お知らせ

「事実を歪曲した朝日新聞がんペプチドワクチン療法報道」

平成22年10月29日

日本医学会
会長 髙久史麿

 2010年10月15日の朝日新聞朝刊1面に、『「患者が出血」伝えず 臨床試験中のがん治療ワクチン 東大医科研、提供先に』と題する記事が掲載されました。

 記事は、東京大学医科学研究所附属病院での「がんワクチン」臨床試験中に、膵臓がんの患者さんに起きた消化管出血が、「『重篤な有害事象』と院内で報告されていたのに、医科研が同種のペプチドを提供する他の病院に知らせていなかった、また医科研病院は消化管出血の恐れのある患者を被験者から外したが、他施設の被験者は知らされていなかった、と報じるものでした。一般の読者がこの記事を読まれた場合、「東大医科研が、臨床試験でがんワクチンが原因の消化管出血が生じているにもかかわらず、他の施設に情報を提供せず隠ぺいした」という印象をお持ちになられると思います。

 しかし医学的真実は異なります。医科研病院が情報隠蔽をしていたわけではありません。

 まず、この臨床試験は難治性の膵臓がん患者さんを対象としたものであり、抗がん剤とがんワクチンを併用したものでした。難治性の膵臓癌で、消化管出血が生じることがあることは医学的常識です。当該患者さんも、膵臓がんの進行により、食道からの出血を来していました。あえて他の施設に消化管出血を報告することは通常行われません。さらに、この臨床試験は医科研病院単独で行われたものであり、他の施設に報告する義務はありませんでした。以上から、医科研病院が情報隠蔽をしていたわけではないことがわかります。

 さらに記事には問題があります。それは、日本のトップレベルの業績を持つ中村祐輔教授を不当に貶める報道内容であったことです。

 2010年10月15日の朝日新聞社会面は、「患者出血「なぜ知らせぬ」ワクチン臨床試験協力の病院、困惑」「薬の開発優先批判免れない」となっています。本文中では、中村祐輔教授が、未承認のペプチドの開発者であること、中村教授を代表者とする研究グループが中心となり、上記ペプチドの製造販売承認を得ようとしていること、中村教授が、上記研究成果の事業化を目的としたオンコセラピー・サイエンス社(大学発ベンチャー)の筆頭株主であること、消化管出血の事実が他の施設に伝えられなかったことを摘示し、「被験者の確保が難しくなって製品化が遅れる事態を避けようとしたのではないかという疑念すら抱かせるもので、被験者の安全よりも薬の開発を優先させたとの批判は免れない」との内容が述べられています。

 しかしながらこの記事の内容も誤っています。中村祐輔教授は、がんペプチドワクチンの開発者ではなく、特許も保有しておらず、医科研病院の臨床試験の責任者ではありません。責任を有する立場でない中村祐輔教授を批判するのは、お門違いであり、重大な人権侵害です。

 この記事の影響により、関係各所のみならず多くの医療機関に患者さんやご家族からの問い合わせが殺到しました。
 新たな治療法や治療薬の開発は、多くのがん患者さんにとって大きな願いです。しかしながら、誤った報道から、がん臨床研究の停滞や、がん患者さんの不安の増大が懸念されます。

 以上の理由により、日本医学会は日本癌学会ならびに日本がん免疫学会の抗議声明を支持します。


参考:
 朝日新聞の記事(10月15・16日)に関して-がん関連二学会からの抗議声明-
 http://www.jca.gr.jp/public/asahi.html

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