日本医学会臨床部会会議

次第へ戻る

議事要旨

第1回日本医学会臨床部会会議:議事録

1. 挨拶

(髙久日本医学会長)

 本会議開催前に各日本医学会分科会に検討テーマのアンケート調査を行った。一部の分科会からご意見をいただいた。その中で標榜診療科の問題と診療関連死の問題いわゆる医師法21条の問題が本会議のテーマとして多かったので、本日のテーマにした。
 標榜診療科に関しては、松谷医政局長にご説明をお願いし、診療関連死に関しては、上 東京大学医科学研究所客員準教授にご講演をお願いした。

次第へ戻る

2.次第説明

(司会 出月日本医学会副会長)

 臨床部会については、平成19年2月に第74回日本医学会定例評議員会において、従来の9部会の編成替えが行われ、基礎・社会・臨床の3つの部会に再編された。本日の臨床部会は初めての会であるが、本会議において検討を希望するアンケート調査を各分科会にした結果、本日の議題の「1.標榜診療科に関する件、2.医師法21条に関する件」を取り上げることになった。その他、何かあればこの場でご意見をいただきたい。
 標榜診療科に関しては、金澤日本学術会議会長が座長の「医道審議会医道分科会診療科名標榜部会」があり、その部会において厚労省から従来の標榜診療科33を基本的領域の20に減ずるという案が出された。また 20の基本的領域には括弧して専門的領域を明記して良いというものであったが、この案に対し、日本内科関連学会(14学会)、日本外科関連学会(6学会)、日本心療内科学会、日本アレルギー学会、日本神経学会、日本リウマチ学会などの多くの学会から反対の声があがった。本日は、各学会の要望を受けたその後の状況を松谷医政局長からご説明をいただけることになった。
 医師法21条に関しては、上 東京大学医科学研究所客員準教授にお話をいただくことになっている。

次第へ戻る

3.標榜診療科に関する件

(松谷医政局長)

 省略

次第へ戻る

4.医師法21条に関する件

(上 東京大学医科学研究所客員准教授)

(司会 出月):医師法21条は、いわゆる異状死に関する届け出の問題である。日本法医学会が声明をだし、現在、それがきっかけで大きな議論になっている。厚労省、日本医師会、各分科会でも議論されている。本日は、上 准教授に概説をお願いした。

自己紹介
 平成5年東京大学卒、第3内科で研修し、血液内科医になった。虎ノ門病院を経て、国立がんセンターにて、がん対策基本法の制定の時期に、国の政策決定がどのように行われ、何が問題なのかを見ていた。その後、現在の東京大学医科学研究所に移った。IT革命すなわち情報化社会による医師の行動決定様式を研究したいと考えた。昨年「現場からの医療改革推進協議会」を発足し、フジテレビの黒岩祐治氏、民主党の鈴木 寛氏、舛添要一氏、林 良造東京大学教授などと議論を重ねてきた。

