研究倫理教育研修会

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議事要旨

第5回研究倫理教育研修会

総合討論Q&A

総合討論の質問、応答は下記のとおり。

北村日本医学雑誌編集者組織委員会委員長:それでは総合討論ということで、ご質問等をいただきながら進めたいと思いますが。最初の2題が日本医学雑誌編集者組織委員会からの発表でした。この最初の2題に何かフロアの先生方からご質問とかご意見はありますでしょうか。有田先生、Natureが買われてしまったというので非常に驚いたのですけれども。そのようなことで、まだ言い足りなかったことなどありますでしょうか。

有田正規国立遺伝学研究所生命情報・DDBJセンター長・教授:本日はあまり話せなかったのですけれども、皆さんにぜひいろいろしていただきたいことの中に、ねつ造とかの件もあります。たしか『生命科学クライシス』という非常に良い本が2年くらい前に出て、和訳も出ています。それをみるといかに再現不可能なデータが、アカデミックな論文として、しかも一流誌にたくさん発表されているかという現状が書かれています。それから、統計処理に関してもP valueばかり偏重されて、いかに誤解に基づいたアセスメントがなされているかということが書かれています。そういう最近のトレンドというのが非常に速いスピードで変化しながら、どんどんわれわれの研究であるとか、臨床の場に入ってきているということをわかっていただけたらと思います。
 参考になる本が『生命科学クライシス』という本と、少し前の『アカデミック・キャピタリズムを超えて』という本です。これはいかに研究大学がキャピタリズム、お金・資本主義の中に取り込まれてしまっているかを書いた本です。特にハーバードとか、イエールとか、アイビー・リーグ系の大学は、自分の大学のファンドだけで何兆円というお金を持っていて、そういうお金をもとにいかにブランド力を上げてアピールするかを考えています。そういう大学と、たとえば東大とか京大、基金の額で言うと全然足下にも及ばないのですけれども、そういう大学と同じようにやってしまおうと思うと資本主義の中なので太刀打ちできないという現状があると思います。以上です。

北村日本医学雑誌編集者組織委員会委員長:ありがとうございました。今まで研究者の善意のもとで出版は行われてきたのですが、最近はやはりお金儲けというか、儲け主義等が入っていて、研究者もそれなりの防衛ですね、積極的に攻める必要はないと思いますが、防衛をしっかりして、しっかりしたサイエンスソサエティをキープしていきたいなと思っています。それでは、日本医学雑誌編集者組織委員会にはご質問はないということで。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長/日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員:臨床研究実施並びに論文公表におけるCOI管理という点について、各分科会の状況、それからぜひこういう点に気を付けてやっていただきたいということで発表させていただきましたけれども。何かご質問はありませんか。所属分科会名とお名前をよろしくお願いします。

日本臨床検査医学会:日本臨床検査医学会の利益相反担当で参りました川崎医大の通山と申します。1つ利益相反関係でお尋ねします。日本医療機器産業連合会という業界団体があります。ここが今年度から、研究開発費とか学術研究助成等々の詳細を透明性ガイドラインに則って開示するという方針になったと聞いております。企業側が自社のWebサイト等で開示するとなりますと、研究費等の供与を受けた我々側ともしも整合性がとれないと、COI開示上不都合なことになります。
 日本臨床検査医学会でもCOI開示への理解と実践はそれなりに浸透しつつありますけれども、どちらかというとベテランの先生方の理解がまだ今ひとつという印象を持っています。特にそういう方が、ひょっとして透明性ガイドラインに則った企業からの開示に抵触するとよろしくないので、その辺りは何か注意喚起をしたほうがよろしいでしょうか。今回おそらく企業の代表者の方はこの場におられないと思いますが、企業サイドときちんと連携を取ったほうがよいのではと感じましたので、お尋ねしました。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長/日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員:今のご質問ですが2011年に製薬協が透明性ガイドラインを公表され、会員企業は2013年からのアカデミアへの支払額を公開しております。医療機器の団体も、製薬協と同じ透明性ガイドラインを採用したのですが、あまり危機感がなくて公開という点では非常に遅れており、臨床研究法施行により今回やっと医療機器関係の企業が公開を求めたということだと思います。先ほどの講演では、詳細に申し上げませんでしたが、製薬協関係の企業では、医師への提供金額の詳細が公開されていることから、ワセダクロニクルという民間組織がこの1月からWebでの検索エンジンを出しています。それは2016年度の製薬協参加企業のデータを全てデータベース化して誰でもがWebで検索できるようにしたということで。私の個人的な情報では、まだ医療機器関係の検索は可能でないと思います。しかし、おそらくデータがあれば同じシステムでデータベース化をすることができるのではないか。そういった意味で是非お願いしたいことは、COI申告はhonestを基本とし、医療機器関係との金銭的な関係があればきちんと自ら管理をして、開示をしていただくことがベストだと思います。

