日本医学雑誌編集者会議 Japanese Association of Medical Journal Editors

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議事要旨

日本医学会臨床部会利益相反委員会ならびに日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)合同シンポジウム:シンポジウム

総合討論Q&A

総合討論の質問,応答は下記のとおり.

司会:曽根委員長:本日の合同シンポジウムでは,産学連携による医学研究を推進する上でのCOIの問題とそのマネージメントの在り方について紹介いただいた.産学連携を適正に行う上で重要な点の1つは組織・機関として公明性,透明性を確保し,自己申告制によってお金の流れを開示していくこと.2つ目は説明責任をいかに果たしていくかである.
 また,説明責任と透明性の2つを確保していく上で重要な点の1つは研究個人レベルでの透明性と説明責任をいかに担保として医学研究が実施され,発表されるかであり,2つ目は分科会として会員のCOI状態をどれだけ透明性を持って把握できるか.それを元に,もし疑義が出た場合には説明責任を果たすことができるかである.
 その視点として,医療従事者としての立場から考えるのではなく,金銭のやりとりが,一般国民や患者といった目線から,常識面・良識面でおかしくないかどうかという考え方を持つことが最も重要である.
 最初に提案したCOIマネージメントに関するガイドライン案の内容について,あるいはそれに続く各演者の発表について,ご質問あるいはコメントがあればご発言いただきたい.

津谷委員:土岐先生のスライドの12枚目に,「ASCO COIポリシー」があり,講演の中で,日本の奨学寄附金や寄附講座に相当するものがアメリカにはないので入っていないという話があったが,自分の印象では寄附講座はアメリカでは日本よりももっと多いような気がする.

土岐委員:その開示内容には寄附講座を見つけられなかった.

日本周産期・新生児医学会:日本医学会作成のガイドライン案は,理念もよく理解できるし,きめ細かいところまで論理的に整理していて,分科会としては助かるものの,少し親切すぎるところがある.
 どの事項に関してどの位の金額を基準に開示するか,ガイドライン案のなかでは,状況が学会によって違うので,各分科会のポリシーに基づいて決定するようにと記しているが,曽根先生が発表されたスライドでは,例として,役員,顧問職の報酬額が合計100万円以上とか,具体的に金額が挙げられている.「例」とは書いてあるが,日本医学会が例示すると,相当にこれは重みのある数字になってしまう.これは先ほど発表された日本癌学会の金額と全く同じである.日本癌学会の例もあることを示すのかはっきりしないといけない.実は日本産科婦人科学会も全くこれと同じ金額になってしまったし,他の分科会の例もある.最初の基準は各分科会で決めろと言うのであれば,例示の仕方を少し工夫したほうがよい.
 また,ガイドライン案には「講演者には,最初か2番目のスライドにて分科会の定める様式に従って」とある.これはスライドの2枚目に必ずいくら貰ったか全部開示することなのか.
 日本周産期・新生児医学会でも議論になったが,「こうしないといけないと日本医学会が言っている」という話になって,場合によればクリアーしているから最後にまとめてやるとか,分科会ごとにやり方はあると思う.短い時間に必要なことを発表するのに,1枚スライドを使って全部開示するということを日本医学会が言ってしまうと,各分科会は従わなくてはいけないと思ってしまう懸念があるので,もう少し検討していただきたい.

曽根委員長:申告項目ごとのCOI判断基準は,私が最初に文部科学省の検討班でガイドラインを作ったときに,当時欧米では大体1万ドルが1つの基準として,開示・非開示ということがあったので,1万ドルだったら大体100万円ぐらいだろうということで例示した.厚生労働省の管理指針についても同様に例示している.
 ガイドライン案はあくまで参考であり,各分科会がその状況に応じて判断し決定すべきものであり,100万円という金額がたとえば200万円でも500万円であったとしても構わない.しかし,重要な点は,社会の目線から何か質問があったときにその根拠について説明責任を果たすことができれば,別に問題はないと考えている.

日本周産期・新生児医学会:論理的にはそのとおりなのだが,ガイドラインをどう捉えるかという問題もある.いったんガイドラインが出てしまうと,社会のほうは,日本医学会のガイドラインにはこう書かれているということになり,各分科会が独自で,少し離れたところに規定を持っていくことが非常にやりにくい状況になる.

曽根委員長:今の点について,永山さん,社会の目線からはいかがでしょうか?

