日本医学雑誌編集者会議 Japanese Association of Medical Journal Editors

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議事要旨

第4回日本医学雑誌編集者会議(JAMJE)・第4回シンポジウム:シンポジウム

総合討論Q&A

総合討論の質問,応答は下記のとおり.

日本病理学会:日本の雑誌にはcase reportが多いが,包括ICしか取っていない場合が多い.「public access」を目指すのであれば,まず,学術雑誌や学会員に対し,「包括ICではだめである」ことを示さなければいけないのではないか.

根岸委員:NIH Public Access Policyを雑誌編集の立場から考えると,要するにNIHの補助金をもらった研究の成果をPublic Access Policy compliantではない雑誌には発表してはいけないという話である.各雑誌についても,投稿規定に「NIH Public Access Policy compliantである」という一項を盛り込み,これに対応しないと,そのような論文が投稿されてこないことになってしまう.

北村委員長:NIHのグラントをもらった研究はPubMed Centralに載せなければいけないことになっている.そのため,投稿規定にNIHのpublic access policyに準拠していることを盛り込んでおくと,NIHのグラントをもらった論文も安心して投稿できる.日本の雑誌においても,投稿規定にpublic accessについて書き添えていただければということである.
 国際医学雑誌編集者会議の雑誌は13誌しかなく,日本の雑誌は入っていない.日本もICMJEのメンバーに入ってもよいという返事をいただいたのだが,日本にはnational flagを掲げた雑誌がない.

中山健夫京都大学大学院医学研究科健康情報学教授:ICMJEの活動に,何らかの形で日本が参加して,発言をしていく機会を確保するのは非常に大事なことである.ぜひnational flagの付いた雑誌について考えていただければありがたい.

日本血液学会:日本の,特に日本語で書かれる商業誌はかなりコピー&ペーストが多いが,これは二重投稿と考えられるか.

山崎茂明愛知淑徳大学人間情報学部人間情報学科教授:これもまたacceptableの可能性がかなりあると思うが,解説的な志向で書いているものと研究志向で書いているものは,もしかしたら許容される範囲かもしれない.
 北欧文化圏での言語の関係と,全く違う日本語と英語の関係を踏まえると,北欧よりももう少し広げて考えてもよいのではないか.お互いの了解が必要なので,実例を率直に挙げながら,共通点や,読者の立場など,重複発表についての方向性を確立していけばよいのではないか.

日本血液学会:解説的,教科書的であり,しかも同一著者である場合には,多少の二重性はよいのかもしれないが,それを認めているためにダブルスタンダードになってしまい,引用する図表を外国から無断で引用したり,著作権の問題が起きたりするではないか.

日本麻酔科学会:厚労省が出している倫理指針と,ICMJE(国際医学雑誌編集者会議)で出しているものが微妙にずれているため,ジャーナルの投稿規定を策定するときに問題となる.厚労省の倫理指針を無視するわけではないが,それを載せなくてもかまわないということでよいのか.

木内委員:それは各学会のジャーナルでご判断いただきたい.

日本麻酔科学会:国の指針に準拠すべきか悩ましい問題であるが,学会レベルで決めてしまってかまわない事項であるのか.

木内委員:国の倫理指針が定められていて,何か特別な事情がない限りは,その倫理指針に沿う形にしないといけない.そのため,原則として国の指針よりも条件を甘くすることはできないと思われる.

日本麻酔科学会:どちらの指針を採用するかを各雑誌で判断するとなると,介入すればすべてで,コントロールがあるかないかは関係ないという日本の倫理指針のほうが厳しいと思われる.

木内委員:レジストリーを運用している立場としては,各雑誌にどうすべきという立場にはなく,やはり各雑誌で判断していただく他はない.雑誌ごとに条件が違うことはありうることだと思う.

日本麻酔科学会:UMINから厚労省に働きかけることはないのか.統一する方向にしていただくと非常にやりやすい.

木内委員:UMINとしてはそうした立場にはない.厚労省の臨床研究の倫理指針では,侵襲がほとんどない介入や,観察研究などは登録する必要がない.しかし,UMINはそういうものでも受け付けている.

日本眼科学会:臨床研究において,IRB(治験審査委員会)の組織として倫理指針で求めている組織は厳しいものがあるが,開業医などが行う研究を受け付けるIRBをなかなか設けにくい.UMINの登録を受ける際には,どういうIRBか,その組織までをチェックしているのか.