日本臨床検査医学会:ありがとうございました。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長/日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員:それでは次お願いします。

日本小児循環器学会:日本小児循環器学会の利益相反委員長の野村と申します。土岐先生のご講演の中で、学会役員等のCOIマネジメントにおいて5件の問題がある事例があったということですけれども。実際、COIのチェックはやっているのですけれども、これをどの段階まで……実際、役員のCOIの確認の段階を本当に具体的にはどのように皆さんやっているのかがなかなか私たちのところでも悩んでいます。実際、個人情報ともかなり関わってきますので、そうすると形式的に出された「COI無し」という書類をチェックするだけになってしまいかねないのです。でも、実際にそのチェックをやっていて、この高名な先生が「無し」のはずはないのだけれどもと思いながら、でもそれ以上はできないというところで非常に悩んでいます。実際、この5件がどのようにして出てきたのかということと、もう1つ、実際は本当にどこまで踏み込んで最初の役員のCOIのチェックをすべきなのかに関しまして、何かご助言をいただけたらと思います。

曽根三郎日本医学会利益相反委員会委員長/日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員:これは非常に各分科会ともに関心のある点です。土岐先生、お話ししていただけますか。

土岐日本医学会利益相反委員会委員:アンケートの自由記載の欄をみてあれを作らせていただきましたけれども。多くのところは非常に少人数、たとえば事務局1名、理事長1名みたいな形で、役員のCOIをみて、疑義があるケースはCOI委員長が直接本人に問われているケースが多いと思います。そういったことで、ああいった5件がピックアップされたものと思います。実際、6割の分科会は提出するだけで全くチェックしていない状況になっていますので、皆、本当に触るのが怖いというのが状況だと思います。

日本小児循環器学会:ありがとうございます。やはり私たちのところでも、私が委員長になってから単にチェックもできなかったのを、せめて見るだけでもという話で理事会をようやく通したのです。そうすると、そこでやはり個人情報に関わることなので、そこの段階の疑義があっても手を出さないという状況なのです。実際そこはすごく困ったなと思っているところなのですが、この辺は何か見解を。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長/日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員:コメントとして、COI管理ガイドラインは2011年に作成し、その当時はいわゆる個人情報で誰も知ることはできない状況だったのです。その後、製薬協が透明性ガイドラインの中で全ての会員企業は公開するということになっている。今の段階では、先ほどのワセダクロニクルのWeb検索も同じですが、誰でもがアクセスして、特定の医師がどれだけ企業から謝金をもらっているのかがわかります。そういう状況になってきた段階として、個人的な情報というよりは、公益性のある役割を学会は持っているし、役員は公益性の高い立場でおられるのだから、個人情報というよりはむしろ社会が共有する情報と認識して対応する必要があると私は認識しています。ですから、しっかりとCOI状態を把握されて、そこに齟齬があれば当該の役員の方にはぜひきちんと説明責任を果たして貰えるようにお願いしていただければと思います。

日本小児循環器学会:実はその言葉をお伺いしたくて。ここでそういう風に伺ったということで、私もまた動けるので、ありがとうございます。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長/日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員:それでは時間の関係もありますので。次に。

南学日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員長/日本医学会利益相反委員会委員:すみません、私もCOIでちょっと1個伺いたいことがあったのですけれども。アンケートで5つ申告のCOIがあったところの学会の対応として、1つCOIの解消という対象をとった学会があると書いてあります。私の理解ではCOIはあること自体が悪いのではなくて、それを開示して管理することが大事だと理解しているので、その解消という指導を学会がしたことが、ケースバイケースだとは思うのですが、適切だったのか、なぜその解消という指導になったのかというのは少し気になったのです。