永山悦子毎日新聞科学環境部記者:金額の問題は,私自身もメディアとしても判断が難しい.たとえば何百万円以下を公開しないことについての合理的な,一般国民も納得できるような理由付けをしたうえで,日本医学会なり日本癌学会が示している金額についても閾値を出していくのが親切なのではないか.
 一般人にとっては,1万円でも貰えばうれしいし,100万円貰ったら,それはとんでもない金額だという庶民感覚がどうしてもある.当然,研究と一般人の生活が違うのは分かってはいるが,庶民感覚を丁寧に説明しながら報道したいので,報道を支える論理的な理由や根拠を示して欲しい.

曽根委員長:COI状態を学会の講演会の最初にスライドで開示する際に,「2枚目」と書いてあるのは,最初はタイトルスライドになるので,冒頭でも2枚目でも良い.重要なのは,研究結果の発表の前に開示することだ.開示については,基準額以上のCOI状態にある企業名を書くだけで,金額をいくら貰っているかは書く必要はないというのが我々の考え方である.
 医学研究結果の発表では,オーディエンスが中立的立場,あるいは客観的な立場にて解釈するには発表者のファイナンシャルなCOI状態を予め知っておいたほうがよいというのが基本的な考え方で,そのような環境を作ることがマネージメントであると考えている.
 実際に日本癌治療学会ではすべての発表者に開示を求めているが,高後先生いかがでしょうか?

高後委員:日本癌治療学会はもう実際にCOI指針によるマネージメントを試行的に2年間行い,現在,本施行に入っている.最初はないものについては開示しなくてよいという考え方であったが,ないものはないと書かないと,出していないのではないかという誤解と指摘をマスコミから受けたので,いずれの場合にもCOI開示したほうがよいということになった.
 金銭等をどこから貰っているかということを開示することは,世界的にも講演の冒頭にスライドの形で出しておくことが一般的で,その後はオーディエンスがどのように受け取るかということでよいのではないかと考えている.

日本透析医学会:マネージメントにおいて自己申告することにより,透明性を高めて,自らを律することは非常に大事なことだと思う.アメリカの臨床腫瘍学会で,COI状況において問題となる事項,あるいは回避するべき事項が明確にされていたが,一般の会員は申告さえすればよい,では何をしたらいけないかがよく分からないので,回避するべき事項もこのガイドライン案のなかに明確に示していただきたい.

曽根委員長:今回,そのことに触れなかったのは,現時点では臨床研究を実際に行う場は大学病院や研究機関になるが,そこでは同じようにCOI指針があり,企業などの利益団体といろいろな契約をするうえで理不尽な内容にしてはいけないとか,あるいはPrincipal Investigator(PI)の人がしてはいけない活動とか,かなり明確に書かれている.学会は研究成果の発表の場であり,発表者に対して臨床研究を実施するPIが何かしてはいけないということまで記載するのはどうかという考えもあり,今回のガイドライン案では外してある,日本内科学会等のCOI指針では記載しているが,今回はそこまで踏み込んでいない.分科会における役員・委員などの責務の一つとしてその点も含めて検討したい.

日本呼吸器外科学会:日本医学会の「マネージメントに関するガイドライン(案)」の「案」が消える時期は来るのか.「案」でなく,「ガイドライン」という言葉でなった時には,ガイドラインという言葉が持つ意味は一人歩きする.たとえば,訴訟になったときに,学会が出している治療に関するガイドラインがあると,検察にしろ,裁判官の書記官にしろ,ガイドラインという言葉は,それで治療をこうしなくてはいけないとは思わないが,判決を考えるときにとても重要な材料になると言われる.
 日本呼吸器外科学会で治療に関してガイドラインを出す時,「ガイドラインを出すと,治療,手術はこうしなくてはいけないと会員が捉えるのも困るから,どうしよう」という議論が毎回持ち上がる.「案」が外れて,日本医学会の「ガイドライン」となった時には,やはり50万円,100万円という話になってどうしようということになる.「ガイドライン」という言葉でそのまま行くのか,たとえば「目安」とかはどうか.

曽根委員長:予定としては,本日の合同シンポジウムを踏まえていろいろなご意見をいただき,少し加筆訂正した後,108分科会に対してオピニオンを求める.オピニオンを求めて,最終的に練ったガイドライン案を来年2月の日本医学会定例評議員会で承認していただく予定であり,その後,ガイドラインの形として公表する考えである.

日本呼吸器外科学会:やはり「ガイドライン」という言葉を使うのか.

曽根委員長:本ガイドラインはあくまで各分科会がCOI指針を策定する上で参考にしていただくことを目的にしている.委員会の考え方としては「ガイドライン」という用語を使う予定である.

平井委員:ご指摘になっている点はよく分かる.医学会における「ガイドライン」という言葉の重み,それは他の分野とは若干違うのではないか.大学とか他のアカデミアの場合,「COIガイドライン」は,もう少し軽い意味で作って出している.その場合,たとえばある大学はガイドラインと違うルールも有している.それも全然問題がないと思うし,皆そうやっている.確かに「ガイドライン」という言葉にはもう少し注意をしたほうがよい.他によい言葉があったら,置き換えることも含めて検討するべきではないか.