木内委員:チェックしていない.UMINとしては研究者がどういう情報を申請したかを,管理して公開しているだけである.公開していることがある種のチェックにはなっていると思う.

日本眼科学会:国の指針の組織がどうも難しい.開業医などから,学会に設けてあるIRBで審査してほしいと言われるのだが,もし受け付けるとなると,非常に数が多くてできない.
 もう1つは,海外から投稿論文があるが,海外からのIRBについては全く調べようがなく,書類が中国語などで書かれていることもあり,苦労している.

木内委員:臨床試験登録をしなければいけない国ごとの倫理指針と,雑誌ごとに定める倫理指針というのは異なってよいわけである.それは,各雑誌の判断で決めていただく他にはない.

日本消化器内視鏡学会:レジストレーションして,パブリケーション・バイアスをなくす,減らすという意味では非常に有意義である.しかし,その内容を登録した時点で公開されることが引っ掛かる.アイディアなどを他のグループで参考にすることもありえるため,発案した研究者,研究グループに対して,知的財産を保護するような形でこうした仕組みが運用できないか.

木内委員:知的財産権などが絡む場合には,国の臨床研究の倫理指針では,一定の要件を満たせば,例外として臨床試験登録しなくてもよいという趣旨の内容が書いてある.

日本消化器内視鏡学会:知的財産という言葉が誤解を招いているかもしれないが,研究者としてのプライオリティということである.

木内委員:研究者としてのプライオリティとして考えるのであれば,それについては配慮されていない.結局,事前登録しないで患者を組み入れて始めてしまうと,いろいろな誤魔化しができてしまう.そのため,事前登録を求めている.

日本消化器内視鏡学会:それはよい仕組みだと思うが,公開する必然性が見えない.

木内委員:公開しなければ,皆が分からない.

日本消化器内視鏡学会:投稿の時点ではそれを持ち込むということと,予定している研究の終了期間を過ぎてから,どのくらいのタイムラグで公開するかなど,もう一段,上手い仕掛けを考えていただくと,皆が臨床試験登録に参入しやすくなるのではないか.

木内委員:UMINの臨床試験登録では,仮登録して公開しない状態にしておくことは可能で,公開日も指定できる.そのため,公開しない状態で仮登録し,試験途中や終了後に公開することも仕組み上は可能だが,そうすると事前登録・公開というICMJEの基準を満たさなくなることと,侵襲のある介入をしている場合に国の倫理指針も満たさないことになる.両方が,試験の最初の1例を登録する前に公開するようにと言っている.

日本消化器内視鏡学会:それはある意味,大げさに言えば日本の国益を損なう可能性があるのではないか.

木内委員:可能性はある.実際,全世界で臨床試験登録を始めているが,真似をされてしまう.アイディアを盗用される心配はあったのだが,現実問題としてはあまり起きていない.やはり真似をして始めるのにも準備期間はかかる.

日本消化器内視鏡学会:日本は診療体制などでセンター化があまり進んでいないが,センター化できている国では,同じテーマでも短期間でデータの集積が可能になる現実があることもご理解いただきたい.

木内委員:UMINの臨床試験登録のサイトを運用している立場だが,ICMJEのレビューを受け付ける条件や国の倫理指針は,別のところで決まっている.臨床試験登録・事前公開は,グローバルスタンダードであり,日本だけが実施しているわけではないので,日本だけが国益を損なうことはない.

中山健夫京都大学大学院医学研究科健康情報学教授:アメリカの登録システムでは,ClinicalTrials.govが以前から国レベルで運営されているが,これはICMJEの提案に対して作られたものではなく,それ以前からある仕組みで,その主たるユーザーは患者である.患者が自分の住んでいる土地と自分の病状を入れると,例えば,現在,乳癌のフェーズ3試験を行っている病院がどこにあるか分かり,そこへ行く.もちろんアメリカの話で日本とは違う.日本のUMIN-CTRは当面,そんな使われ方はされないであろうが,今後そのようなパブリックへの責任が問われてくる可能性は感じている.

木内委員:今のUMINの臨床試験登録システムは,専門家を想定して作られているので,内容は分かりやすくはない.しかし,もし分かりやすく解説するサイトが出てくると,患者がそれを見て参考にすることはありうる.