チェック&バランスによる自立的解決の実現-民間シンクネットからの対案提出
 チェック&バランスということで、みんなが知恵を出し合って対案を出すことを意図に活動している。
 6月8日開催の「第3回診療行為に関した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」において、前田座長は「届け出を義務化する。刑事がしっかり噛む。振り分けは医療が行う。というところまでは纏まったので、ここからは警察への通報のタイミングなど、突っ込んで組織に肉付けしていければと思う」と発言された。この発言について、ロハス・メディカルの川口氏の傍聴記録によると、「現場の医療者たちは第三者機関ができた後できちんと運用されるとは全く信じていない。・・・ 福島県立大野病院事件のような検察の凡ミスへの働きかけすらしない以上、第三者機関を作って調査と処分の権限を一手に握った厚生労働省が、きちんと正義を実現する保証など、どこにもないではないか」、それならば「検察へ働きかけられないのなら、第三者機関は厚生労働省の管轄外に置くべきである」ということが一つの対案である。
 福島県立大野病院の件についてであるが、業務上過失致死を適応することが通れば医療崩壊が起きる。我々は厚労省に陳情をと考えていたが、関連省庁の法務省が一番注意しているのはメディアと議員だという。また警察の厳罰化を主張する人が座長になっているのではという疑問があり、前田氏が座長になったことは、方向性が規定されたと思う。前田氏は刑法学者であり、実務経験・現場経験のない研究者で厳罰主義者である。刑法界ではかなり強い学説を持つ方である。
 世の中は、現在、総与党体制だと思っている。健全な民主主義ではないと思われる。悪循環が回るときには、チェックをしなければならない。厚労省案に反対しなければならない状況になった際、例えば日本医師会が反対を唱えたにしても、樋口範雄氏が日本医師会の「医療事故責任問題検討委員会」の委員長であり、厚労省の「診療行為に関連した死亡に係わる死因究明等の在り方に関する検討会」の委員に入っているということは、チェックのかからない状態である。日本医師会は本年5月に提出された答申の中に「提言II。今後とも謙抑的姿勢の伝統を矜持されることを強く要望する」とあるが、これは制度ではない。制度は、誰かが暴走しないように留めるのが制度であるからこれは提言になっていないと思う。「提言I。保健所への届け出をもってこれに代えることができる」とあるが、届け出先と行政機関を分けることが重要であるが、これでは保健所への届けと厚労省への届けは基本的に同じになる。
 厚労省の「診療行為に関連した死亡の死因究明等あり方に関する課題と検討の方向性」は、ある特定の方が知恵を絞って考えた素晴らしい案だと思うが、第三者から見ると問題点がある。厚労省案は病院と患者の間に利益相反が生じた場合に、病院は届け出義務がある。これを第3者機関でチェックをして司法・行政処分に振り分ける。この点の問題は、調査組織(公務員)は刑事事件報告漏れを恐れ、警察への届け出が増加する傾向が大になる事だ。行政処分の担当官は行政処分をすることが業績になるので、基本的にはポジティブフィードバックがかかる。一方、警察、検察から見ると、この国唯一の権威ある第3者機関からきたものは、捜査・送検せざるを得ない可能性が大である。厚生労働省の医療者専門部会から検察に上がった件を、検察が勝手に何もしないことはできない。これは検察処分がどんどん増えて患者・家族の不信感が増え、悪循環することにつながる。制度的に問題がある。調査組織が唯一絶対の評価を権威づけ、専門家の意見を阻害する。調査組織と行政処分者が同じであることは悪循環を廻すことになる。真相究明をしたいのは患者・医療者である。これらに対して「現場からの医療改革推進協議会案」では、不信感をどうしてもぬぐえない人は解明機関に届ける、解明機関は将来的には複数のものにしたい、解明機関は情報を患者・家族、病院に返す、患者・家族は民事訴訟、行政処分、刑事処分で医療者を告発したければすればよいのである。これを積み重ねれば患者・家族側のコミュニティにノウハウがたまってくる。患者・家族側は弱者であるので、支援するものをつくればよい。患者団体を強くする仕組みと行政側を強くする仕組みとは哲学が違っている。真相究明したいのならば、患者・家族・病院が主体的に解明の依頼先を選択し、解明機関への不服申立、他の専門家へ問い合わせをする。これが実行できれば、専門家が調査ノウハウをもち、互いにチェックを始める。結果を患者・家族・病院にフィードバックができる。
 それでは、医師法21条はどうするか。21条の考え方として、まず本質は「届出」ではなく「業務上過失致死罪」であるが、業務上過失致死罪があるから 21条の存在意義がある。一方、刑法の考え方としては、医療を刑事罰から除外できない (病院での殺人も捜査できなくなる)。警察としては、医療を刑事罰から除外しない限り医療を21条から除外できない。死体を解剖して異状を認めたとき警察へ届け出る義務規定には罰則がない(死体解剖保存法11条)。公務員の告発義務規定には罰則がない。医師法19条(応召義務等)の罰則規定は戦後、削除された。21条の罰則を削除すべきと主張するのが現実的だと考える。
 法案は役所が中心になって作成するが、アカデミアとして、対案を出して世間に問うのが民主主義ではなかろうかと思っている。

次第へ戻る

質疑応答

司会 出月日本医学会副会長:医師法21条については、いろいろな学会が声明を出し、学術集会でも取り上げている。日本医学会も髙久会長名で声明文を出した。この問題は医療の現場で大きな問題となっており、これをどのような形で収束させるかは、今後の医療にとって重大な問題だと思う。