土岐日本医学会利益相反委員会委員:それ以上は記載がありませんでしたので、むしろ曽根先生からお答えいただければ。COIの解消をしたというようにしか記載がありませんでした。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長/日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員:原則的に、COI解消という言葉は産学連携をさせないということであり、COI管理ではありません。役員であっても臨床研究をしている医師には、当然COIはあると考えていただいて良いと思います。それを開示しないというところに問題があるとご理解いただいて、企業から多額の報酬をもらっていればそれを開示するのは必要で、その事はむしろ産学連携に貢献しているという考え方を持っていただきたいなというのが私からのメッセージです。

南学日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員長/日本医学会利益相反委員会委員:ありがとうございます。すみません、お時間いただきまして。診療ガイドラインに関して何か先生方のほうからご指摘・ご質問等はありますでしょうか。

市川家國日本医学会連合研究倫理委員会委員長:是非お伝えしたかった事です。実をいうとEvidence-based medicineというのは、中山先生が取り上げられたことなのですけれども、特に日本においては米国の事情をかなり知っておかなければいけないと。それは保険医療制度に違いです。
 私個人の例から言いますと、今、南学先生が言われたヨーロッパのグループが最初に論文を発表したのが2001年頃のIrbesartanだったと思うのですが、これにLosartanの論文を含めて「Sartan系の降圧剤が腎臓保護作用がある」という2つの他の論文が同時にNew England Journal of Medicineに発表されました。当時、この臨床研究は私どもの動物実験からの特許に関係していたことで、私はメルク社のコンサルタントをしておりました。そのコンサルタントとしての経験から言いますと、企業は自身が販売する医薬品に関する臨床研究については、不利な結果を生みうるプロトコルには資金投入しない。たとえば、新しい鎮痛剤を売り出そうとする際、その新薬と古くからあるアスピリンとの効果を比較するプロトコルは採用しません。もし、アスピリンの方が優位という結果が出れば、大打撃です。自社が販売する以前からの鎮痛剤との比較はありますが。また自社の市販薬の適用量と同薬の少量との比較といった研究はされません。最近、たしかStanford大学のJohn Ioannidisという方が論文として発表しましたけれども、巷にあるエビデンスというものは企業に有利なものに偏っており、「エビデンス」という言葉自体、非常に企業にとって便利な武器として働いているというのですね。米国では保険医療制度において複数の会社が異なる保険を提供していて、それぞれ異なる保険料に応じた処方薬に限界を設けています。たとえばSartan系の降圧剤であれば保険料の高い保険ほど、医師が処方する際の選択の幅が広くなっている。ですから、もし、ドクターにはできるだけ最新の効きの良い(高価な)薬をも処方して欲しいと言う人は、そういう(保険料の高い)保険に入るわけです。
 そうした中では、加入している医療保険の保険料次第ではちょっとした付加価値のあるような薬は必ずしもドクターに処方させない。一方、日本の場合は国民皆保険の持つ傾向としては、少しでも効果のあるものを「エビデンスがあるから」と医師が処方する。それで日本ではエビデンスが効果を発揮しがち、米国ではエビデンスにブレーキがかかる。そういう違いがあるのですね。それはやはり中山先生が言われたように、エビデンス以外のものを使うという重要性の他に、エビデンスそのものの内容を見ておく、考える必要があると私は思います。それではどういうシステムでやったら良いかということを検討する、という問題が日本にはあるとは思っています。