日本整形外科学会:IRBと登録制度は別物であって,混同されているのではないか.登録することと試験研究を行うことは,その研究を行う施設,そこでIRBをさらに通さなければならない問題であって,登録してあることがIRBのagreementを取らなくてよいというわけではないので,別物と考えてよい.

木内委員:別物だと思う.IRBとしては事前登録していないとIRBが審査しないことも可能とするか,もしくはIRBが事前登録をすることを条件に許可するか,2つがあると思う.
 侵襲のある介入を伴う臨床研究を事前登録・公開なしに開始してしまうと,国の臨床研究に関する倫理指針に沿わないことになる.IRBがそのような臨床研究の実施を承認することはIRBの責任で可能かもしれないが,臨床研究に関する倫理指針に従わない理由について当該IRBが説明を求められると思う.
 雑誌での注意点は,臨床試験登録の国の倫理指針が発効されてから始めた研究であり,IRBを通っている.しかし,臨床試験登録をしていない臨床研究の論文が投稿されてくることが想定されることである.そのときに各雑誌がどうするかということである.

日本整形外科学会:そのときは,review board,あるいは編集者の責任において検討しなければならないのではないか.

日本血液学会:「医学雑誌編集」といっても,ごく一部の学会雑誌の編集であるという意識を持っていないといけない.海外の編集者会議との連携といっても,CellNatureのエディターは,いかに雑誌のインパクトファクターを上げようかという発想でやっている.それはそれなりの高い出版倫理を持っていると思うが,ここでの学会雑誌の倫理とはだいぶ違うように思われる.

日本病理学会:スライドには編集者と査読者の匿名性と秘密保持と,査読者を公開している公平性のところは,相反するようなことが書かれているが,編集者は当然公表されている.雑誌の編集委員や編集者,査読者を公表することの意義はあると思うが,デメリットもあるので,その点をどのように考えるか.

北村委員長:多くの有名雑誌は,査読者がもちろん分からないように査読が進行し,1つの巻が終わったときに,巻末にこの巻の論文をこの人たちが査読したと示すレベルであり,論文を誰が査読したかは絶対秘密である.

日本病理学会:ネガティブな意見を書いてきた査読者を突き止める人がいて,査読者が攻撃された事例もある.掲載された論文が明らかに間違っていることがあり,どうして査読者が載せたのか,その責任はどうするのかという問題もある.

北村委員長:個別の事例ではあるが,例えば捏造論文が掲載されてしまった場合,査読者に責任があるのか,あるいは出版社に責任があるのかという議論がある.もちろん一義的には著者にあるのだが,インパクトファクターが高いために十分な調査もせずに載せてしまった査読者や出版社がいるとしたら,それも責任があるのではないか.そういう社会に変わっていくのではないかと思う.

日本病理学会:研究者仲間は日本に限らず1つのネットワークがあるため,何となく掲載してしまって,本当にトラブルが起きたときには逃げていく.査読の公開は,どういうレベルで公開するかが問題である.

北村委員長:責任問題と,査読者にお礼を支払うかどうかという議論もある.

日本病理学会:現時点で日本では,個々のケースの査読者の公開はいくら何でもありえないということか.

北村委員長:もちろんそうである.

日本脳神経学会:二重投稿,和文,英文の論文の重複投稿について,ガイドラインで触れるということでよいのか.

北村委員長:案として一応出してみるが,意見が分かれるところだと思われるので,先生方と議論が一致すれば触れたい.

日本呼吸器学会:public accessを考えた場合,例えば英語で論文を出して,それをそのままPubMed Centralで出しても,日本人はほとんど読めない.日本国民に対しては,本来は英語で書いたものを全部日本語の論文として示すべきである.領域が違えば,他の領域の難しい論文を読むこともあまりない.そこまで考えないとこの問題は解決しないのではないか.

北村委員長:原著論文のように日本語で書かれると,論文数が2倍になってしまったりするので難しい.

日本呼吸器学会:ただ,日本人の多くは英語がほとんど読めないわけである.public accessの面で言えば,日本の国民のためには何の役にも立っていない.この点も,今後考えていくべきではないか.引用していれば,例えば二重投稿性はなくなるわけであるから,日本人の役に立つような論文にしていくべきである.

