日本医学雑誌編集者会議 Japanese Association of Medical Journal Editors

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議事要旨

第7回日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)総会・第7回シンポジウム:シンポジウム

総合討論Q&A

総合討論の質問、応答は下記のとおり

北村委員長:総合討論の時間なのですが、16時半まであと数分しかありません。事務局で席を用意しているので、演者の方に上がっていただいて、申し訳ないのですが10分だけ延長して、16時40分まで総合討論を行って、このシンポジウムを締めたいと思います。どうぞ遠慮せずに壇上に上がっていただいて、お願いします。
 今までも「Publish or Perish」とか、いろいろな形で研究不正の問題を取り上げてまいりました。にもかかわらず、決して減りません。
 それから、以前に私が日本の研究不正の歴史を調べたときに、日本の特性として、鹿児島大学や大阪大学で自殺する方がいて、この研究不正というのは不幸な転機をもたらすのだということを申し上げたら、今回も有能な研究者が1人いなくなるという、最も悲しいことが起こりました。マスコミが悪いという意見もありますが、この研究不正のためにいろいろな社会のひずみが出てくるように思っています。
 今後、研究不正をなくすのに何かよい考えはないかと思って、このシンポジウムを企画したわけですけれども、フロアの先生方、演者の先生への質問、全体へのコメント、何でも結構です。少ない時間ですけれども、ご発言ください。どうぞ手を挙げて。よろしいですか。
 演者の先生方で、不正をなくすには、1つこういうことがよいとか、何かご提言とかありますでしょうか。曽根先生、お願いします。

曽根利益相反委員会委員長:質問させていただきます。日本医学会利益相反委員会委員長の曽根です。安間先生のお話では、総合科学技術会議からいろいろな提言、あるいは考え方を示されたとのことですが、基本的には研究者個人、それから研究組織がしっかりせよ、責任を持って対応すべきと理解しています。日本学術会議の中でも議論をしまして、先ほど北村先生が言われたように、米国政府が設置しているORI(研究公正局)。いわゆる行政サイドから第三者的な、公的機関としてORIのような機能を持った組織を日本に作るべきだと提案しております。1つは、日本版のNIHである日本医療研究開発機構が医療法で平成27年4月から設置されることから、その機構内に迅速な対応ということで部門を設置するべきだという提案をさせていただいております。そういう議論とか、あるいは考え方がなされているのかどうか、教えてください。

安間敏雄内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付参事官(調査・分析担当):ありがとうございます。ORIについては確かにご指摘というか、議論がありました。実は今回のSTAPの問題のときに、『Nature』でもそういった記事が出まして、『Nature』自身が、6年ぐらい前ですか、やはりそのときにORIのようなものを検討すべきではないかというようなことも記事にしたこともあります。先ほどご紹介しました有識者議員のなかでも、そういったご議論がありました。
 ただ一方で、このORI自体がご案内のとおり研究分野全体を仕切って見ている機関ではありません。NIHという健康医療分野に限ったものだけを扱っているということです。ですから、日本型のORIのようなものが、どの分野まで扱うのかということの論点が1つ。
 それから、そこに持たせる機能はどうなるのかという点があります。要するにORIといいますと、必ず調査機能とか警察機能のようなものが話題にのりますけれども、はたしてその警察機能のようなことを持たせるだけでよいのだろうか。ORIも予防的なことをやっていますので、日本型ORIにどこまでの機能を持っていきたいのかということについての議論もありました。
 さらには、ORIの必要性ということがさんざん言われていますけれども、では、はたしてそれによってアメリカにおける研究不正というのは減っているのだろうか。数字としては必ずしもというか、減っているどころか、その分野によっては増えているような状況もあります。
 さらには、これは役所的になりますけれども、こういったものを新しく作るとき、ただでさえ今は経済的な情勢、財政の情勢が厳しいときに、こういった機関をまた新しく作るということは、はたしてよいのだろうか。ただでさえ行政の肥大化・無駄というものが取り沙汰されているようなときに、新しい機関を作って、そこにまた役人が入っていくというような形がどこまでよいのだろうかという議論。
 最後には、そもそもとして、先ほどもお話しいたしましたけれども、研究不正問題も含めて、やはりこの研究問題に対して行政というものがどこまで関与すべきものなのだろうかについての議論があります。本当に研究者、また研究者コミュニティーはこのような機関を求めているのだろうか。
 行政がかかわるということは、逆に言いますと、研究の自発性・自律性、自由な研究ということに対して行政の関与を招くということになりますから、そこの範囲はどうするのだということもありまして、そういう多様な議論がございました。他方、総理からああいう形でご指示もありましたのに、「私たちも考えていますので、もうちょっと待ってください」とは言えませんので、今回の9月の段階で一定の取り纏めを行ったところです。従って、ORIについて結論というか、関係の記述は入っていませんでしたけれども、関係のご議論はありましたし、この議論は引き続き続けていきたいと思っています。つきましては、研究者コミュニティーの先生方のほうから、本件について具体的に思いつくことや、論点についてのご意見等がありましたら、お寄せいただければ幸いに存じます。