日本泌尿器科学会:COI管理の委員会のなかに外部委員を入れるべきというのはそのとおりだと思うが,外部委員というのは具体的にどういう職種の人を想定されていて,どこまでが外部でどこまでが内部なのか.日本泌尿器科学会非会員であれば外部委員なのか.一気にいろいろな分科会が外部委員を求め始めると,この問題に詳しい人はそうそういるわけではない.

曽根委員長:これは非常に重要な点で,倫理委員会でも同じことが言える.倫理委員会も外部委員に必ず女性を入れる,専門職以外の人を入れるという点で委員集めに非常に苦労している.COI委員会の外部委員はどうするのかと言われると,108分科会が委員会を作られて外部委員を捜したら,おそらく人材がいないであろう.
 日本医学会としてCOI委員会をサポートできるような人材の育成,特に外部委員の育成を行うシステム,計画的に講習会をして,資格を与えていくようなシステムを考えていくことも重要かもしれない.

髙久日本医学会長:確かに臨床的な治験や研究では委託研究外部委員は必ず入れるようになっているが,こちらはCOI委員会であり,一応ガイドラインができれば,それに準じているかどうかを判定する委員会であるので,100%外部委員を入れなければならないということを初めから決めないほうがスタートしやすい.実際に各分科会の意見を聞いてみないと分からないところはあるが.

曽根委員長:日本癌学会のCOI委員会では外部委員確保についてどう対応されていますか?

河上委員:日本癌学会の利益相反委員会は10名の委員からなり,そのうちの1人は女性で,2人は外部委員である.外部委員の1人は弁護士で,COI問題に詳しい方である.もう1人は大学のIRBの関係者で,やはりCOIに詳しい方であり,2人とも日本癌学会の会員ではないということで外部委員と設定している.その2人がいないと議論が十分に進められなかったこともあり,この形で良かったと思う.各分科会が皆でそうした人物を探し始めたら人材が足りなくなってしまう問題はあるかもしれない.

日本泌尿器科学会:日本癌学会のように大きな分科会だと,そういうこともできるかもしれないが,より小さな分科会だとやはり難しくなるのではないか.

曽根委員長:日本内科学会の場合,弁護士の方1人と,女性で生命倫理が専門の方を外部委員として迎えている.東京の場合は比較的人材がいる.東京以外のところに事務局があり,そこが中心となると外部委員の確保はなかなか難しいかもしれない.
 現時点では,日本医学会の108分科会のうち2割程度しかCOI指針が作られていないという現状であるので,外部委員の候補者をCOI指針を作るときから一緒に加わっていただくと,COI問題を非常によく理解され,外部委員として一緒にやっていただくチャンスが増えると思う.そういう方向での取り組みと努力をお願いしたい.

高後委員:実際にマネージメントをしていて,どのぐらいの金額が妥当かという時,外部委員が入ると,このぐらいではないかという提案がなされる.そうすると上位の理事会では申告額の基準が低すぎるのではとの質問が出る.最大でこの辺りでないかというのは,国民の目線がどのぐらいかという意見がどこかで入らないと,なかなか社会的な納得や,説明責任が果たせないことが実際にあった.COI委員会には,やはり社会目線を持つ外部委員が入っていることが重要である.

髙久日本医学会長:日本医学会のガイドライン案を作成して各分科会にご意見を伺い,最終的な案を作成し,これをモデルにして分科会のガイドライン作成をお願いする.いったんガイドラインが作成されれば,それでしばらくは持つので,外部委員に入ってもらうのは1回でよい.年中変更するわけではない.

曽根委員長:実際,マネージメントをする上では,医学関係以外の外部委員からも意見を聞くことが大切だと考え,日本医学会のCOI委員会にはCOIに詳しい弁護士の方に入っていただいている.

髙久日本医学会長:もちろん外部委員には入ってもらったほうがよいが,分科会としてガイドラインを作成するときに,年中意見を開くわけでない.

曽根委員長:COI委員会を実際に運営する場合,分科会で役員改選があるときと,年に1~2回ぐらいの委員会開催が必要と考えていただきたい.メール会議も可能であり,頻回の開催は必要ない.分科会の非会員であれば外部委員となれる.