北村委員長:医中誌などで,英語の論文でも日本語にして掲載してくれるとよい.

津谷委員:スケジュールの確認であるが,日本医学雑誌編集者組織委員会が主体となり,何人か関係者を入れてガイドライン案を作るのが平成23年度末までで,平成24年4月以降,ガイドライン案を分科会に発送して,6月までにコメントを集めて,夏期に開催予定の来年度の本会議で議論することになる.

日本眼科学会:PubMed Centralに出されることが推奨されたが,日本眼科学会の英文ジャーナルは,著作権は学会の方にあり,発行はSpringerが行っている.Springerからはopen accessにするためには,著作権をSpringerに移さないといけないといわれるが,そうなると,Springerと著者で,製薬企業からSpringerと著者にお金を払うといった形で,いくらでもリプリントを作製できてしまうということが問題になる.学会が著作権を持たないと困ることになる.PubMed Centralの場合には,著作権はどこにあるのか.

根岸委員:公開しているだけであるから,著作権は移転しないと思われる.

北村委員長:著作権は移転しないというご意見があるが,普通はPubMed Centralが著作権を持つことは考えにくい.

日本眼科学会:SpringerはRetrievalというか,repositoryにも,デザインはSpringerにあると主張している.

北村委員長:Springerは世界戦略を持っており,眼科はここというのをしっかり持っているので,それだけがPubMed Centralに載るとまずい.

日本眼科学会:DOI(Digital Object Identifier)は単なるデジタル上の識別子であるため,オンラインの場合,論文の感想文であっても,出版社は必ず付けてしまう.DOIが付いているからといって引用されると困るということで苦労している.そういうことで,DOIが付く,付かないということに関しては気を遣っている.

北村委員長:Springerが発行しているとDOIはそのように付いてしまうが,問題は,DOIが付かない雑誌を発行していると,将来的に世の中に存在しない雑誌になってしまうことである.そのため,DOIはぜひ取っていただきたい.付きすぎる場合もあるかもしれないが,それは排除すればよいわけで,付けないよりは全部付けたほうがよい.
 捏造論文などがあったときには取り下げが出るが,論文が取り下げになったことを本来のページ数でないところに載せている雑誌がある.そうすると,図書館などでそのページを剥がして製本したりすると,取り下げになったことが残っていないこともある.大事だからといって,黄色い紙などを使ってページ数の外に記載したりすると,綴じたときに消えてしまうので,取り下げ論文の広告も本来のページ数のなかで記載してほしい.そういうのはDOIも付いてしまうのではないか.

日本泌尿器科学会:Cross Checkを開始して,編集者の作業量が非常に増えている.論文数自体が増え,作業量が増えて,臨床試験登録は今のところstrongly recommendの形で必須にはしていないのだが,編集者がどこまで責任を持たなければいけないかを教えていただきたい.
 例えば論文の中身は基本的には著者の責任である.COI disclosureについて編集者は確認できないと思うが,どこまで確認しなければいけないのか.臨床試験登録がされていることは確認できるが,正しく登録されているかをどこまでチェックしなければいけないのか.
 IRBについても,ナンバーを出してもらっているが,外国語のものが来たらどうするのかなど非常に問題が多い.どこまで編集者が責任をもって対処しなければいけないか,教えていただきたい.

木内委員:個々の事例によって異なると思うが,完全に捏造のデータを出されても,研究の現場に行って査察するわけにはいかない.COIについても,出された内容に嘘があっても,査察してまでレビューする制度にはなっていないので,雑誌側には責任はないと思われる.明らかに問題があるとわかるような申告である場合には,見逃せば責任も出てくると思う.
 臨床試験登録については,登録した内容,いつ登録したか,登録してどのように改変したかという記録が残っているので,実際に出された論文の照合の観点から言うと,登録された内容と論文の内容で比較はできるので,比較してどうだという話は雑誌側の責任になるのではないか.

津谷委員:Cross Checkを導入して,重複投稿の可能性が強いという例は実際に見つかったか.

日本泌尿器科学会:アドミニストレーターが一律チェックを掛けて,一定以上のスコアの出たものが編集者に回ってくる.その内容を見て,明らかにおかしなものは,書き直すようにと返却し,査読に回さない.書き直して戻ってくるケースが半分ぐらいで,戻ってこないケースが半分ぐらいだが,戻ってきたケースも大体はインデックスが高く,やはりあまり直らないというのが正直な印象である.material and methodsは別として,中身次第であるが,内容があまりにも近いものは問題があるとしてリジェクトにすることもあり,ケース・バイ・ケースである.

