「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止の在り方に関する試案-第三次試案-」に関する日本医学会の見解
平成20年6月5日
日 本 医 学 会
会長 髙 久 史 麿
平成16年9月に発表された「日本医学会加盟の主な19学会の共同声明『診療行為に関連した患者死亡の届出について~中立的専門機関の創設に向けて~』」の声明の中で、医療行為の過程で予期しない患者死亡が発生した場合に、現制度による所轄の警察署への届出に伴う医療現場の混乱を解消し、かつ異状死に関する適切な医療評価が行われるような新制度の確立、すなわち診療行為に関連した患者死亡が発生した場合に、中立的専門機関に届出を行う制度を可及的速やかに確立すべきであることが提案された。
日本医学会もこの提案を支持してきた。したがって厚生労働省が提案している死因究明制度の設立には、日本医学会は基本的に賛成であり、その制度が確立された時には積極的に関与することを躊躇するものではない。しかし2007年10月に公表された本制度に関する厚生労働省の第二次試案には、余りにも問題が多く、日本医学会として様々な修正を要求してきた。その後2008年4月に公表された第三次試案は、第二次試案に対する日本医学会を含めた様々な関係者からの修正の要望を大幅に取り入れられたものであり、この第三次試案を作られた関係者の方々のご尽力を高く評価するものである。
第三次試案の報告を受けて、日本医学会は2008年4月に第三次試案に関する意見を、日本医学会加盟の105の医学会に求めた。このアンケートに答えたのは、52学会であった。その結果は、第三次試案に対して、賛成35学会、条件付賛成7学会、反対5学会、その他の意見3学会、棄権2学会であった。
なお条件付賛成、並びに反対の学会から第三次試案への疑問として、司法当局の対応、届け出の範囲、行政処分の実施方法、調査委員会の設置場所、とくに重大な過失の範囲、なかんずく救急医療の現場における対応、現在存在する院内調査委員会との関係など明確にしなければならない数多くの問題点が指摘された。
日本医学会は、我が国において深刻化する医療情勢に大きな危機感を抱いている。その一つの要因として、医師法21条による診療関連死の警察届出、さらには担当医師の刑事訴追などの問題が挙げられる。その結果、産婦人科、救急、外科などの医師不足が進み、さらには萎縮医療が日常化することとなり、患者の不利益が生じているのである。日本医学会は、この問題を早急に解決し、患者と医師の信頼関係を再構築し、医療現場に安全・安心な医療を一日も早く取り戻すことを願っており、そのための努力を続けている。現在、日本医学会加盟学会もそれぞれ同様な観点から活動しているところではあるが、今回、第三次試案に対する日本医学会全体としての意見を集約することが必要であると判断した。そこで、加盟105学会に対して意見を聞いた結果、第三次試案の基本的な方向性について賛成であることで一致したので、ここで公表するものである。特に、賛否の回答では反対と表明した学会においても、総ての学会の理事長等から死因究明のための第三者機関の早急な設置には何れも賛成で、設置された場合には協力を惜しまないという積極的な意見が出されたことを付け加えたい。したがって、日本医学会として死因究明制度の設置を強く望み、新制度構築に積極的に関与し、設置された時にはその運営にも積極的に協力することを表明するものである。
なお第三者機関が設置された時、その運営に当たっては様々な問題が提起されることを考えると、第三者機関設置の法律の施行後3~5年以内にその内容を見直すことを強く要望するものである。