、多数のご出席をいただきありがとうございました。最後に、日本医学会副会長の久道先生より閉会のご挨拶をお願いしたいと思います。