北村委員長:非会員であれば,ここに集まっている先生方が交互に委員となるというのはどうか.そのために分科会や本会議があるわけであり,先生方でCOIに詳しい人が,他の分科会の外部委員になることは,少なくとも外部委員が2人いた場合の1人としてはよい.もう1人は法曹界等から入る必要があって,そのほうが困るかもしれないが,日本医学会内で非会員を捜すのであれば,本会議等で詳しい人が交互に行ったりするのも1つの手段である.

日本神経学会:国民目線が強調されるのであれば,弁護士とか大学教員は国民の目線とはとても思えないので,もっと一般人から外部委員を募集してもよいのではないか.

曽根委員長:その考えは良いと思う.医学研究,臨床研究を理解していただくのはなかなか難しいが,努力は必要だと思っている.「患者の会」とか,最近いろいろと医療関係のNPOができており,外部委員をお願いすると快く受けていただける方は結構多いと聞いている.そういう意味で外部委員の依頼については今後とも努力をお願いしたい.

日本消化器病学会:非常にCOIについての分かりやすい説明をいただいた.このように日本医学会を中心にCOIのガイドラインを作成するのは非常に大事なことだと思うが,国立大学系では文科省からのいろいろな指示があって,既にそれぞれの施設でCOIのガイドラインを作っているところが多い.私自身は臨床研究の倫理審査の委員長をやっているが,大学でもそういう内容とCOIを承認して,たとえば臨床研究をしたときに,ある学会誌に出した,学会の持つガイドラインとそれぞれの施設が持つガイドラインとがある程度違いが出てくると,ダブルスタンダードになってくる.最初に大学では認められたのに,いざ発表するとまた違うということになると,かなり現場のほうも混乱する.そういう意味では日本医学会分科会の,あるいは全国の大学や施設の既に動いているCOIガイドライン情報の収集もお願いしたい.

曽根委員長:今のご質問について,私は個人的に文部科学省の「臨床研究の倫理と利益相反に関する検討班」の班長として,平成18年3月に日本で初めての「臨床研究におけるCOIポリシー策定のためのガイドライン」を公表し,その啓発のために,平成20年には大学施設のCOI担当者を対象とした第三回ワークショップ(http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1245121.htm)を開催してきた経緯がある.COIマネージメントにおいては,ご指摘の通り,日本でダブルスタンダードを作ってしまうと大変であり,医学会においては複数の関連学会の会員になられている方がいることも踏まえて.各分科会の置かれている状況は違うが,COIマネージメントのスターティングは,大学・施設などとともに各分科会もできるだけCOI申告基準は同じようにしておくことが会員に不便さや混乱を招かないという観点から重要と考えている.しかし,各分科会の独自性もあるので,その後は社会に説明できるような形で基準を変更されてはどうかと考えている.
 医科系大学関係は2年前の調査で3割程度,今はおそらく5~6割程度がCOI指針を作られ,マネージメントされていると思う.研究成果を発表する学術団体は大学・機関とはできる限り情報交換をして,ダブルスタンダードにならないように連携に努めたい.
 なお,日本医学会のガイドライン案では「利益相反」という言葉は日本語訳が適切でないとされ,イメージ的にあまり良くないので,欧米で略されている「COI」という言葉で表記し,規制的なニュアンスが強い「管理」ではなく「マネージメント」として表記している.
 また,本日はお手元にアンケートを配布しているので,率直なご意見を記入いただきたい.本ガイドラン案の最終案改定に向けて役立てたい.分科会のCOI関係の先生方には日本での産学連携による適正な医学研究の推進に向けて今後ともご尽力並びにご協力の程お願い申し上げ,本シンポジウムを閉じたい.

北村委員長:1点申し上げるのを忘れた点がある.本日,日本語訳したものを資料として配布した「西太平洋地域における医薬情報への公正なアクセスに関するシンガポール宣言」は前回の昨年11月のAPAME/WPRIM合同会議で採択され,シンガポール医学雑誌に既に掲載されている.まだこなれていないところも1~2あるが,大筋これをきちんと日本語訳したものを,日本語の雑誌にも投稿したいと考えている.読んでいただき,何か問題があれば,1週間程度でご連絡いただきたい.
 内容の要点は,Index Medicusの西太平洋地域版を立ち上げ,アメリカのIndex Medicusに載らないものであっても重要な論文はたくさんあるので,WHOのプロジェクトに乗って,われわれの論文が常にどこからでもアクセスできる体制を整えたいという宣言である.
 医学雑誌編集長の先生方はCOIの問題はもちろんご存じであろうが,国際的な投稿規定,編集ガイドに近づいて,あるいは則って,COIの問題もクリアーにした雑誌編集を心がけていきたいので,ご協力をお願いしたい.COI委員会の先生方には,当然雑誌編集も大きな論点になるということで,医学雑誌編集長ともご相談のうえで,より良い方向性を見出していただきたい.