津谷委員:それによって,雑誌の質が高まり,無駄な重複論文が世の中に出ることが削がれているということだが,Cross Checkを導入していない雑誌は仕事量が少なくて,ある意味では楽なわけである.Cross Checkが日本でも広まっていくと,それが入っていない雑誌を狙って投稿する人が出てくるのではないか.

日本泌尿器科学会:ありうると思う.日本泌尿器科学会は,ホームページにCross Checkを導入したことを掲載しているので,見れば分かるようになっている.

津谷委員:アジア太平洋医学雑誌編集者会議(APAME:Asia Pacific Association of Medical Journal Editors)が平成23年8月,ソウルで開催されとき,韓国ではCross Checkをずいぶん使っているので驚いた.韓国は意識が高いというよりも,昔スキャンダルがあったことから,何とかしてscientific integrityを保たないと世界から信用されなくなるという危機意識がバネになって広がったという感じがした.

日本疫学会:Cross Checkについては日本疫学会もトライアル版を導入していて,今,運用している最中である.確かに例えば20%~30%,同じ文章があるケースが出てくるので,最初は,アクセプト寸前に著者に連絡していたのだが,揉めるケースも出てきた.そのため,第1回目の査読を通った段階でCross Checkをして,同じ文章が多い場合には著者に連絡をするという方法を採っている.ちなみにCross Checkは1論文につき75セント,料金が発生する.(但し,Cross Refの会員であることが前提.)
 さらに今回,他の国際誌を参考にして,「Cross Check」についてはインストラクションとホームページ上にきちんと明示して,その際に,コホート研究などで同じメソドロジーを使うときには,本文中にサイトするということと,編集者に従来の論文のメソッドをある程度使ったことをカバーレターなどに知らせてもらう形で動こうと議論しているところである.

津谷委員:Cross Checkシステムを実際に使ったことはないのだが,日本語には対応しているのか.

日本疫学会:していない.というのも,日本語のデータベースが不充分であるためで,テクニカルには可能である.

北村委員長:引っ掛かる率はどれぐらいか.

日本疫学会:15%前後である.

津谷委員:いくつか多国籍の大きな雑誌社では,Cross Checkを使っているか契約しているということである.日本の学会誌でも,発行が外資系のpublisherの場合には,そちらがやるということだが,学会独自に導入したということか.

日本疫学会:独自である.J-STAGEのなかで使わせてもらうという形である.J-STAGEの使用はトライアルの最中である.

津谷委員:J-STAGEにリクエストするとトライアルができるということか.

日本疫学会:最初はJ-STAGEから,学会に対して,ワーキンググループとして参加を募る通知があった.いくつかの学会が参加したが,医学系のジャーナルで参加された学会はあまりなかった.今,導入してほしいということでお願いしているところである.

日本疫学会:すでにパブリケーションされたペーパーを,商業目的でなく,患者教育用の資料としてPDF全体を使いたいというリクエストがあり,そのときにどのぐらいの金額を学会としてチャージするかが議論になった.今回は1つの資料,1冊だけだったのでフリーでということだが,将来的には教科書に使う場合や,商業目的にペーパーの一部を使うとなったとき,どういったチャージの仕方をするかという議論は,他の学会誌でどうされているかお伺いしたい.

日本血液学会:一般に,出版費はかなり高いが,そういうロイヤリティでかなりバックしてくるので,チャージしたらよいと思う.
 商業目的に使うのであれば,別刷でも1,000部買いたいなど,大量のリクエストがくるのだから,PDFなども高くしてもよいと思う.
 学会雑誌がもっと自立できるようにしておかないといけない.学会のお金の半分程度をdependしている限りは,雑誌編集部はこれ以上発展できないという感じがしている.例えばアメリカの血液学会はBloodという雑誌を持っているが,Bloodは完全にビジネスとして成功している.そのように持っていかない限り,いつまでたっても学会と密着していて,最後はグローバルにはなれない.
 例えば日本血液学会の雑誌であるIJH(International Journal of Hematology)の場合,40%しか日本からは投稿されておらず,残り60%は外国人の参加者である.それ以上に持っていこうとすると,editorialなどの会議も全部英語で行わなければいけなくなってくる.そこに最初から限界を置いていると,日本だけがガラパゴスのようになるのではないか.
 そうなると,わざわざ英語でやっている理由は何なのかということにもなる.日本人皆に知らせるなら日本語でやっていればよいし,英語の論文,学会誌を作るなら世界に伍してやっていくという選択ではないかと思う.