北村委員長:ありがとうございます。ほかにご質問とか、はいどうぞ。所属とお名前をお願いします。

時実象一東京大学総合教育研究センター非常勤講師:東京大学の時実と申します。大変面白い講演をいろいろ聞かせていただきまして、ありがとうございました。
 私は今、少し古い、明治時代からのそういう研究不正とか、それからコピペとかを網羅的に調査しているところなのですけれども、ずっとさかのぼってみますと、昔は圧倒的にコピペというか、剽窃がほとんどだったのです。剽窃ですから、理系ではなくて、全部文系の先生方で、人の論文をコピーした。それが圧倒的に多い。新聞記事ですから、もちろん見つからないのはたくさんあるので、それがすべてとは言えないですけれども、そういう状況です。
 最近になってきて、理系の不正が目につくようになってきた。1つには、理系が新聞で注目されるようになった。昔は理系がそれほど注目されなかったのですが、理系が出てくるようになってから、理系ではやはり剽窃というわけにはなかなかいかなくて、どうしても理系の不正は図像とか、たとえば実験データの操作とかが出てくる。そういうのがだんだん増えてきているという傾向があるわけです。
 今、たまたまSTAPの事件とかいろいろあって、大変注目されていますけれども、理系の場合ですと、私自身も研究者をやっていたので経験があるのですけれども、データを見ていて、ちょっとこのデータはあまりよくないから捨ててしまおうとか、そういうのはやはり日常的にあるのですね。
 ですから、それが本当に意図的な不正になるというところは、必ずしも飛躍ではなくて、かなり連続的なところがあって、そういうのがなかなか今までは隠れてかなりあったのだけれども、分からなかった。ここにきてインターネットで学術論文が全部公開されるようになったので、みんなが分かるようになった。
 たとえば今度のSTAPの場合ですと、いわゆるSTAP細胞の記者会見があってからわずか2週間で、あの論文はおかしいというのがネットに載ってしまうわけです。それがやはりインターネット時代なのです。
 ですから、そういう時代の変化というのがやはりあって、今、不正が急に増えたとか、必ずしもそうではないのではないかという気もするのですけれども、そのへんについても、どなたかご意見がいただければと思っています。

榎木英介近畿大学医学部病理学教室講師:榎木です。不正は実は昔からあったという話は確かにありまして、生物学の分野では、メンデルの遺伝の法則のエンドウマメの種の大きさがどうのとか、いろいろあったと思うのですけれども、ただ、先ほどグラフでお見せしましたように、近年どうも増えているらしいと。増えているというのは、研究者人口が増えたというのもあって、そういう意味で増えている。率が増えているかどうかはちょっと微妙ではあるのですけれども、数は増えているだろうと思います。
 あと何よりも2000年以降はデジタル加工のフォトショップとか、そういうソフトがいろいろ出てきたりして、わりとやりやすくなった。昔は写真を撮らないとゲルの写真は撮れなかったけれども、今はデジタルでやってしまうので、やりやすいという、そういう面もあるのだろうなとは思います。絶対数が増えているというのは、現実ではあると思います。