中山日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員/日本医学雑誌編集者組織委員会委員:ありがとうございます。EBMとエビデンスの区別が重要になると思います。今の先生のお話は、臨床試験がどのようにされたかというように理解しました。
 Evidence based medicineの定義自体が、もうすでに先ほど私が申し上げたように複数の要因の統合です。第1に来るEvidenceはevidence、これはもちろん大事です。でも多くの場合evidenceは買われてしまっていると、大資本に買われてしまっている。EBMをきちんと実践している方々は、企業が関与した臨床試験のevidenceをうのみにはしません。2番目がexpertise(臨床家の熟練)、3点目がpatient value、4番目がcircumstancesという言葉がEBMの教科書には出てきます。Circumstancesというのは2つで、人間の身体の中のcircumstancesである患者さんの個別性・多様性と、患者さんが置かれている場のcircumstances医療を行う場です。EBMはその5つの要因を考えて意思決定をすることを求めています。
 ですから、アメリカの話が日本に当てはまらないのは、circumstancesを考えれば自然なことと感じます。今のガイドラインは、EBMの提示したそのような視点を議論しているものと私自身は認識をしています。企業が関与した臨床試験のエビデンスについては、私たちは非常に注意をしながら接しています。

南学日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員長/日本医学会利益相反委員会委員:貴重なご議論をありがとうございました。それでは研究倫理について市川先生のほうから最後の座長をお願いします。

市川日本医学会連合研究倫理委員会委員長:私に対して特にご質問があれば。だいぶ話題の内容からしても、気がかりなことも多いと思うのですが、答えられる範囲でお話しできると思います。何かご質問があれば。

曽根日本医学会利益相反委員会委員長/日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員:1つお聞きしたいのは、非介入の観察研究についてですが。臨床研究法の施行があって、5年前に厚労省で調べたときに介入研究の件数は24,000件くらいあったのです。それが今回たしか近々までに1,000件ちょっとくらいの特定臨床研究が認定されて動いている。単純計算すれば1/20くらいに臨床研究、特に介入研究の数が減っているという状況です。昨年からの製薬企業の動きというのは、介入研究はお金がかかる、臨床研究法でやると大変だということで、観察研究支援にかなり走ったという情報があります。そういう状況下の中で、その資金提供が寄付で行われているのでは?と思うのです。そういう状況の中で観察研究をどう位置付けるのか? 中山先生もエビデンスという意味で観察研究をいわゆる臨床的circumstanceおよび環境の中でとらえて、ガイドラインにいかに使っていくかというお話でしたが。エビデンス作りが介入研究から観察研究のほうに走っていってしまう。本来、診療ガイドラインの骨格となるエビデンスはやはり介入試験だと思うのですね、今後、信頼に足るガイドラインができていくのかという点について、先生方にちょっとコメントをいただけたらと思うのですけれども。

吉田雅幸東京医科歯科大学生命倫理研究センター長・教授:まず、非介入医学研究の利益相反管理については、臨床研究法での統一した管理に準じて適切に利益相反を管理する体制が必要であり、すでに厚労省での準備も進んでいるのではないでしょうか。従って、従来の奨学寄附金を資金源とする医学研究は、非介入研究でもあっても難しくなると思います。企業から援助をうけた医学研究では、共同研究あるいは受託研究という形で契約を交わし、透明性を図ることが求められると思います。

中山日本医学会連合診療ガイドライン検討委員会委員/日本医学雑誌編集者組織委員会委員:ガイドラインに関する観察研究の使い方は2つあると思います。ガイドラインが出た後でガイドラインがどれだけ現場で行われているかとか、それによってアウトカムがよくなったのか。ここはおのずと観察研究が当然出てくると思うのですね。それからもう1つは、ガイドラインの推奨を作るときに臨床試験のエビデンスだけではなくて、観察研究をどう使うかという議論が出てくると思います。
 でも、ここは先生がおっしゃるように非常に注意が必要です。いまリアルワールドデータ、ビッグデータといって注目されていますが、観察研究として当然いろいろなバイアスが含まれてしまっているわけです。そもそもいわゆるレセプト病名の信頼性の問題もあります。ですから、その大きな弱点があるのとともに、今度はプラスの点を見るとアメリカのRCTと日本の丁寧な観察研究のどちらの結果を尊重するかという、いわゆる直接性という考え方が関わってくるのですね。やはり日本国内の意思決定により役立つのはアメリカのエビデンスよりも日本のエビデンスだろうともいえるでしょう。バイアスと直接性、両方の視点でそれぞれのテーマで慎重に勘案する必要があるのと思っています。
市川日本医学会連合研究倫理委員会委員長:それ以外にございますか。最後は飯野先生にコメントを含めてマトメのお言葉をお願いしたいと思います。