津谷委員:AMAとJAMAとの関係でそうしたことが昔話題になり,publisherとeditorial committeeとの対立が起きることもある.日本では,学会雑誌というのは両者の関係が密接した感じであるが,できれば編集委員会として財政的に独立できればという考えで進行しているのか.

日本血液学会:できるだけ売れるような記事を載せればよいというのはもう完璧にビジネスである.学会雑誌であれば,case reportはインパクトファクターを落とすから問題ではあるが,学会誌としてcase reportはきわめて大事という理由で掲載している.それが商業誌と学会誌の違いと思われる.お金を払っているのであるから,学会員に還元できるようにするべきであるが,そうすると,インパクトファクターが低くなり,良い論文は投稿されてこない状況が続いている.

日本整形外科学会:conflict of interestのフォーマットなども出されているが,論文を提出するときに一緒に提出させて,査読者に見せるのか.あるいは査読者には個人名を消したような形で,conflict of interestを付けて査読させるのか,あるいは論文の評価をした後に,conflict of interestを明記した形でpublicationして,読者に判断をまかせるのか.

日本血液学会:conflict of interestがあるかどうか,査読者自身が知るべきである.

津谷委員:査読者にその情報を渡してということか.

北村委員長:COIに関しては,査読者は知らないのが一般的だと思う.COIについては編集者だけが知っていて,開示されるので,判断は読者がすればよい.編集者や査読者がそういう判断をする必要はない.

日本血液学会:逆だと思う.ある企業と共同研究をしているか,その人が企業の役員かで,査読者の読み方は変わる.だから,査読者が知っているべきであり,サブミッションをしたときに,そのCOIは査読者に行っていなければいけないと思う.

津谷委員:そのことは,投稿者は知っているのか.

日本血液学会:投稿者も自分を守ることになると思う.黙っていれば,それこそ詐欺に近くなるので,自分がdeclareする.

津谷委員:投稿者が査読者までその情報が行くということは知っているということか.

日本血液学会:COIガイドラインにそう書いてある.

日本消化器病学会:査読者には伏せるということで,学会自体がCOIを決めている.だから,本来,査読者には回さないで隠すように,体制を改めようとしている.

日本眼科学会:日本眼科学会では,厚労省が決めた委員会の基準をある程度参考にすると共に,アメリカの基準も参考にして,学会内に周知している.ある一定の基準以上になる場合には公表し,一定以下の場合には,単なる報告という扱いで,学会発表のときにもそれを適用している.そのため,報告の場合には実際には表面に出ない.公表の場合には,大体の金額が出る.

北村委員長:国際医学雑誌編集者会議の場合は,編集長あるいは学会の理事,理事長,それから場合によっては査読者のCOIも開示すべきとなっている.

日本泌尿器科学会:明らかにCOI disclosureが間違っているケースという場合,例えば製薬会社の研究所の人が著者に入っているのに,COIがnon declareだったりするケースが実際にあるが,どのように対処すればよいのか.
 COIは読者が判断するものだ,編集者は関与する必要はないということだったが,誰がどう見ても間違っているケースもある.そういうときはどうしたらよいのか.

北村委員長:論文を却下したケースがあるが,それが良いかどうかは分からない.明らかなものはよいのだが,例えば500万円もらっていたとdeclareしていて,本当は1,000万円もらっていたかどうかは分からないのであるから,1,000万円もらったことが分かったときに,読者が判断すればよい.
 先生方のお手元にアンケート用紙があるので,ぜひご記入いただきたい.「その他のご意見」のところに,先生方の学会では論文を全部公開するというソーシャルアクセスに関してどういう状況であるか,例えばJ-STAGEに載っているとか,Springerに載っているとか,考慮中であるとかを書いていただけるとありがたい.
 本年は少し遅い秋口の開催であり,お忙しいところ,多くの人にご参加いただき,感謝申し上げる.今後ともよろしくお願いしたい.