日本心臓血管外科学会:話の中には、飛躍があってなかなか分かりづらい。例えば、第3者機関にすれば、警察に届けるのが増えるとかの話しがあったが、モデル事業の中では警察に届けるのを前提にしているが、実際は、モデル事業の3分の1は届けていない。警察が関与しないようにしようということが一つの目標であるから、上先生のおっしゃるようなことはまず無いと思う。
日本周産期・新生児医学会:結論は患者が主張すれば刑事告発が可能だと言うことでしょうか。
上東京大学医科学研究所客員准教授:患者も刑事事件では解決しないということはだんだん分かってきているので、運用が違ってくると思う。
日本周産期・新生児医学会:事故の究明をするのには、調査委員会なり鑑定を依頼したりすると思う。そのときに事故の原因はいくつかあると思うが、医師が誠実に診療を行った結果の力量の差などの線引きは難しい。それに対して刑事責任を問うと言うことになると、調査委員会で検討する医師は、問題点をはっきり指摘できなくなる。刑事責任を問われると、もっと高度な方法があるとは言えなくなってしまう。ここが問題だと思う。特別な事案以外は刑事事件に持って行くことを無くすようにしたい。また患者の権利は残すのだと言っていては前に進めない。
上東京大学医科学研究所客員准教授:戦略論から言うと、刑事責任は無くならないと思う。患者の刑事告発の権利を無くすことは出来ない。少なくするためには、コミュニケーションが最善である。刑事事件はもっと少なくなるべきで、それはメディアにも原因があると思う。市民への啓蒙も必要。
司会 出月日本医学会副会長:刑事事件になるのは日本だけである。外国で医療事故が刑事事件になることはない。21条の拡大解釈はすべきではないということを医療界は発言すべきだと思う。罰則をなくすというように変に妥協することはない。刑事事件にはなじまないことを現場では強く感じている。
日本消化器外科学会:国民から見た医療の不信へのイメージは、メディアにあると思う。いびつな報道があった際に、即、対応できる組織作りが必要だ。
日本医学会幹事:個人的には出月先生の考えに賛成する。医師の在り方が日本とアメリカとでは違う。アメリカが刑事告発されない根本の処には、Good Samaritan Lawがある。善意を持ってよほどの重過失で無い限り免責されると言うことである。ただしこれは民事には当てはまらない。国民全体の中にそういう考えがあってほしいと思う。また個人の責任を問うよりもシステムの問題を解決することによって再発を防ぐという考え方がアメリカにはある。この2つは学ぶべきと思う。
司会 出月日本医学会副会長:今の日本は懲罰主義で原因探求主義ではない。航空・鉄道事故調査委員会は原因探求主義になってきている。医療事故に対してもこのような方向に代わっていかないと再発は防げない。個人を罰しても予防効果はない。今の患者と医師の関係は、患者・家族が医療事故に遭ったときに、医師にリベンジするという風潮がある。マスコミを動かしてこのような風潮を修正していく必要があると思う。
日本輸血・細胞治療学会:21条の問題以外にも日本医学会が今後の医療をどのように変えていくかグランドデザインを打ち出すようなミーティングを継続するべきと思う。上先生の話には飛躍もありなかなかついて行けないが、一番大きいことは役所の委員会から案が出てくるのに対して、ある部分を賛成・反対ではなく、医療界の問題の解決策を日本医師会・日本医学会から提示していくことが大切であると思う。

次第へ戻る

5.その他

日本外科学会:今回の会が有意義だという発言があり、臨床をテーマにしている学会が集まった機会を嬉しく思う。今後、大きな方向性について、ぜひ、継続して発信出来るようにしていただきたい。この部会のフットワークが軽くなるような会を作って、具体的作業を前向きに、かつ日常的活動ができるようにしていただきたい。
髙久日本医学会長:臨床部会はこのままにして、10くらいの学会が頻度をもって集まり、日本医学会にご意見をいただくという会を作った方がよいと思っている。10の学会は基本的には会員数の多い学会になろうと思うが、会員数だけで決めるわけにはいかないので、内科学会と外科学会でご相談をいただいて、日本医学会に推薦いただければと思う。
司会 出月日本医学会副会長:髙久会長の言われるような運営委員会をつくる必要があると思う。相談をしながら、早急に立ち上げ、今後の運営を決定し、各学会にお諮りしたいと思う。
髙久日本医学会長:大野事件については、産婦人科学会から声明を出し、日本医学会からも声明を出した。今後、各学会で声明を出されるときに、日本医学会と共同で出す形のほうが影響も大きいと思うので、日本医学会に相談いただきたい。
日本神経学会:医療事故の問題であるが、外科関連でカテーテルが静脈で止まるべき処、深く入って死亡した方がいた。事故というよりも手技上の問題だと思うが、アメリカで同様な事故があり、3ヵ月から半年以前に使用文書が変更されていて禁忌と書かれていた。そのためこの件を不本意ながら事故として扱ったが、 警察では、業務上過失致死ということになり、その医師は1年間免許停止になった。2~3cmカテーテルが深く入っただけで、アメリカで事例があったということで、医業停止ということは遺憾に思った。一生懸命やってテクニカルのことでなく起こったことに関しては、日本医学会でプロフェッショナルな権利をどう擁護するかという迅速な対応をお願いしたい。
司会 出月日本医学会副会長:業務上過失致死を医師に適応することも日本だけの状況だと思う。外国ではまずありえない。グローバルスタンダードで日本の医療が動いて行けばと感じている。本日の議論されたことは、今後の運営に反映させていきたい。