北村委員長:ご質問にあるように、時代によってやり方も質も変わってきていますけれども、研究論文は爆発的に増えていますし、ほとんどデジタルですので、今後、率はどうか分からないですが、絶対数はおそらく増え続けるものと思います。ほか、手が挙がりましたか。
 ここで1つお願いがあります。去年、一昨年、この学会でもお話ししたクロスチェックを使っている学会の方が多いというように聞いています。コピペ、剽窃をチェックするシステムで、泌尿器科学会や疫学会が使っていらっしゃるご報告を受けました。あれは実は英文論文にしか適用されていません。和文の論文は、先生方の雑誌もそうなのですが、決してそういうソフトに対してオープンになっていません。
 クロスチェックの場合は出版社が協力して、クロスチェックにアクセスした場合、それに対してデータベースを作ってオープンにしているために、コピペが分かるのですが、現在、日本語の論文はコピペが分かりません。コピペルナーというソフトがあるのですが、これも頑張ってはいるのですが、Googleで検索する程度で、決して論文がデータベース化されていません。
 また、学会によっては、学会員以外には和文の論文を見せないというようにして、データをクローズにしているところがあります。もしよければ、クロスチェックの会社、あるいは似たようなソフトの会社が個別に、あるいはJ-STAGEを通じて、和文のデータベース化をご依頼するやに聞いています。ぜひ、やってくださいというのではなくて、ご検討ください。
 問題点を私も十分分かっているわけではないのですが、やはり剽窃・コピペを防ぐためには、デジタル化、そしてオープン化がなければ、当然できないものですので、博士論文とか学生のレポートなどでも、かなり日本語でコピペがされているやに聞いていますので、そういうものを防ぎたいということで、ご検討いただければと思います。
 ほかに何かご質問とかご意見とかありますでしょうか。

湯浅委員:安間さんにお聞きしたいのですけれども、たとえば科研費を申請するときに、何か全国共通的なテストというか、講習というか、そういうものを受けていただいて、それを受けた人のみが科研費の申請資格があると。それに研究者倫理とか、CITI Japanというのが将来的にはそれに使えるかもしれないですけれども、何かそのようなことについてはご検討されておられるでしょうか。

安間敏雄内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付参事官(調査・分析担当):ありがとうございます。先ほどの御説明で使用した資料12の束の中の資料1の9ページに、参考文献と共に教材例もお付けしまして、そこにご紹介のあったCITI Japanも取り上げております。
 まさに今お話がありましたように、科研費、日本の競争的資金の6割を担っている最大の競争的資金ですけれども、その科研費を実際に運用しているJSPS(日本学術振興会)が今、日本学術会議と一緒になって教材の開発をされています。先月末から今月の頭ぐらいには、それの1つのデモ版のようなものが完成して、それを最終的には今年度中、来年の4月ぐらいまでに1つの紙媒体のベースにして、皆さま方各学会とかにも公表するというようにも伺っていますし、そういう状況については、先ほどご紹介した私どものホームページでもご紹介したいと思っています。
 JSPSのほうとしては、この教材を使った倫理教育というものをある程度義務化して、平成28年度からだというように記憶していますけれども、それ以降の申請においては、その教材を使った倫理教育を受けているかどうかということが、申請の1つの要件になるというようにも伺っています。
 単にこれは科研費だけではなくて、ほかにもさまざまな資金機関がありますので、そういったところについて、全く同じものを使うということにはなりませんけれども、同じような形での検討もされていますし、CITI Japan自体も、ご案内のとおり、これを医学関係だけではなくて、分野を広げるような形に検討を進めるというようにも伺っていますので、そういった重層的・複合的な取り組みが幅広く進むということを期待していますし、そういった状況は広くご紹介申し上げたいと思っています。

北村委員長:ありがとうございました。実は私の専門は医学教育です。倫理をe-ラーニングで教えられるのかというのは、非常に引っかかるところがありまして、小学校・幼稚園の教育も大事だろうと思うし、高校・大学学部とか、いろいろな生の教育もぜひ併用して倫理教育をやっていただいて、最後の確認程度でe-ラーニングをやると。e-ラーニングだけで倫理を教えるというのは、やはりつらいかなという気もしますが、ないよりは絶対よいと思いますので、よろしくお願いします。
 まだご質問もあるかと思うのですが、お約束の時間も過ぎましたので、これでシンポジウムを締めたいと思います。この問題の解決はまだ道半ばですし、ずっと続く問題だと思いますが、医学雑誌の編集者、編集長としても、ぜひ取り組んでいただいて、みんながそういうことはなくなるほうがよいと思っていただくのがいちばんよいと思います。
 今後ともJAMJEにご協力をお願いし、また一緒に頑張っていきたいということで、締めさせていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。